代理の案内人
翌日、Nテレポで黄金楽園に戻り、ダイワに指定された待ち合わせ場所へと足を運ぶが、
「……あれ、いなくねえか?」
「そうだね。見当たらないね」
辺りを見渡すもダイワの姿がない。
普通に人目を惹くタイプだから、こっちが見つけられないでいるって可能性は低いと思う。
というか、それだったらダイワの方が先に気づいて声をかけに来ているはずだ。
そうじゃないとなると——、
「まだ来てないのか」
「みたいだね。どうしたんだろう?」
言いながら、シラユキはメニュー画面を開いて時刻を表示する。
現在時刻は十時ジャスト。
本来ならこの時間に落ち合う予定だったのだが……まさかとは思うが、寝坊か?
「……ま、とりあえずメッセージ送って現状把握するか」
早速、ダイワ宛にメッセージを作成しようとした時だった。
「あ、えーと……お二人が主さんとシラユキさんで合ってるっすか?」
「ん……まあ、そうっすけど……どなた?」
声がした方向を振り向けば、そこには小柄な女性プレイヤーが立っていた。
大体百五十センチ前後といったところか。
ちょっと癖のかかった金色のショートヘアと大きな黒縁の丸眼鏡が特徴のそのプレイヤーは、俺に視線を合わせるなりパァっと目を輝かせた。
「うっはー! 本物の主さんだ!! あの動画と配信見たっすよ! 盾であんな凄い記録を打ち立てて……ウチ、感激で胸が震えたっす!!」
「お、おう……」
初対面なのに圧がやべえな。
つか、主って呼ばれてつい反応しちまったけど、なんで俺の事知ってるんだ。
「……って、あ、勝手に一人で盛り上がっちゃってすみません! 自己紹介が先っすよね。どもども。お二人共、初めまして。ウチ、あまみおという者っす。多分、寝坊してるであろう相方の代わりに街の案内に来たっす」
「あまみお……なんかどっかで聞いたことあるような——」
「一応、ヒーくん……じゃなくて、ダイワくんの動画編集やらせてもらってるっす」
……あー、思い出した。
そういや、相方がいるって言ってたな。
「なるほどな。通りで俺の事を知ってるわけだ」
というより……今、目の前にいるこの人が俺がバズったきっかけを作った人物か。
確か俺の動画が伸びたのは、あまみおが拡散したからだって事らしいし。
それなら正体を隠す必要もないか。
……つっても、まだ自惚れられるほど認知度があるわけじゃないけど。
「改めて、配信主だ。こっちではジンムで名乗らせてもらってる」
「ジンム……ダイワくんから聞いてはいたっすけど、やっぱあの——」
「言うな。悪いが、それ以上は訊かないでくれ」
遮るように言って、俺は手で制する。
やっぱ安直に付けすぎたな、このプレイヤーネーム。
まあ、もう今更って話だけど。
「とりあえず、それは置いとくして。こっちがシラユキ」
「初めまして、シラユキです。よろしくお願いしますね、あまみおさん」
シラユキがにこりと微笑むと、
「お、おお……! ダイワくんに聞いてた通りの……いや、それ以上の美少女っす……! 見ているだけで眩しいっす……!!」
「あ、ありがとうございます……。でも、アバターだから大袈裟なような……」
「いいや、ウチには分かるっす。シラユキさん、アナタが紛れも無い天然物の美少女だという事が!」
一度頭を振ってから、あまみおは堂々と言い切ってみせる。
「え、えっと。天然物とは一体……?」
「VRギアのスキャン機能を使って作ったアバターの事だよ。シラユキ、キャラメイクした時に弄ったのって髪型とか瞳の色だけで、ベースは自動生成で作ったやつだろ」
「うん、そうだけど……」
「それが天然物のアバター。要するに、リアルの顔が良いですねって褒め言葉だ」
対照的に完全に一から作った顔は人工物とかなんて呼ばれてるけど、こっちは本人に直接言う事はない。
暗に「でも、オメーのその顔、偽物だろ」みたいな皮肉を込めた意味合いで使われる事が多いから、余計なトラブルを生みかねないし。
言葉の意味に気づくや否や、シラユキの頬が赤く染まる。
「そう言われると、ちょっと恥ずかしくなってきたかも……!」
「おおっ、照れ顔も可愛いっすねえ。いやー、眼福眼福っす」
「事実だけど、あんま揶揄わないでくれると助かる」
とはいえ、天然物も天然物で危うくはあるんだけど、今回の場合は好意的な意味で言ってるんだろうし、とやかく角を立てるような事でもないか。
「——それより……ダイワはどうした?」
「あー、えっと……申し訳ないっすけど多分、寝坊っす。ダイワくん、日曜日以外の朝は壊滅的に弱いんで」
「弱過ぎだろ。つか日曜以外って、なんだそりゃ」
ツッコミを入れたタイミングで、俺とあまみおそれぞれにメッセージが届く。
中身を確認すれば、送信者はダイワからだった。
ダイワ:すまん! 今起きた! とりあえず代理を向かわせるからもうちょっと待っててくれ! 遅刻の埋め合わせは必ずするから!!
「おい、マジかよ。ガチで寝坊かい」
「大学が春休みってこともあって生活リズムが崩壊してるっすからねー。まあ、春休みとか関係無しに元からボロボロなんすけど」
「俺もあんま人の事は言えねえけど、下には下がいるんだな」
ストリーマーとか動画投稿者で飯食ってるのって、生活リズム終わってる奴多いんだな。
……いや、身近なサンプルケースがそうってだけかもだけど。
「つーか、代理ってもしかしなくても……」
「ウチのことっすね。ダイワくん、もしもやらかしたらウチに案内頼むって、昨日の夜にお願いしてたんで。だから予めここに来たわけだけど……どうやら正解だったぽいっすね」
「変にリスク管理はできてんのな」
だったら最初から寝坊すんなって話だけど。
けど、過ぎたもんは仕方ないか。
向こうも悪いと思ってるみたいだし、今回は水に流すとしよう。
「それじゃあ、ウチが街の中を案内するっす」
「ああ、よろしく頼む。行こうぜ、シラユキ」
呼びかけるも返事がない。
「……シラユキ?」
「へっ、ど、どうかした!?」
「いや、そろそろ移動するぞ」
「あ……うん、ごめん!」
「?」
何故かどこか上の空になっているシラユキに首を傾げれば、
「いやー、青春っすねー」
と、あまみおがこちらに暖かい眼差しを向けながら、独り言のように呟いていた。
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キャラメイクにおいて天然物が良いかというと、必ずしもそういう訳ではないです。
リアルの顔に近い=身バレがしやすいということなので。だからアバターを自動生成させたとしても、キャラデザをガッツリ弄る事は普通の事ですし、有名人や既存作品のキャラの見た目を完コピするキャラクリ職人なんて呼ばれる人もいたりします。なので、くれぐれも天然物マウントは取らないようにしましょう。
人工物と揶揄されるのは、自分の事を棚に上げて他の人の見た目を貶す人に対してとか、アンチや荒らしが誹謗中傷に用いる場合が大半です。
ちなみに主人公もかなりの天然物ですが、リアルだと前髪が長くてやや目隠れ状態なので、意外と身バレしにくい側ではあります。
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