欲望と万富の教祖へ捧ぐ黄金の神話崩壊
プロローグ〜逃げる者、捕まる者〜
一帯が豪華絢爛な黄金色の街灯に照らされた大通りを男は駆け抜ける。
後ろを振り返れば、鬼のような形相をした二人組が自身を追いかけて来ていた。
「待てやゴラァ!!」
「このイカサマ野郎が! 俺らの財産を全部パーにしやがった落とし前つけてもらうぞ!!」
如何にも強力そうな武具に身を包んだ男二人組。
更には自身とは圧倒的にかけ離れた身体能力をも持ち合わせている。
本来であれば、あっという間に距離を詰められ、今頃袋叩きに遭っていることだろう。
——いや、下手をすればもう殺されているかもしれない。
しかし、ここは黄金の楽園。
ここでは彼らは本来の力を発揮できない上、派手に騒ぎを起こせば駆けつけた警備が彼らを捕縛する。
自分は警備隊がやってくるまでの間、どうにか時間を稼げばいいだけだ。
男は息を切らせながらも、人混みを掻き分け追手から逃走を図る。
やがて、いつも通り慣れた路地に潜り込み細い道へと入っていけば、いつしか二人組の怒声は聞こえなくなっていた。
「はぁ……はぁ……なんとか、やり過ごせたか」
近くの壁に背中を預け、男はその場に座り込む。
荒れた呼吸を整えたところで、頭上を見上げ夜空を眺める。
「……ここじゃ、星がよく見えないな」
街全体が街灯に照らされているせいだ。
昼も夜も燦然と輝き、眠ることを知らないこの街は、いつになっても慣れそうにない。
「昔はアイツらとよく星空を眺めてたのにな……」
脳裏に幼い頃の記憶が過る。
寂れた街の片隅で夜空を眺めながら、夢を語り合っていたあの頃の記憶が。
——いつまでこんな死と隣り合わせのような生活を続ければいいのだろうか。
ふと弱気になってしまいそうになる。
だが、すぐに頭を振って考えを振り払う。
——違う、何の為に俺はこの街にやって来た。
「あのバカの目を覚まさせるためだろ……!!」
妄執に取り憑かれたあの大バカ野郎の。
それまでは泥水を啜ってでも生き延びて、何としてでも大金を手に入れなければ。
黄金と栄光と欲望が混沌のように渦巻く街の影で、男は強く決意を改める。
* * *
「オラッ、さっさと中に入れ!」
「ぐっ!」
黒ローブ姿の看守に背中を蹴飛ばされ、鉄格子で出来た扉の中にぶち込まれる。
抵抗しようにも身体は謎の縄で拘束された挙句、アーツも発動できなくなっているせいでまともに動くことすらままならない状態だ。
「荷物は全て預からせてもらう。当分の間、そこで大人しくしているんだな」
扉を閉められると、身体の拘束が解かれるが、依然アーツは使えないままだ。
ついでにメニューを開いてアイテムを確認しようにも、アイテムのアイコンそのものが消失してしまっていた。
「うわ、マジかよ……!?」
ここに連れて来られる際に、所持金も一緒に没収されているから——ていうか、元から一文無しになってからあんま関係なかったけど——残りの所持品は、今装備している防具一式と黒刀【帳】、それと黒禍ノ盾だけとなっていた。
「……ところで、
「構わん。その中ではお前ら探索者の力は弱まっているからな。暴れたところで簡単に鎮圧出来る。何なら、試しに今ここで暴れて脱出を図ってもいいぞ。その代わり、お前は即座に私に殺され、お前が得た物は全て我々が所有することになるがな」
「いや、やらねえよ。負け確定してんのに」
視界左上に表示されるHPとMPを一瞥しながら答える。
拘束された時から現在進行形で最大HPが九割近く減少し、MPに至っては0となっている。
ステータス画面を見れてないから確定ではないけど、同時にめっちゃ脱力感に襲われたから、多分ステータスも何らかの補正がかけられていると思われる。
アイコンが表示されていないから弱体の類ではなさそうだ。
となると……システム的にステータスを弄られていると考えた方が良さそうだ。
まあ、一旦それは置いておくとして。
「ところで……これから俺は一体どうなるんだ?」
「さあな。それはお前次第だ。これからの結果次第では、五体満足でここを出られるかもしれんぞ。尤も、もしかしたらの話だけどな。ま、精々、我々を愉しませてくれよ」
言って、看守は声を立てて嘲笑うと、そのまま来た道を戻って行った。
看守の姿が見えなくなってから俺は一度周辺を見渡してみる。
そこは牢屋と呼ぶにはあまりに広い空間となっていた。
建物は幾つも立ち並び、中には俺以外のプレイヤーだけでなく、NPCの姿もちらほら見受けられる。
ミニマップを見てみると宿屋があるのが確認できた。
牢獄というよりは一つの収容区と言った方が正しいか。
それと現在地は洞窟内の場所のはずだが、天井からは光が差し込んできていた。
恐らくだけど、位置的にカジノから漏れ出た光だと思われる。
「チッ……面倒なことになっちまったな」
まさか高校一年最後の日がこんな終わり方になるとは。
とりあえず、ライト達に状況を報告しておくか。
なぜ俺がこんなことになっているのか。
話は二日前に遡る——。
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