黒く爆ぜて超えしは -7-

 属性強化と属性性能強化。

 この二つはどちらも似たような効果だが、性能はそれぞれ微妙に異なる。


 属性強化は単純に属性攻撃力が上昇するというシンプルなものだ。

 対して属性性能強化はというと、属性攻撃そのものの攻撃倍率を上げたり、その属性に耐性を持つ敵の軽減率を下げたりするといった効果となっている。


 呪獣転侵の効果の一つである闇属性性能強化(大)ともなると、闇属性耐性を完全に無視する上に属性攻撃倍率が本来のものよりもずっと上がるようになる。


 そして、属性強化と属性性能強化を組み合わせることで攻撃威力は大幅に上昇し、下手に弱点属性を突くよりもその属性でゴリ押した方が結果的に与ダメージ量が多くなりやすいという。


 ただ一つ問題点があるとすれば、属性相性を完全無視できるようになる属性性能強化(大)を持つアーツや装備が滅茶苦茶に少ないってことか。

 ——それこそ災禍に関連するようなアーツスキルや装備じゃなきゃ無いレベルで。


 恐らく、敵で属性耐性を完全無視して攻撃してくるのが災禍の七獣くらいしかいないのが関係しているのかもな。


 まあ、今はそれはいいとして——、


「オラ、かかって来いよ。テメエらどっちも仲良く完膚なきまで叩き潰してやるからよ」


 再度、憤怒の投錨者を発動。

 黒蠍のヘイトを一身に集めてから、


「……まあ、んなもん関係なしに俺から行くけどなあ!!!」


 地面を蹴る。


 全ての自己強化アーツの同時発動と共に黒蠍Bの懐に潜り込み、盾震烈衝と守砕剛破を続け様に叩き込み、


「——っえんだよボケが!!」


 黒蠍Aの攻撃を回避しつつ、カウンターで破邪一閃からの三浪連刃を繰り出す。

 マジックポーションでMPを回復させるのと並行して黒蠍Bに月砕蹴撃を放ち、間髪置かず通常の斬撃を浴びせながら黒禍ノ盾にMPをチャージする。

 更に剣、盾、蹴りの連続コンボをお見舞いした後、リキャストの完了したばかりの二度目の盾震烈衝によるシールドバッシュを叩き込んでから、


「そのスッカスカの脳天、微塵に砕いてやるよ!!」


 守砕剛破……渾身の盾での右ストレートを黒蠍Bの頭部に命中させると同時、フルバーストの黒の爆発を炸裂させる。


 ——漆黒に迸った閃光が強烈な衝撃波を生み出し、俺と近くにいる黒蠍Aを飲み込んだ。


 闇属性性能強化による恩恵か、呪獣転侵を発動させる前より少ないMP……っていうか、全部のMPを消費せずともでフルチャージが可能になっており、加えて黒の爆発の威力も規模も数段階上がっている。

 だが、それにも関わらず、白闇狼との共鳴によるRES上昇、呪獣転侵による全属性耐性強化、SDEF上昇の効果が組み合わさる事で自傷ダメージはさっきよりもぐっと抑えられていて、最早カスダメ同然となっていた。


 数瞬の黒の爆発が収まり、視界が晴れる。

 短時間での多大なダメージ蓄積からか、気づけば黒蠍Bがダウン状態になっている。


 動けない黒蠍Bをカバーしようと黒蠍Aが俺に襲いかかる。

 けど——、


「遅えっつってんだろ!! んな鈍さじゃ足止めになんねえよ!!」


 さっきシラユキにもやったようなクロスでの両腕の振り下ろしを躱し、頭部に月砕蹴撃を叩き込む。

 しかし、それで動きが止まることはなく、尻尾を振り下ろし、先端の針剣で俺を叩っ斬ろうとしてくる。


「だから当たんねえよ!」


 巌柳剛衛発動——パリィで攻撃を弾き返し、体勢が崩れた隙を突いて黒刀を振り上げ、超至近距離でのフライエッジを放つ。

 通常の斬撃に闇の魔力による斬撃が乗った二段ヒットの剣技が黒蠍の右腕を斬り裂くと、偶然関節部に命中したのとクリティカルが重なり、そのまま右腕を綺麗に斬り落としてみせた。


「右腕無くなって寂しくなっちまったなあ! なら、右腕の代わりにこれをくれてやるよ!!」


 すかさず残ったMPを消費し、黒の爆発を発動させる。

 さっきの一撃でMPの大部分を持ってかれたから、威力は大分落ちてしまっていたが、それでも黒蠍Aをダウンに至らせるには十分だった。


「テメエも暫く横になってろ! ——さてと」


 後ろを振り向き、まだダウン状態が続いている黒蠍Bを見下ろす。


「そういや、テメエ……まだスタンになってなかったよな?」


 一旦、マジックポーションで失ったMPを全快させ、即座にもう一度、回復したばかりのMPを黒禍ノ盾にフルチャージする。


「テメエ一人だけスタンになってねえって不公平だろ。だから、隣で伸びてるソイツ同様、テメエもスタン状態にさせてやるよ。仲良しの印に……なあ!!」


 二度目の守砕剛破と黒の爆発によるコンボを黒蠍Bの頭部に向かって放つ。

 再度、漆黒の閃光と衝撃波が周囲を飲み込むと、度重なる打撃ダメージが祟って黒蠍Bもスタン状態に陥った。


 傍ら、ダウン中の黒蠍Aを対象にシラユキが術式を発動させていた。


聖蕾せいらい光牢こうろう


 黒蠍Aを覆うように展開されるのは蕾の形状をした光の壁。

 術者を守る聖蕾・粋護と異なり、こっちは対象を閉じ込め、スリップダメージやらを付与する結界術。


 通常時のボスに対してだと拘束時間は数秒と保たないが、今ならもっと時間を稼げるはずだ。


「ナイス拘束!」


 これにより片方はスタン、もう片方は術式による拘束とどっちも身動き取れない状態になっている。

 つまり、時間が許す限りどっちも追撃で殴り放題って事だ。


 まあでも、ダメージ効率を考えればどっちか一体に絞った方が良いだろう。

 となると、どっちの黒蠍を袋叩きにするか選ばなきゃだが、これに関しては既に標的を決めてある。


「やるとすれば、テメエだ」


 ——黒蠍B。


 こいつは、シラユキを刺した方だ。

 さっきの借りはきっちり返させてもらうぞ。


「遠慮すんなよ……今ある全力を尽くして返礼するからよォ!!」


 ギアを全開にし、使用可能なアーツを片っ端から繰り出していく。

 全部発動させてリキャストが完了するまでの僅かな隙間時間は、とにかく通常攻撃を叩き込み、リキャストが完了次第、再度アーツをぶっ放していく。


 ついでに時折、シラユキのリリジャス・レイが黒蠍に襲い掛かり、弱点属性による高火力を叩き込んでいく。


 ——なんか今なら、パートナーを倒されたコヨトルの気持ちが分かる気がする。


 ゲームだからデスしても実際に死ぬわけじゃねえし、デスしてもここまでの道中の苦労がパァになって、所持金減少とステータス低下のデスペナが起こるだけ。

 ちゃんと準備を整えてから、もう一度臨めばいいだけの事だ。


 ——だとしても、だ。


「大切なパートナーが傷つけられたってなればよ……例えそれがたかがゲームの中だとしてもよ……クソ程ムカつくに決まってんだろうがあああっ!!!」


 スタンが解ける寸前、尻尾の先端に向けて全力の黒の爆発をぶっ放す。

 強烈な闇属性の魔力による爆破が炸裂すると、先端にある針剣が根本からぼっきりと折れ、侵入不可障壁外へと吹っ飛んでいった。


 放物線を描く針剣を見て胸がすく思いを覚えるが、すぐに意識を目の前に戻す。

 戦闘はまだ終わっていないし、行動不能となっていた黒蠍がどっちも動き出していた。


「来いよ、欠損虫共!! 次は節という節を全て胴体から切り離してやるよ!!」


 インベントリからマジックポーションを取り出しつつ俺は、黒蠍二体に向かって盾を持つ右手で手招きしてみせた。




————————————

属性強化と属性性能強化の違い

属性強化(属性攻撃力):50→55

属性性能強化(属性倍率):1.0倍→1.1倍

属性攻撃力(55)×属性倍率(1.1)=与ダメージ(60.5)


あくまで例なので、実際の補正値や倍率とは異なります。

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