散策、開始して

 あまみおの案内でまず訪れたのは、大通りをまっすぐ進んだ先。

 東西南北それぞれに通りが続く大広場だ。


「まずはここが”セントラルエントランス”っす。ここから各エリアに行くことが出来るっすよ」

「へえ、ここだけでも結構人が多いな」

「結構な頻度でイベントが行われたりしてるっすからね。例えば……ほら、あそこを見てほしいっす」


 そう言ってあまみおが指差した先に視線をやると、広場中央にある円形ステージで煌びやかな装備に身を包んだ複数人のプレイヤーが、時折モデルばりのポージングを取りながら舞台上を練り歩いていた。


「……えっと、あれは一体?」


 シラユキが訊ねれば、


「ベストドレッサーロワイヤル……略してBDRとかベドロなんて呼ばれてるっすね。指定されたテーマに沿った装備の組み合わせ、コーディネートとポージングの両方を何人かのNPCが審査して、その合計得点を競い合うってミニゲームっす。順位によって貰える報酬が変わって、優勝するとかなりの量のコインをゲット出来るっすよ」

「なるほど。だから全員、映えそうな感じの装備なのか」


 早速、一風変わったコンテンツをお出しされたな。

 てっきりカジノにありそうなゲームばかりだと思ってたから、正直言って意外だ。


 ちなみにコインとは、ここ黄金楽園内でのみ使える通貨だ。

 ミニゲームの利用や景品の交換は全てコインを使って行われているらしい。

 レートは、10ガルで1コインとのことだ。


「評価基準は当然、見た目が一番重要視されてるっすけど、性能とかも見られてるらしいっす。例えば、同じ装備で参加して、同じポージングでアピールした場合でも、より高い数値とか優秀なシリーズボーナスを引き出していた方が良い順位を叩き出したって話もあるくらいっすから」

「つまり、ガチるとなると生産職の腕も大事ってわけか」

「そういうことっす。おかげでこのミニゲームに手を出した生産職のプレイヤーが防具作成の沼にハマったら最後、中々戻って来れくなるって話っすよ」


 確かにそうなるのも分からんでもない。

 生産職って凝り性が多いってイメージがある……というか、特にライトとかが典型的なそれだし。


 ライトは実用性を重視しているから、見た目に強いこだわりは持ってないとの事だが、もしライトがこのミニゲームに手を出したらヤバいだろうな。

 十中八九ネロデウス攻略とか言ってられなくなる気がする。


「他にもイベントステージでは、時間帯によって違うイベントが開催されるんで、興味があるミニゲームがあれば是非参加してみると良いっすよ。限定の参加賞とかもあるっすからね」

「そうだな。良さげなのがあれば参加してみるのもアリかもな」


 話しながら歩いている内に、イベントステージで一際盛り上がりを見せる。

 どうやら優勝者が決まったらしい。


「ところで、あれに勝つとどれくらいコインが貰えるんだ?」

「確か……15000コインとかそこら辺だった気がするっす。参加費で1000コインくらい取られるっすけど、勝てばかなり美味しいっすよ」


 数分〜十数分くらいで十五倍になって返ってくると考えれば普通に美味いな。

 まあ、”勝てれば”の話だけど。

 今の俺らが参加したところでコインを溶かすだけだから、他のコンテンツでコイン稼ぎを狙った方が無難だろうな。


「それじゃあ、そろそろ次のエリアに向かうっすよ」






 そんなわけで次にやって来たのは、中央広場から東の大通りを進んだ先。

 大きなスタジアムが三つ並んだエリアだった。


 その内の一番近くにあるスタジアムの前に辿り着いたところで、あまみおが口を開く。


「ここは”アスレチックディヴィジョン”っすね。名前の通り、このエリア内ではアスレチック形式のミニゲームが多く遊べるっすよ」

「アスレチック……例えば、どんなのがあるんだ?」

「そうっすね……分かりやすいので言えば、ザ・ニンジャ・トライアルズとかっすかね。簡単に説明すると、制限時間内にコース外にならないように気をつけながら障害物を超えてゴールを目指すミニゲームっす。多分、主さんが得意な奴っすよ」

「聞いた感じだけだとそんな気はするな」


 中身を見てみないことには何とも言えないけど。


「試しに見ていくっすか?」

「……うーん、どうすっかな」


 アスレチック、時間制限……いかにもそそられる単語が並んでいるが、まだ見てないエリアを二つ残してるんだよな。

 先に街の全容を把握しておきたいところだが、このアトラクションも気になるところだし……。


 悩んでいると、


「……ジンくんが気になるなら、私は大丈夫だよ」

「いいのか?」

「うん。時間はまだまだあるし、それに……ジンくん、結構気になってるでしょ?」


 言って、シラユキがにこりと微笑む。


 俺の都合で散策を遅らせるのも憚れるが、二人が良いって言うのであれば、素直に言葉に甘えるとしよう。


「……なら折角だし、ちょっと寄ってみるか」

「了解っす。それじゃあ、こっちっすね。目的のアトラクションは北側のスタジアムにあるっすよ」

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