連合軍、結成?

 テーネは安寧の地を求め、世界を旅している。その旅路は大陸を超え、様々な文化に触れる機会がある。

「ようこそ、我らが連合軍へ」

 彼がやってきたのはとある大陸。帝国へのレジスタンスを募集しているとのことで、ここで活躍すれば恩赦が得られるのではないかと踏んで参加した。基本死にたくないので戦いを避けるテーネだが、リスク管理を徹底して戦った方が得だと思えば遠慮なく刃を振るう。

「我々レジスタンスはガルシリアス帝国の皇帝を討ち、四元素の水晶を解き放って世界を平和にすることだ」

 レジスタンスのリーダーである美形の男が募集に集まった新しい参加者に改めて連合軍の説明をする。その細身で、バスターの加護を持たずにどうやって振るうのか分からない大剣を背負っているツンツンヘアーの男がこのレジスタンスを組織した。

「大陸が異なっていても、この脅威は世界共通だ」

「なぜだ?」

 黒ずくめで複雑そうな武器を手にした狩人がその訳を聞いた。国同士の戦いが海を超えることは基本ない。優れた海軍を持っていても、海を挟んで遠方へ攻め込むのは難しいからだ。テーネも最新の外輪船に乗って来たが、ここまでひと月近く船に揺られる羽目となった。

「それはだな、ルッツのファージがコクーンでパージェングするからだ」

「なんて?」

 さも常識の様にリーダーは言うが、何一つ単語が理解できない。流石にテーネも聞き返す。

「だからな、ルッツのファージが、コクーンでパージェングすると世界が危ないんだ」

「その、ルッツって……」

「ルッツっていうのがいてな、そのファージがコクーンってところでパージェングすると世界が危機に陥る」

「あ! もしかして四元素の水晶と関係が?」

 テーネは何とか理解できる単語にとっつくが、どうも違うらしく首を横に振られてしまう。

「いや、あれは帝国が奪った大事な魔力の籠った水晶だ。奴らはただの綺麗な石だと思っているらしいがな」

「ええ……」

 もう先のルッツ云々に引っ張られて何が何やら。大陸を渡ると文化が変わって大変だなぁとテーネはこれからの生活に不安を抱いた。一応、バスターの加護や魔の加護、魔物や魔王の存在は大陸を跨いで共通の価値観であるはず。

 その時、龍の装飾が施された鎧を着こんだ戦士がその辺にあった樽を破壊した。

「ちょ、何してんの?」

「え? ほら樽は割らないと……」

 リーダーが咎めるも戦士はいつもやっていますと言わんばかりに堂々としていた。樽は空っぽだが、容器としての使えなくなってしまった。

「まぁいい。それでその水晶が割れると大変マズイ。風の水晶が割れると空気は留まり、水の水晶が割れると波は立たなくなり、炎の水晶が割れると火は生まれなくなる……土の水晶が割れると大地は息吹を失う。そしてその全てが失われると封印された悪しき存在が蘇る」

「それは大変!」

 封印というのは、大抵倒せない存在、もしくは倒せこそするが存在させるだけで損害が大きいため即座に封じたいものに施される。そんなものを解き放っては、この大陸はおろか世界全体の存続にも関わる。テーネも真剣になる。

「……」

「何見てる?」

 しかしそんな大事な話の最中に、狩人が虚空を見つめる。リーダーやテーネが視線を追っても何もいない。

「ああ、いやここにもあれいるんだなって」

「あれ?」

 何かいる様だが、影一つ見えない。透明化や気配遮断ならテーネの能力で見破れるのだが、それも出来ないのだ。

「あ、そうか、脳に瞳を得ないとあれ見えないんだった」

「え、何それこわっ……」

 どうも通常の方法で観測できる存在ではないらしい。

「あんな大きなものが見えないなんて不思議だったな……」

「大きいの!?」

 もう封印された邪悪な存在などどうでもよくなってきた。普通に見えない巨大な何かとかの方がよほど恐ろしいまである。

「そ、そうか。きっとゼンの毒気にやられたんだな。可哀そうに」

「ちゃんと見えてるぞ」

「また何か出て来た……ゼンって何ですか?」

 テーネは更に追加された情報を追う。もう頭はいっぱいいっぱいだが、情報の見落としは死に繋がる。

「この大陸に巣食う、破滅をもたらす存在だ。今は倒されていて平穏の時になっているが、また復活するだろう。倒すには究極魔法と魔導士の命が必要な厄介な存在だ。帝国が星の力を吸い上げているせいでどうも、復活のサイクルが早まっているらしい」

「は、はぁ……」

 そんなに世界を終わらせられる存在が跋扈している大陸とか、もう帰ろうかなと彼は考え出した。その時、また戦士が壺を割った。

「だから何してんの?」

「え? ほら壺割らなきゃ、メダルが」

「メダル?」

 またリーダーが咎めるものの、やはり常識が違うのか話も通じない。

「まぁいい。とにかく俺達はその帝国その他もろもろをどうにかする為に、真の仲間を探している。俺と契約を結び、それを確かめる」

「あー、契約を結べば分かる的な奴ですね」

 リーダーは特別な仲間を探しているらしく、テーネも何となくその話は分かった。古来より運命に導かれたパーティーというのがどの時代においても世界を救ってきたらしい。

「いや、真の仲間でなくても契約は結べる」

「じゃあ沢山契約すればいいんですね」

 ただ契約をすれば一発で分かるというほど単純なものでもなく、数を増やせば力を増すと言う様な便利さもないらしくリーダーは首を横に振る。

「そうはいかない。真の仲間以外と契約すると、負荷が掛かって失明とかするから慎重にしなければならない」

「それリターンによっては探さない方がマシでは?」

 あまりにもめんどくさシステムなせいで、もう放置して進んだ方がいい気さえする。

「そういうわけにはいかない。敵の大将、カイを倒すのにはこの力が必要だ」

「そんなに強いんですか? その人の人相教えて貰えれば暗殺してきますけど」

 テーネは幸い、対人においては加護によって無類の強さを誇る。なので要人の暗殺を繰り返せば戦況も覆せそうに見えた。

「そんなに甘い奴じゃない。奴はジェバ細胞を培養して生み出された究極の兵士で、死を司る神の転生態だ。そしてそいつのレプリカがダーヴルム国の親善大使」

「なんかよそ様に飛び火してません?」

 しれっと知らない誰かの衝撃的な秘密が明かされた。

「というかその流れなら親善大使のレプリカとかじゃないんですか? そんだけ詰め込んでオリジナル側なの?」

「ああ」

 そういえば結局最初のルッツがどうのも意味が分からないままだな、と思いテーネは離脱も視野に入れ始めた。分からないことが多すぎる中で戦うのは、危険が多い。触れたら死ぬ剣が飛び交う様なものだ。

「リーダー、大変です! 皇帝がルドマン高原に現れました!」

「チャンスじゃないですか!」

 皇帝が高原に現れたとの報告が飛び込んでくる。テーネはここで討てば一気に勝利だと戦いを促した。だが、リーダーは場所を聞いて断った。

「ルドマン高原か……ダメだな」

「敵勢力のど真ん中なんですか?」

「いや、むしろ魔物の巣窟で帝国も占領していない場所だ」

 てっきり敵の陣地かと思いきや、却って都合が良さそうな場所。というか放っておいてもワンチャン魔物に殺されるかもしれない。

「ならなぜ……」

「あの高原に送られるということは皇帝にとっての左遷、死を意味する」

「はい?」

 帝国のトップが左遷させられるとはどういうことなのか、ますます意味が分からない。

「どうやら特定の人物が皇帝になることで奴らは使える戦術が増えるらしい。その特定の人物に当てはまらない人間が皇帝になった時はこのルドマン高原に送られ、謀殺される」

「皇帝って選べないんですか? いや世襲制のものを選ぶってのもおかしな話ですけど」

 皇帝を左遷できる権力の者がいたり、特定の人を皇帝にしたいのに出来ない様子だったり、色々腑に落ちない点がある。

「どうやらより強大な存在が後ろにいるらしい。そいつを倒すには、龍の力を継ぐ人間に試練を乗り越えさせ、羽根を持つ種族、森の種族、闇の種族……とこの大陸に住むあらゆる種族と絆をはぐくんで最後の力を使うしか……」

「よし、撤退!」

 さしものテーネも要素が多すぎて、リスク管理をしかねて連合軍の脱退を決めた。元の大陸に帰るかはさておき、この連合軍が勝利する確率は砂粒みたいなものだと考えた方がよかった。

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