帰ってくれば
本当にさっとだけ街の中を散策し終えた後のこと。
Bテレポでクランハウスに帰還し、一階に降りれば、
「よっ、主! 黄金楽園まで無事に行けたか?」
「……なんでアンタがここにいんだよ」
左右兄妹の他に、赤い外套を纏った金髪の侍——ダイワの姿があった。
久方ぶり——では全然ないけど、思わぬ再会に少しだけ戸惑っていると、ライトが事情を説明してくれる。
「さっきまでモナカと一緒に朧さんの特訓に付き合ってくれていたらしい。その流れで二人がここに連れて来た」
「なるほど、そういうことか。でも、ダイワもよく来ようと思ったな」
「かなり前だけどそこのRaL兄妹には世話になったからな。特に兄貴の方に。そのお礼参りも兼ねて来たんだ」
「へえ、ライト達と面識あったのか」
まあでも、そんなに驚くような事でもないか。
トップクランの連中からも認知されてるような二人だし。
……しかし、RaLって確か——『
もしかしなくてもこの兄妹の存在って、俺が考えている以上にトッププレイヤーに浸透してるのな。
「……ところで、そのダイワを連れてきた二人は?」
「モナにゃんは配信、朧さんはずっと戦いっぱなしで疲れたからって、ほんとについさっき、丁度入れ違いでログアウトしたよ」
「なんだ、タイミング悪いな」
黒蠍共との戦闘がなければ、もしかしたら間に合ったか。
「まあ、三時間くらいぶっ通しでPvPした上に、タイマンとはいえ、近くにいたエネミーを二、三体くらいソロで倒させたからな。全部、近接縛りで」
「アンタら……地味にえげつねえこと朧にやらせてるよな」
三人が集まる場所っつったら……大方、霊峰とかそこらだろ。
ヤバくなったら二人が助け舟出してくれるとはいえ、聞いてるだけで朧に同情したくなる特訓内容だ。
つーか、モナカの奴……この時間から配信すんのかよ。
もうちょっとで日付回るってのに。
春休みで曜日感覚薄れてるけど、まだ平日だぞ。
……って、そうか。
モナカの生活リズム的には、寧ろこっからが活動時間か。
なんてつらつらと考えていると、ふとひだりが首を傾げる。
「……あれ、そういやシラユキちゃんは?」
「一緒に帰って来てるぞ。もうすぐ下に降りてくるはず……ほら、噂をすれば」
後方から足音が聞こえ、振り返ればシラユキがぱたぱたと階段を降りてきていた。
「あっ、シラユキちゃんお帰りー! 砂漠縦断はどうだったー?」
「ただいまです、ひだりさん! ちょっと……ではないか、とりあえずアクシデントはありましたけど、無事に辿り着けました!」
「ホント!? 凄い、やったじゃん! おめでとうシラユキちゃん! あ、遅れたけどジンムもお疲れ」
「俺には軽いな、おい」
別に良いけど。
「おおっ! マジで行けたんだな。フッ……さすがだな、主くん」
「急にどうした。何キャラ?」
謎の後方理解者面で腕を組むダイワに半眼を向けていると、
「それでアクシデントって何があったの?」
「あー、それはなんつーか——災禍の眷属とエンカした」
言えば、ライトとひだりが息ぴったりに噴き出した。
「……まさか、本当に遭遇してたとは」
「なんとなくそうなるんじゃないかって思ってたから、もう驚きはしないけどさー。それで無事に黄金楽園まで辿り着いたってことは……倒したんだね」
「まあな。一時はガチで焦ったけど、案外終わってみれば快勝だったぞ。出た場所が安全地帯ってのもあったけど」
「それでもでしょ。災禍の眷属相手に快勝って……」
よせよ、そんな白々しい目で見んなよ。
照れんだろ。
「——けど、ガチ焦りはしたんだ。ジンムにしては珍しいね」
「俺はいつも通りだったけど……シラユキが、な」
ちらりと視線を向ければ、シラユキが申し訳なさそうにしゅんと縮こまる。
「いや、あれは別にシラユキが悪かった訳じゃねえよ。寧ろ、デスしなかっただけでも十分だ」
「……うん、そうだね」
「?」
少し躊躇うようにして、シラユキは小さく笑う。
その様子にひだりがちょっとだけ首を傾げていたが、
「ま、いいや。とりあえず二人ともお疲れ様! それとその事でダイワさんから話があるみたい」
「ん、ダイワが?」
なんだ、一体……?
そういや今更だけど、なんで朧もモナカもいねえのにここに残ってんだ。
思いつつ、ダイワに顔を向ける。
「話って?」
「ああ、大した事じゃねえんだけどよ。主とシラユキちゃんが良ければ、街の中を案内しようかと思ってな。ほら、あそこってかなり広いだろ」
「確かに」
最初は街の中を一通り見て回るつもりだったが、ぐるっと一周するだけでもかなり歩く上にそれなりに時間もかかりそうだった。
俺一人だったら徹夜してでも回ったところだけど、シラユキも一緒となると日を改めた方が賢明だろう。
ってことで、予定を変更して、可能な分だけ街を散策しつつ、先に宿屋でブクマだけしてこっちに戻って来ていた。
誇張抜きでデカめの遊園地二つ分くらいの広さはあった上に、施設も結構な数ありそうだったからな。
ガイドがいてくれるに越したことはない。
「けど、わざわざ良いのか?」
「構わねえよ。案内ついでに久々に遊ぶのも悪くないしな」
「そうか。じゃあ、折角だし頼もうかな。シラユキもそれでいいか?」
「うん、是非よろしくお願いします。ダイワさん」
シラユキがペコリと頭を下げれば、
「おう、任せとけ!」
ダイワは親指を立てながら、にいっと白い歯を見せるのだった。
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良ければ是非見ていただければ嬉しいです。
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