Moon&Star

首領・アリマジュタローネ

Moon&Star



 『ムーン&スター』のタイトルロゴが現れる。



 男女が夜道を歩いている。頭上を見上げながら語り合っている。


「ケイティ、月が綺麗だ」

「私の方が綺麗でしょ。クリス」

「そんなのは当然だ」

「口に出しては言ってくれないのね」


 バックミュージックが流れ出す。女性が先を歩いている。


「あなたってヒトは、いつだって、そうよ。私のことを、振り回すの」


 女性が振り向く。

 後ろの男性に向かって「こっちに来ないで」と手を振る。シッシッとジェスチャー。



「出逢ったときも、最悪だった。私のお気に入りのドレスを汚してきた」



 回想が入る。

 【two years ago】というクレジットが入る。



「ちょっとなにやってるの!」

「ああ、ごめん」

「やだ。ずぶ濡れじゃない」

「弁償するよ」


 赤いドレスの女性に白ワインを零してしまったタキシード服の男性が、頭を下げている。


「せっかくのお気に入りだったのに」

「いくらだい? 千ドルで足りるかな」

「お金の問題じゃないわ」

「オーケーイ。一万ドルかな?」


 タキシード服の男性が財布を取り出す。

 女性が呆れたように笑う。


「お金を払えば解決した気でいる人はキライ。私の不注意もあるんだから」

「だけど、これくらいやらなきゃ君の気が晴れない」

「元々パーティは好きじゃなかったの。もう大丈夫。気にしないで、じゃあね」


 ハンカチをひらひらと振って、女性が会場を後にする。

 残された男性は手に持ったワインを口にしようとして、小さく苦笑する。

 グラスは空のようだ。



 場面が戻る。

 先に歩く女性に追いつくように走る男性。


「僕のお星さま。怒らないでよ。綺麗な顔が、台無しだから」


 前を行く女性の肩をトントンと叩くが、相手は振り向かない。

 歩く彼女を止めるために、前に飛び出す。


「怒った顔も、キュートだよね。初めて会ったときも、そんな顔をしてた」


 女性の顎を掴んで、笑いかける。

 女性はまだ不機嫌そう。


「誰かさんがお水をかけるからでしょ」

「白ワインだ」

「一緒よ」

「脱がせたかったんだ。あまりに君がキュートだったからね」

「悪いヒトね」


 女性が男性の身体を小突く。ピアノの音色がピロロンと響く。

 心なしかちょっとだけ嬉しそうだ。



 回想に戻る。

 パーティ会場を出て、自宅に戻った女性。「はぁ……」とため息をついてる。


 机の上の写真を眺める。

 若かりし三人家族の写真を撫でる。


「ドレスは、いつも、ボロボロ。いくら着飾っても、シンデレラになることはできない」


 女性が携帯を開く。友人達との結婚式写真をスクロールしながら、ふとなにかを思い立ったのか、番号を記入する。

 音楽が止まる。


「はい、ママ。元気? ケイティよ。あー、別に用はなかったの。んー、そうね。お仕事は順調よ」


 ブロンドヘアーに触れて、写真立てを持ち上げる。

 ビショビショになったドレスを見て、苦笑する。


「またクリスマスに帰ろうと思っているわ。パパも呼んでパーティをしましょう。友達のジャスミンも呼ぼうかな。え? あー……うん。そうね、お友達の誰かと過ごすのも」


 母親の言葉に戸惑っている。ベッドの近くに置いてあるジャスミンの花に目をやる。


「オーケーイ。またね」


 電話を切って、ベッドに座り込む。


 着替えようとして、腰の紐の部分に何か挟まっていることに気付く。

 誰かの名刺のようだ。


「変なヒト」


 音楽が再開して、場面転換。



 とあるバーにて、男が座っている。


「僕の名前はクリス=ロバート。ここロスで飲食店のコンサルタントをしている。ここのオーナーとも友達さ。土曜の夜はこうやってブランデーを飲むのが日課だ」


 男がバーテンダーに目配せをする。

 白いハンカチでグラスを拭いていた彼が小さく頭を下げる。


 音楽がジャズに変わる。

 女性が入店してくる。


「ようやく、お姫様のお出ましだ」


 男がカメラに向かって話しかけて手をあげる。


「弁償してくれるの?」

「一杯奢るよ」

「お酒は飲まないわ。悪い虫が寄ってくるから」

「殺虫剤でも撒いておけばいい」


 バーテンダーがカクテルを運んでくる。

 女性の前に運んでくるが、女性は手につけようとしない。警戒しているようだ。


 女性が名刺を取り出してくる。


「これはどういうつもり?」

「なんの話だ?」

「アナタ、わざとやったんでしょ」

「さあ、どうだろう」


 男がニヤリと笑って、ブランデーを飲む。


「あんな社交の場じゃ、君とゆっくり喋れないからね」

「やっぱりわざとだったのね」

「あのドレスはもう着ないのかい?」

「捨てたわ」


 不快と言わんばかりに、女性か鞄を持つ。そのままお店を出ようとするが、男性が「待ってくれ」と食い止める。


「名刺の名前をよく見てごらん」


 眉をひそめた女性がしぶしぶ席につく。

 名刺を見るなり、大きく口を開ける。


「嘘でしょ?」

「本当さ」

「あり得ないわ。だって、あの」

「パーティを主催したのも僕だよ。顔と名前くらいは知ってると思ったけど、本当に知らなかったんだね」


 男が指をパチンと鳴らす。お客さんが全員退室していく。

 最初から全部仕組んでいたのだ。


「本物のシンデレラになりたくはないかい? どんなドレスでも着させてあげるよ」

「悪くない申し出ね」

「セレブの男は、君のような媚びない女性を好むんだ」

「あらあら、下手な口説き文句」


 女性がカクテルを飲む。バーテンダーが鼻で笑いながら、画面外にはけていく。


「アナタってズルいヒト」

「欲しいものは何でも手に入れたい性分でね」

「私の心を買えるかしら」

「頑張ってみせるよ」


 ドラムがリズムを刻む。



 場面が最初の夜道に戻る。

 二人は腕を組んでいる。


「私の名前はケイティ=マーター。しがない洋服店員。でも、彼と出会ってから世界が変わった」


 男性が女性の腕を掴んで、くるりと回転させる。

 赤いドレスが揺れている。

 首元には真珠のネックレス。


 男性が踵を鳴らす。

 足を左右に動かして、腰に手を当てる。


「気ままなお姫様は、言うことなんて聞きもしない。彼女といると大スターの自分が忘れられる。僕が星なら、君は月さ」

「瞬く星を見上げながら、夜空に何を願いましょう。パパもママも同じ空を見ているかしら」

「僕の話なんてまるで聞いちゃいない」


 女性が空を仰ぐ。

 ベンチが現れる。二人で並んで座る。


「ああ、ベイビー。こっちを向いてくれ」

「イヤよ、そういう気分じゃないの」


 手を伸ばした男性の腕を振り払って、女性が立ち上がる。

 前を歩いていく。男性もそれについていく。


 ラッパの音が鳴り響く。

 どこからか手拍子が聴こえてくる。


「王子様は私の美貌に溺れた」

「お姫様は僕の策略に溺れた」


 手を繋いで、二人は走り出す。

 夜道を抜けて、公園を抜けて、街に出る。


「ズルいヒトね」

「悪いオンナだ」

「お互い様ね」

「お互い様だ」


 腰を振りながら、街を歩く。

 カメラワークが横から前に変わる。



「はじまるよ、ダンスパーティー。今夜は祝いの日だ。僕と君が出会った記念すべき日。たくさん踊って、飲み明かそう」



 男が劇場の扉を開く。

 中にはたくさんの人々。



「僕はスター。ウィリアム・ホールデンも真っ青になる名俳優。君を虜にした王子様」

「私はムーン。オードリー・ヘプバーンも嫉妬する名女優。アナタを虜にしたお姫様」



「「二人でハリウッドを揺るがせよう!」」



 周囲の人々が歓声をあげる。

 黒人の男性が二人、画面の奥で後方転回する。

 子供たちが沢山の薔薇を持って、現れる。



「誰でもみんなシンデレラになれる。だから諦めないで。夢はきっと叶うから」



 二人がステージに登っていく。

 周りにダンサーが集まってくる。



「悔しいことも悲しいことも、明日になったら、忘れられる。変えよう世界を。イッツア、チェンジ・ザ・ワールド!」


「二人なら乗り越えられる。未来には希望しかない。ほら、辛い時は空を見上げて。煌めくムーン&スター!」



 両手を広げて、二人が抱き合う。

 ステージは大喝采に包まれる。



「愛しているよ。ケイティ」

「私もよ。クリス」



 ステージが暗転する。

 背景には唇を重ねている彼らの影が映し出されている。



 場面が切り替わって、バーへ。

 看板には【Moon&Star】の文字。



 カメラワークがすーっと上空に移動する。星がキラリと輝く。

 何もなかったところに、糸で垂らされた月の模型が落ちていく。



 【END】という文字が浮かぶ。

 エンディングクレジットが流れる。

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Moon&Star 首領・アリマジュタローネ @arimazyutaroune

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