派遣勇者、街へ行く。
「ここが街へのィり口だウホ」
「サンキュー」
翌日。またしてもエドの背中にお世話になった俺は、森の出口まで来ていた。
まあ別に行く宛てがないからここにいても良かったのだが、エドのやつがしつこく『街へィった方がィィ』と勧めてきやがったので、こうして足を運んだしだいである。
俺も当初は『髪も服もボロボロで浮浪者に見られるからヤダ』とダダをこねていたのだが、エドが森で拾ったという金貨を渡してくれたので気が一変。
今はすぐにでも街へ行きたいという気持ちになっている。
だって、考えてみろよ? 白い喋るゴリラだぜ? そんなやつといつまでも住めるかよ。
街にはおんにゃのこだっているんだぜ。男ならどっちを選ぶって話だよ。
はっはっは、すまんな。エド!
俺はクズだからお前を置いていくぜ!
金さえありゃなんでもできるーーそんな虚勢を張りつつ、本当はエドと別れるのがちょっとだけ寂しい俺だった。
「いいのか、本当に? もう行くぞ?」
「ィィよ。ボクはずっとここで一人で住んでィたから寂しくはなィウホ!」
「行かないのか? 一緒に旅をしようぜ?」
「ううん。ステキなお誘ィだけど、これはカケルの冒険だウホ! ボクは関与しなィ」
エドがそういって、少しだけ俯いた。コイツもなんだかんだで寂しいのかもしれない。
「……」
「……」
俺にもっと度胸がありゃ、エドを無理やり連れ出して、なんかカッコいいセリフを吐いていたことだろう。
だけど、そんな力は自分にはない。
つい先日まで引きこもっていただけの糞ニートだ。むしろコイツの生活のお荷物になるだけだろう。
これ以上、コイツに迷惑はかけられない。
散々親に迷惑をかけてきた俺が言うのもなんだけどな!
「わかった。じゃあ、行くな。金をくれてサンキュー。機会があればまた会おうぜ。たまには顔を出すと思うから」
「あ、ちょっと待ってくれウホ」
振り向いて背中越しに片手をあげる、あの格好いいポーズを取ろうとしたのだが、エドに止められる。
ーー締まらねぇな。
「なんだよ」
「これを」
見ると、エドが腰巻の辺りからなにかを取り出してきた。
そのまま手のひらの上に乗せる。
え、金◯かコレ!? 金○だよなぁ!?
ソレは光り輝く黄金の玉だった。
「こ、これは」
「ボクもわからなィ。でも、とても綺れィだよ。昔、この森で拾ったんだボクの宝物なんだウホ」
「へ、へー……」
「カケルにこれをあげる」
いや、こんな金◯なんて要らねぇよ!ーーと言い返したくなったが、黙って受け取ることにした。
質屋に入れれば、高くつくかしら。
「ホントはねィ、魔法人族と人猿族の接触はしきたりで禁止されてィるんだよ。でも、カケルは堂々と入ってきて、ボクの話あィ手になってくれた。こんなひとはじめてだ」
「そ、そうだったのか」
別に入りたくて入ったんじゃねーんだけどな。
というか、禁止されてたのかよ。それなら、早く言えよ。
ーーだったら、もう会えないじゃねーか。
「ボクは君ィに会えたことをィっしょう忘れなィ。君ィとご飯を食べて、星を見たことをィつまでも忘れなィ。君ィみたいな素晴らしィ人間と友達になれたことを絶たィに忘れなィ。感謝してィるよ」
「いやいや、そんな、改まらなくても。礼を言いたいのはこっちのほうだし」
「君ィなら、大丈夫だよ。カケル。会えなくなっても、ボクたちは友達だ。ィつも、心では繋がってィるよ。これから大変かもしれなィけれど、遠くへィっても頑張ってね」
「エド……」
ゴリラ、お前、消えるのか……?
ガンガン死亡フラグを立てているエドが、金の玉を指差す。
「あ、それと、その玉には
「良いこと……?」
「うん。とっても、ィィことだ」
意味深なことをいってやがる。
なんかよくわかんねーけど、良いことが起きるんだとよ。
じゃあ、質屋にいれるのはよしておく。お守りにする。
「ありがと。なら、大切に持っておくわ。色々と楽しかったぜ! エドワード」
「ボクもだよ、ハセ・カケル」
最後は流暢に話したエドと握手を交わして、俺は金タ○をスーツの内側に入れて、森の出口へと足を動かした。
「エド、俺ーー」
直前、少しだけ寂しくなって、振り向いたが、もうそこに彼の姿はなかった。きっとまた森の中へ帰っていったのだろう。
心臓が痛むのを抑えてから、唇を強く噛み締めながら、また俺は歩き出す。
喋る陽気な白ゴリラ、エドワード。
ーーお前のことは忘れない。
「……」
あーーーーーー、それにしても、昨日からロクなもん食ってねーから腹減ったってええええええええええ!!!! ぶっちゃけバンメシは『ふつうにうまい』とか言ったけど、あんなので大の大人の腹が満たされるわけねぇだろぉぉぉぉぉ!!!! しかも、ほら穴めっちゃ臭かったしぃぃぃぃ!!!! エドも結構臭かったしぃぃぃぃ!! スーツもボロボロだし? 服も着替えたいし? あとすっげぇーーー風呂入りたいんですけどぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!!!!!!!!!???
※ ※ ※ ※ ※
しばらく歩くと、街へと到着した。
街は中世ヨーロッパ風の景色になっていた。
ゲームやラノベでよくみるような街並みだーーという表現は使い古されていて飽きられているとは思うがーーせっかく異世界に来たのだから、敢えてもう一度だけ言っておく。
ゲームやラノベなどでよくみる街並みだ。
「……つーか、人多すぎだろ」
俺はいま街のハズレに立っている。噴水みたいなところで子供が遊んでいる。
狩人みたいな格好をしたおっさんが、腰に剣を差しながら、ベンチに座っている。休日なのかしら。
ボロボロのスーツのまま、トボトボと道をいく。
通りが見えてきた。
レンガ造りの建物。大きな協会。
道路の真ん中を走っていく馬車。
騒がしい酒場。緑の空。
おいおい、ようやくここにきて、異世界感溢れる場所に到着したのかよ。
いや、まあ、だからといって、気持ちが高揚したりはしないけども。
というか、人がたくさんいる場所に来ると、余計に帰りたくなる気持ちが増してくる。
あー、なんかダルい。
風呂入って寝たい。誰にも会いたくない。ゲームしたい。アニメみたい。
「はぁ……」
どデカイため息を零していると、どこからかカランカランと大きな鐘が鳴る音がした。
群衆ができている。
「なんだ?」
気になったので行ってみることに。こういうイベント毎は顔を出してりゃ、なんかいいことあるだろ。
あれ、そういや、俺、なにかやらなきゃいけないことを忘れているような気がするんだけど……まぁいいか。ダルいし。
× × ×
広場に着く。
人混みに紛れつつ、なにがあるのかを確認するため、背伸びをした。
目を凝らすと、前方にはなにやら大名行列みたいなものが作られていた。
鎧を身に纏った男たちが、闊歩している。
「ケミス様ー!!」
「ファーレンー!」
「団長ぉ!」
「成果はどうだったんだー!?」
「魔獣の群れは討伐できたのかー!?」
「【
途端に周りの人たちが騒ぎだした。あぁ、なるほど。コイツら全員ファンか。出待ちね、出待ち。
つーことは、アイツらはこの世界でいうところのジャ○ーズみたいなもんか。
……いや、でも、野党みたいなヤジもあるな。
「「キャーーー!! ケミス様ー!!」」
馬にまたがった男たちに、若い女が悲鳴をあげている。
ーーうるせぇよ、品がない女は嫌いだ。
一応、どんな男が人気なのかを見ておきたくて、顔を上げる。
そしたらいるや、いるや、イケメン祭り。濃いヒゲのダンディなおっさんや、白人の金髪男がこっちに手を振っている。
マジで、アイドルみたい。
「……チッ」
イケメンは嫌いだ。あいつらは美人を独占をするから気に食わねぇ。少しくらいは分け前をよこせってんだ。
ちょっとばかし顔がよくて、運動ができて、学歴があって、収入があって、性格がいいからってチョーシに乗ってんだよ。女っつーのは、スペックが高い男にしか興味がないからな。まあ、男も顔だけで女を選ぶけど。
つまり、俺みたいな顔も悪く、頭も運動神経も悪い、性格の悪いニートはどこに行っても相手にされないわけさ。
「……誰だよ、アイツら」
死ねよ、と内心悪態をつきながら、踵を返す。
やめだ、やめだ。他の場所に行こう。
人の少ない宿屋で、風呂入ってさっさと寝たい。
「《
と、誰かに話しかけられた。
俺の隣には一人の少女が立っていた。眉の吊り上がった目に、頭にはフードを被っている。腰に手を当てながら、俺に偉そうな口調で説明してくる。
は? なんだ、こいつ?
やけに馴れ馴れしいな、おい。
「あっそ、俺には関係ねー。つーか、誰だよ、お前。あっち行け」
うるさい女は嫌いだ。
さっさとどっか行け。そこら辺のイケメンに抱かれて、勝手に幸せな生涯でも送ってろ。
俺に構うな。
「うるさいのはどっち? いいから、ちょっと来て」
「え? は??」
女に腕を引かれる。
こんな経験がないので、ドキドキしたーーとまでは言わないが、状況が状況なだけあって、怖かった。
なんだよ、変なツボとか買わせる気?
「早く歩いて。他の人に見られたくないから」
「ちょ、急になんだよ!? 俺、金なんて持ってないぞ!?」
見ず知らずの女に手を引かれて、人気の少ない道路へと出る。
見られたくないってどういうことだ。俺と歩くのがそんなに恥ずかしいのか!?
ある程度群衆から距離を置くと、女が「……ここならいいわね」と呟き、手を離した。
被っていた、フードを脱ぐ。
「あ」
ーーその瞬間、俺は思い出した。
おっさんの指令のことを。
「アンタでしょ? 黒のスーツを着た猫背の男ってのは。あたしはアマカワ・ミライ。アンタと同じ【派遣勇者】よ」
肩まで伸ばした蒼い髪を振って、顔を見せてくる女。
まさかだった。ずっとゴリラの顔ばかり見てたから、絶対ゴリラみたいな女が登場すると思ってた。
それが俺の前に現れたのは、普通にドチャクソタイプのーー美少女だった。
……おいおい、マジかよ。
これは、ワンチャンあるんじゃね?
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