Moon&Star
首領・アリマジュタローネ
Moon&Star
①
『ムーン&スター』のタイトルロゴが現れる。
②
男女が夜道を歩いている。頭上を見上げながら語り合っている。
「ケイティ、月が綺麗だ」
「私の方が綺麗でしょ。クリス」
「そんなのは当然だ」
「口に出しては言ってくれないのね」
バックミュージックが流れ出す。女性が先を歩いている。
「あなたってヒトは、いつだって、そうよ。私のことを、振り回すの」
女性が振り向く。
後ろの男性に向かって「こっちに来ないで」と手を振る。シッシッとジェスチャー。
「出逢ったときも、最悪だった。私のお気に入りのドレスを汚してきた」
回想が入る。
【two years ago】というクレジットが入る。
③
「ちょっとなにやってるの!」
「ああ、ごめん」
「やだ。ずぶ濡れじゃない」
「弁償するよ」
赤いドレスの女性に白ワインを零してしまったタキシード服の男性が、頭を下げている。
「せっかくのお気に入りだったのに」
「いくらだい? 千ドルで足りるかな」
「お金の問題じゃないわ」
「オーケーイ。一万ドルかな?」
タキシード服の男性が財布を取り出す。
女性が呆れたように笑う。
「お金を払えば解決した気でいる人はキライ。私の不注意もあるんだから」
「だけど、これくらいやらなきゃ君の気が晴れない」
「元々パーティは好きじゃなかったの。もう大丈夫。気にしないで、じゃあね」
ハンカチをひらひらと振って、女性が会場を後にする。
残された男性は手に持ったワインを口にしようとして、小さく苦笑する。
グラスは空のようだ。
④
場面が戻る。
先に歩く女性に追いつくように走る男性。
「僕のお星さま。怒らないでよ。綺麗な顔が、台無しだから」
前を行く女性の肩をトントンと叩くが、相手は振り向かない。
歩く彼女を止めるために、前に飛び出す。
「怒った顔も、キュートだよね。初めて会ったときも、そんな顔をしてた」
女性の顎を掴んで、笑いかける。
女性はまだ不機嫌そう。
「誰かさんがお水をかけるからでしょ」
「白ワインだ」
「一緒よ」
「脱がせたかったんだ。あまりに君がキュートだったからね」
「悪いヒトね」
女性が男性の身体を小突く。ピアノの音色がピロロンと響く。
心なしかちょっとだけ嬉しそうだ。
⑤
回想に戻る。
パーティ会場を出て、自宅に戻った女性。「はぁ……」とため息をついてる。
机の上の写真を眺める。
若かりし三人家族の写真を撫でる。
「ドレスは、いつも、ボロボロ。いくら着飾っても、シンデレラになることはできない」
女性が携帯を開く。友人達との結婚式写真をスクロールしながら、ふとなにかを思い立ったのか、番号を記入する。
音楽が止まる。
「はい、ママ。元気? ケイティよ。あー、別に用はなかったの。んー、そうね。お仕事は順調よ」
ブロンドヘアーに触れて、写真立てを持ち上げる。
ビショビショになったドレスを見て、苦笑する。
「またクリスマスに帰ろうと思っているわ。パパも呼んでパーティをしましょう。友達のジャスミンも呼ぼうかな。え? あー……うん。そうね、お友達の誰かと過ごすのも」
母親の言葉に戸惑っている。ベッドの近くに置いてあるジャスミンの花に目をやる。
「オーケーイ。またね」
電話を切って、ベッドに座り込む。
着替えようとして、腰の紐の部分に何か挟まっていることに気付く。
誰かの名刺のようだ。
「変なヒト」
音楽が再開して、場面転換。
⑥
とあるバーにて、男が座っている。
「僕の名前はクリス=ロバート。ここロスで飲食店のコンサルタントをしている。ここのオーナーとも友達さ。土曜の夜はこうやってブランデーを飲むのが日課だ」
男がバーテンダーに目配せをする。
白いハンカチでグラスを拭いていた彼が小さく頭を下げる。
音楽がジャズに変わる。
女性が入店してくる。
「ようやく、お姫様のお出ましだ」
男がカメラに向かって話しかけて手をあげる。
「弁償してくれるの?」
「一杯奢るよ」
「お酒は飲まないわ。悪い虫が寄ってくるから」
「殺虫剤でも撒いておけばいい」
バーテンダーがカクテルを運んでくる。
女性の前に運んでくるが、女性は手につけようとしない。警戒しているようだ。
女性が名刺を取り出してくる。
「これはどういうつもり?」
「なんの話だ?」
「アナタ、わざとやったんでしょ」
「さあ、どうだろう」
男がニヤリと笑って、ブランデーを飲む。
「あんな社交の場じゃ、君とゆっくり喋れないからね」
「やっぱりわざとだったのね」
「あのドレスはもう着ないのかい?」
「捨てたわ」
不快と言わんばかりに、女性か鞄を持つ。そのままお店を出ようとするが、男性が「待ってくれ」と食い止める。
「名刺の名前をよく見てごらん」
眉をひそめた女性がしぶしぶ席につく。
名刺を見るなり、大きく口を開ける。
「嘘でしょ?」
「本当さ」
「あり得ないわ。だって、あの」
「パーティを主催したのも僕だよ。顔と名前くらいは知ってると思ったけど、本当に知らなかったんだね」
男が指をパチンと鳴らす。お客さんが全員退室していく。
最初から全部仕組んでいたのだ。
「本物のシンデレラになりたくはないかい? どんなドレスでも着させてあげるよ」
「悪くない申し出ね」
「セレブの男は、君のような媚びない女性を好むんだ」
「あらあら、下手な口説き文句」
女性がカクテルを飲む。バーテンダーが鼻で笑いながら、画面外にはけていく。
「アナタってズルいヒト」
「欲しいものは何でも手に入れたい性分でね」
「私の心を買えるかしら」
「頑張ってみせるよ」
ドラムがリズムを刻む。
⑦
場面が最初の夜道に戻る。
二人は腕を組んでいる。
「私の名前はケイティ=マーター。しがない洋服店員。でも、彼と出会ってから世界が変わった」
男性が女性の腕を掴んで、くるりと回転させる。
赤いドレスが揺れている。
首元には真珠のネックレス。
男性が踵を鳴らす。
足を左右に動かして、腰に手を当てる。
「気ままなお姫様は、言うことなんて聞きもしない。彼女といると大スターの自分が忘れられる。僕が星なら、君は月さ」
「瞬く星を見上げながら、夜空に何を願いましょう。パパもママも同じ空を見ているかしら」
「僕の話なんてまるで聞いちゃいない」
女性が空を仰ぐ。
ベンチが現れる。二人で並んで座る。
「ああ、ベイビー。こっちを向いてくれ」
「イヤよ、そういう気分じゃないの」
手を伸ばした男性の腕を振り払って、女性が立ち上がる。
前を歩いていく。男性もそれについていく。
ラッパの音が鳴り響く。
どこからか手拍子が聴こえてくる。
「王子様は私の美貌に溺れた」
「お姫様は僕の策略に溺れた」
手を繋いで、二人は走り出す。
夜道を抜けて、公園を抜けて、街に出る。
「ズルいヒトね」
「悪いオンナだ」
「お互い様ね」
「お互い様だ」
腰を振りながら、街を歩く。
カメラワークが横から前に変わる。
「はじまるよ、ダンスパーティー。今夜は祝いの日だ。僕と君が出会った記念すべき日。たくさん踊って、飲み明かそう」
男が劇場の扉を開く。
中にはたくさんの人々。
「僕はスター。ウィリアム・ホールデンも真っ青になる名俳優。君を虜にした王子様」
「私はムーン。オードリー・ヘプバーンも嫉妬する名女優。アナタを虜にしたお姫様」
「「二人でハリウッドを揺るがせよう!」」
周囲の人々が歓声をあげる。
黒人の男性が二人、画面の奥で後方転回する。
子供たちが沢山の薔薇を持って、現れる。
「誰でもみんなシンデレラになれる。だから諦めないで。夢はきっと叶うから」
二人がステージに登っていく。
周りにダンサーが集まってくる。
「悔しいことも悲しいことも、明日になったら、忘れられる。変えよう世界を。イッツア、チェンジ・ザ・ワールド!」
「二人なら乗り越えられる。未来には希望しかない。ほら、辛い時は空を見上げて。煌めくムーン&スター!」
両手を広げて、二人が抱き合う。
ステージは大喝采に包まれる。
「愛しているよ。ケイティ」
「私もよ。クリス」
ステージが暗転する。
背景には唇を重ねている彼らの影が映し出されている。
⑧
場面が切り替わって、バーへ。
看板には【Moon&Star】の文字。
⑨
カメラワークがすーっと上空に移動する。星がキラリと輝く。
何もなかったところに、糸で垂らされた月の模型が落ちていく。
⑩
【END】という文字が浮かぶ。
エンディングクレジットが流れる。
Moon&Star 首領・アリマジュタローネ @arimazyutaroune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます