そして俺は犬になっていた~犬転生、幼女は俺が守る!~
閃丸
第1話 雪丸と幼女
「うっ……ここはどこだ?」
周囲を見回す。暖炉を始め、高級な家具がずらりと並んでいる。まるで中世の貴族の部屋だ――。
「う、動けない……」
起き上がろうと体を動かそうとするが、体に重りがのってるようで身動きがとれない。
自分の体を見て、その重りの正体に気づく――幼女だ。俺の体の上に幼女が乗っている。
しかも「すーすー」と寝息をたてて、気持ちよさそうに寝ている。
「無理だ……」
この幼女を起こして動くわけにはいかない。もちろん力を入れて、この幼女を起こせば、動けるようになる。しかし、俺はそんなことはしたくないのだ。起きるまで、おとなしく待つことにした。
その間暇なので、現状把握につとめる。
俺の体に三つの重大な異変が起こっていた。
一つ目。視界がおかしい。視界の一部が白黒のように見えるのだ。
二つ目。体が小さすぎる。
三つ目、手の形がおかしい。
あぁ、薄々気づいていたさ。この部屋にある鏡を見たときに、違和感を感じていたさ。
鏡には人間の自分は映っていなかった。代わりに、犬と幼女が映っていた。
「俺は犬になっている」
おそるおそる自分の手を見る。4本だ。4本しかない。しかも人間の手じゃない。犬の手だ。
犬の手って4本だったんだ――いや、奥にもう一本あるのを感じる。おそらくこれが人間にとっての親指だろう。犬も人間と同じで5本なのか。
いや、そんなことは今はどうでもいい。どうしてだ。どうしてこうなった?
過去の記憶を思い出す。
俺は魔法使いだった。そして、ユキノ国の眠り姫を起こすため、王子を探していた。しかし、ユキノ国に入るには入国許可証が必要で、俺は無理やり入国しようとした。
そのとき、違法入国が兵士に見つかってしまった。逃亡の末、ユキノ国の対魔法使いの騎士に殺された。
「そして、俺は犬になっていた」
これは……おそらく転生というものだな。
「魔法はまだ使えるのだろうか……」
俺は幼女を魔法で浮かしてみた。浮いた。そのまま、ベットの上まで移動させる。ゆっくりとベットに降ろす。
幼女は起きることなく、すやすやと寝ている。成功した。
しかし、どっと疲れた。魔力を消費しすぎたのかもしれない。前の体の時は、この程度の魔力を消費しても何ともなかったのに――確実に弱くなっている。
俺はステータスを確認するため、鏡に近づき、自分に向かって【鑑定】という、スキルを使った。
【鑑定】
名前:雪丸
種族:犬(魔法使い)
レベル:1
HP:92/92
MP:13/15
最大MPが15しかない。通りで疲れるはずだ。しかも、レベル1。とてもじゃないが、戦えない。しかも、鑑定スキルの精度も落ちてる――所持スキルなどが表示されない。
今度は幼女を【鑑定】してみる。【鑑定】はMPを消費しない。なので、何度も使えるのだ。
【鑑定】
名前:雪野うさぎ
種族:人間(王族)
レベル:5
HP:317/317
MP:37/37
「雪野!? ユキノ国の王族だけが許される苗字じゃないか……」
この幼女が王族ということは、今俺はユキノ国にいるのか?
もしかしたら、俺は眠り姫の目と鼻の先にいるのかもしれない。いや、仮にそうだとしても今の俺に何ができる?
目標を決めよう。まずはこの部屋から出る。
俺は扉に向かって歩いた。しかし、犬の体では扉を開けることはできない。
魔法で開けるか? いや、残り少ないMPをこんなことに使ってはダメだ。MPは寝たり食事をとらないと回復しないんだぞ。
「困ったな……」
この幼女が起きるまで待つか――起きるまで時間がかかる。その間、この部屋を色々調べてみよう。
俺は部屋中にある、あらゆる物に対して【鑑定】を使った。
1つ気になる物を発見した。暖炉の内側の上部のところに、隠しスイッチがあった。何のスイッチかはわからないが、おそらく大きな収穫だろう。
そして、探索しているときに気付いたのだが、俺は目が悪くなった代わりに鼻が異常に良くなったらしい。幼女はもちろん、匂いのある物がどこにあるかわかる。
その鼻がベットの下から、この部屋とは別の匂いを感じた。俺はベットの下に潜り、その場所に対して【鑑定】を使ってみた。
【鑑定】
名前:隠し通路の扉
説明:カギを開けるには、ユキノの指輪を持つ者がスイッチを押す必要がある。
ビンゴだ。匂いは隠し通路から漏れてくる、空気から匂うものだったみたいだ。
ユキノの指輪――あの幼女が首から下げている指輪のことだろうか。つまり、その指輪を身に着けて、あの隠しスイッチを押せば、隠し通路への扉が開くのかな。
そのとき、上から女の子の声が聞こえた。
「ゆ、雪丸がいない……」
どうやら幼女が起きたらしい。俺を探しているようだ――そりゃ俺はベットの下にいるんだから、見つかるわけないか。
俺はベットの下から外に出て、ベットの上を見た。幼女が嬉しそうにこちらを見つめていた。
「雪丸!」
声をかけられた。両手を前に出して「こっちきて」のポーズをしている。拒む理由もないので、幼女の元に近づき頭を近づけた。
幼女は嬉しそうに、俺の頭や首の辺りをよしよしと撫でてきた。
「ゆきまるぅー」
体をしつこく触られているのに、不思議と嫌な気分にならない。どうやらこの幼女は犬が撫でられて喜ぶポイントを心得ているようだ。まだ幼女なのに。
数分して満足したみたいで、俺から手を離した。
そのとき、扉の方から音がした。俺はそっちの方向を見た。
すると、男が扉を開けて部屋に入ってきた。忍者のような格好をしており、目以外の全てが黒い布で覆われている。
「だれ?」
幼女がそう発したので、俺は即座に【鑑定】した。
【鑑定】
名前:シアロ
種族:人間(アサシン)
レベル:21
HP:1092/1092
MP:98/117
強い。アサシン? 敵か?
暗殺者シアロがナイフを取り出した。幼女は警戒している。
俺はシアロの方をにらみ、
「近寄るな!」
大声でそう言ったつもりだが、実際の音は「ワンッ!」だった。犬だから当然だ。
シアロの目線が、幼女から俺に切り替わり、めんどうくさそうな目をしている。アサシンは大きな音を嫌う。音により周囲の人が、暗殺に気づく可能性があるからだ。今にも俺に襲い掛かりそうだ。
戦っても絶対に勝てない。レベルに差がありすぎる。逃げるしかない。だが、どこに逃げる?
(あそこしかない)
俺は【転送魔法】を、俺と幼女の2人に対して使った。行先は2メートル下。【転送魔法】は行ったことのある場所か、移動地点に空間がある場合しか発動しない。賭けだった。
シアロが俺をナイフで攻撃しようとした瞬間――俺たち2人は王族にしか入れない隠し部屋に転送された。
2人は隠し部屋の宙に浮き、魔法が解けるとその地面へと落下した。
俺はすぐさま【遮音魔法】を使った。周囲1~10メートルで発生した音は完全に遮断される。範囲は好きなように調整でき、今回は2メートルにした。
「ぅぇえええん!!」
落下した衝撃で幼女が泣いた。俺は近寄ってあやそうとしたが、MPを消費しすぎて、そばにいるのが限界だった。
幼女は俺に元気がないのに気づき、心配になり泣き止んだ。
「だいじょうぶ?」
俺の頭をよしよしする。
「くぅーん(大丈夫だよ、ありがとう)」
言葉が伝わらないのは不便だな。前世で【念話】スキルを習得しておけばよかったと後悔した、
そして俺は犬になっていた~犬転生、幼女は俺が守る!~ 閃丸 @sen_maru_kun
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