ハッセン飯店の人肉饅頭 ③
軽食屋を応援するべく、テーネ達一座も買い物をしている。メイン商品の肉饅頭は店そのものへの導入になるが作り置きが限られるため、彼らは利益率の高い飲み物を軸に買っている。
「今日は掻き入れ時なんだけど……」
競鳥の巡業があるということはそれ目当てで外のお客さんも来るはず。つまり今日は儲け時でありあの夫婦ならば絶対逃さないタイミング。だが、従業員の少女はそこまでノウハウがあるわけではないためか、今日は店を開いていない。
お茶でも飲んで帰ろうとして軽食屋に寄ったのだが、催しものがある時は店も開いているという感覚がしっかり沁みついていた。
劇場に変えると、座長もお見舞いから帰っていた。心配が募っていたテーネは彼の顔を見るなり夫婦の容態を聞いた。
「どうでした?」
しかし座長はうかない顔をする。よほど状況が悪いのかと彼は思ってしまった。
「それが……入院してないと」
「え?」
入院していると思わしき病院に行ったが、そこでは無かったらしい。たしかにどの病院に入院したかまでは聞いていないが、この辺りで入院設備のある病院はあそこだけだ。間違えるはずもない。
(どういうこと?)
テーネはしばらく考えた。症状が悪化する前の予防的な手術ならば、もしかしたら遠くの病院かもしれない。しかしそんなところに行くとなれば旅費も掛かる。テーネの様な戦闘能力を持つ者ならまだしも、加護を持たないと魔物と出くわした時に危険でギルドに護衛の依頼を出す必要がある。護衛中に他の依頼が出来ない分も考慮して報酬を払い、バスターの旅費も負担せねばならないためそれだけでも相当な出費だ。
少なくとも一般人に出せる額ではない。こういう時は定期的に出る旅団に入るか、自らバスターになって身を守れる様になるかが基本的な選択だ。
(また今度、どこの病院に行ったか聞かないと……)
テーネはそこを聞いてみることにした。店番の少女なら何か知っているはずだ。
数日後、テーネは軽食屋で少女に夫婦の入院した病院を聞いた。
「どこに入院したかって?」
「はい。多分あそこかなぁって思ってるんですけど、念の為に」
もちろん座長がお見舞いに行ったことも伏せて。
(いいですかみなさん。座長がお見舞いに行ったことは内密に。あの子がお店を支えてくれてるでしょ? だからサプライズをしたくてボクがやり取りしてることがバレない様に)
一座のみんなにはそう言ってある。
(座長、この件は内密に。うちの芸には失敗が危険に繋がるものもあります。みなさんはとてもお世話になっているので、不穏なことがあれば集中を乱してしまうかもしれません。みなさんの技量はよく知っており信頼もしていますが、念のため出来る安全措置はしておきたいのです)
一方で座長にはこう言ってある。これにより一座では店番の少女に感謝のサプライズをするためテーネがあれこれしてることになっている。
「そうそう、あそこよ。セントガーゴイル病院」
少女は座長が行った、街の大きな病院をあげる。だが、テーネは即座にある紙を突き付ける。
「公式回答状。いないんだよ、あそこには」
それは問われた情報に対して公の立場で答え、それにお墨付きを与える公式回答状というもの。名簿などの複写が困難、かつ公的機関の者でない個人に原本を渡せない故に生まれた制度だ。責任者しか持たないスタンプもある。
「……」
少女はしばらく押し黙る。そこから、搾り出す様に起死回生の手を出す。
「ほ、ほら……心配かけたくないから入院先教えてくれなかったの。どこの病院にいるか、私も知らないんだ」
いい感じに回避されてしまった。その時、見知った人物がやってくる。
「質屋さん?」
それは街で質屋を営む人物。質屋とはモノを担保に金を貸す店である。
「これをお返しに……」
彼が持っていたのは、テーネも見たことのあるピアス。奥さんの付けていた魔除けの品だ。
「これは……」
婚姻に絡んだ大事な品であり、これを手放すとは考えにくい。遠くの病院へ行く旅費の足しなのか、でもこんな大事なものを手放すくらいなら近くの病院に入った方がいい。いくら心配をさせたくないとはいえ、これを質にいれてしまったら今度は質屋が心配する。
矛盾が見え、ほころびが始まっていた。
殺戮のテーネ バスターサーガ 級長 @kyuutyou00
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