派遣勇者、派遣勇者と出会う。
「とりあえずあたしが知ってることを話すわね。[冒険者]と[騎士]の違いは知ってる?」
「知らん、教えろ」
蒼い髪の女に連れられて、俺はいまとある酒場の一角にいた。
席に座るや否や、アマカワは自分の知っていることを話し始めた。
有難いことにビールまで奢ってくれたーー一切飲むつもりはないが。
「冒険者ってのはギルドから発注された依頼をこなし、生計を立ててる人たちのことを言うわ。ギルドに問題の解決を依頼する依頼者がいて、ギルド側はそれぞれ状況の解決の難しさの度合いによって、クエストを出すの。そのクエストを達成できれば、報酬が発生する。ただ、冒険者のレベルによっては難しい依頼は受けることすら出来ないから、最初は簡単な依頼を地道に数多くこなさないといけなくなるわね。ま、自分が好きなときに仕事ができるから、自由度は一番高いわ」
アマカワが長々と俺に説明をしてきてくれた。まあ、この辺はなんとなくゲームで知っていた。
というか、そんなことよりも、美少女が俺の相手をしてくれているという状況に、いまは非常に満足をしている。
高校を卒業してから母ちゃん以外の女子と喋るのなんて久々だしな。
ーーというか、いつかキャバ行きてえ。
「で、次は騎士ね」
言って、アマカワが近くにあったビールを飲んだ。
異世界が何歳から酒を飲んでもオッケーなのかは知らんが、俺の見立てだとコイツは18歳か19くらいだ。いってても、20歳前後か。
まあ、個人的には未成年の方が嬉しいかな。触りがいがある。
「騎士はさっき見たでしょ?」
「あー、なんか歓迎されてたな。偉そうにしてたけど、そんなにすげぇのアイツら」
気に食わなかったので、ぽりぽりとつまみを食べながら言うと、アマカワは不快感を滲ませた。
「そりゃスゴイに決まってるでしょ。この国を守ってくれているんだから。彼らがいなければ、魔物から国を誰が守るっていうのよ」
「自分の身は自分で守ればいいじゃねーか」
「……それもそうだけど、騎士のみんなは命がけであたしたちを守ってくれているのよ? いまはこの国が平和だからいいけど、世界の情勢はいつだって不安定。隣国がいつ裏切って、こちらに攻めてくるのかもわからない。だから、そういう発言はやめてよ」
「うるせえ。俺に口答えすんな。とっとと、続きを話せ」
長文マジレスされたので、適当に返答しておく。
正直、国の情勢とかはよくわからんし、俺は自分だけが幸せならどうでもいいと思う人間だ。この国がどうだろうが、所詮は異世界なんだから肩入れする必要もない。
「で、騎士についてなんだけど、騎士は国の王である
ーーほーん、超エリート集団ってやつね。
「国に仕える人間たちだから、お給料は毎月定められた額をかなり多く貰えるらしいけれど、生活の自由度は一番低いわね。お城に住んで
クソ社畜のような気もするが、要は国家公務員というやつなのだろう。高い給料を毎月のように貰えるのは一流企業に勤めているからこそだな。
活躍に応じてそれなりのボーナスも支給されていそうだし、お城に住むってことは飯も豪華に違いない。それになんていったって、モテる。
ーーあー、なんていうか羨ましいね。住む世界が違いすぎて、何も言えんが。
「じゃあ、勇者ってのはなんだ?」
「そうそう。そこよ。……これ、要らないなら貰ってもいい?」
「よく飲むよな、お前」
「お酒好きなの。それに『せっかくだから一杯やろう』って誘ってきたのはアンタじゃない。これも、あたしの奢りなんだからね?」
「はいはい。なら、飲めよ」
乱暴に差し出すと、アマカワが「もー……」とちょっと拗ねたような顔をした。髪をかきあげて、俺のビールのグラスに唇をくっつける。
ーーうし、関節キッス成功と。
腹の底で笑う。
コイツはどうしてかお酒が好きなようで、真昼間から呑んだくれるおっさんのようにグイグイといっている。
いけいけ、もっと飲め!!
さっさとコイツを酔わせて、宿屋に連れ込み、ワンナイトラブを決行してやるッッ!! これで晴れて童貞卒業だ!!
「ギルドからの依頼を受けるのが[冒険者]で、国から依頼を受けるのが[騎士]なら、勇者はそのどちらでもない。勇者って聞くと、魔王の討伐が思いつくじゃない? でも、それは過去の遺物。国が発展してからは魔王なんてものは伝説上の存在になった。勇者ってのは正確には肩書きだけで、職業としては存在していないのよ」
「は?」
急に理解ができなくなった。
じゃあ、なんなんだよ【派遣勇者】ってのは。なにを派遣してなにをする仕事なんだよ。
「意味わからん。勇者って職業がないのに、なんで俺たちが【派遣勇者】とやらに選ばれているんだよ? というか、電話だと『派遣勇者派遣センター』みたいな場所があると聞いたぞ。それはどこなんだよ」
まくし立てるように聞くと、アマカワは少しだけ困ったような表情を見せた。
「あたしだって詳しくは知らないわよ。指令は『黒スーツの猫背の男と会え』ってだけだったし。大体、あたしもアンタと出会う前までは冒険者として日銭を稼いでいたんだから。あと、この国の人たちに【派遣勇者】について尋ねても、みんな知らないっていうのよ。おかしいでしょ? だから、アンタに会えばなにかわかると思ったんだけど……」
「なんだよ、俺のせいって言いたいのか? お前が先に異世界に来たんだから、ちゃんと社員に会うなりして、情報収集しておけよ。役に立たねーな。それでよく俺の前に出てこれたな? 全てを知ったようなツラしやがって」
ケッと一蹴して、アマカワを詰める。
せっかく情報を得られるチャンスだったってのに、これだから女は困る。
「……ごめん」
アマカワが目を伏せた。
ビールをチビチビと飲んでいる。
いい調子かもしれない。
最初はなんだか偉そうな女だと思っていたが、やっぱり中身はただの女だ。
この手の女は屈服させるに限る。
女は嫌いだ。大嫌いだ。
学生時代からずっとコイツらを憎んでいた。
勇気を出して告白したのに、後日それをクラスの連中に言いふらして、笑い者にした上に、最終的には俺の一番嫌いだったチャラ男とデキ婚した女。
こっちがせっかく落ちていたペンを拾ってやったってのに、受け取ることを拒否して、泣き出した女。
なにもしていないのに、罰ゲームと称してわざと告白してきて、困惑する様子を取り巻きにムービーで録画させていた女。
その気もないのに連絡先を交換してきて、こっちがメールをしたらその後はすぐに着信拒否してきた女。
近くにいるだけで避けるような真似をした女。
優しいだけの男に媚びを売って、俺に対しては鼻で笑うような対応をしてきた女。
口うるさい女。
馴れ馴れしい女。
偉そうな女。
世話焼きの女。
泣き虫な女。
あざとい女。
みんなみんな嫌いだ。大嫌いだ。
こんな奴らのことを俺は信用しない。
デートの誘いを有耶無耶にしておいて、他の男と遊びに行ったことをSNSで報告するような奴らだ。
私服がダサいと笑うような連中だ。
髪型がダサいと笑うような連中だ。
顔面がキモいと笑うような連中だ。
「二次元に恋してそう(笑)」とレッテル貼りをするような集団だ。
お前らは、隣で俺が寝たフリをしていたことにすら気付かずにガールズトークという名の悪口をブチまけていたよな。
ごめんな、聞いていたんだよ。
俺のことを『一生独身の陰キャラ童貞』だって言っただろ?
あの発言がどれだけ傷ついたか、お前らにはわかるか?
まー、もう七年も前の話だから、覚えてねーだろうな。いじめと同じで、言った本人はすぐに忘れちまうから。でも、言われた方はいつまでも覚えているんだよ? 残念ながら。
よくそっちから挨拶をしてくれたから「こんな俺にも」とかちょっと舞い上がっちゃったけど、いやーホントにこっちがバカだったぜ。
ああ、一生覚えておいてやる。
だったら、そんなゴミみてぇな奴らを、性のはけ口にしても問題ないよなぁ?
所詮はお前らなんか、男の力には敵わない雑魚だろ。
黙って股だけ開いておけ。
ーー異世界だろうが、派遣勇者だろうが、そんなことは知ったことか。
いま俺の目的はこのアマを酔わせて、童貞を卒業することだけ。
ていうか、こんな美少女と酒を飲めるだなんて、またとない機会だろぉ!?
「まー、そのうち社員の方から連絡くるだろ。知らんけど。とりあえず、飲むか! もう一杯やろう。すいませーーーん!! こっちにビールおかわりもう一つ!」
異世界なんてことを忘れて、人の奢りとゴリラの金で酒を嗜む俺。
結局、その日、アマカワが泥酔する夕方までその酒場にはいた。
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