黒く爆ぜて超えしは -5-

 少し戦闘が進み、黒蠍二体の連携にも目が完全に慣れてきた頃。


 須臾の見切り+致命の慧眼+コンボリワードを同時起動。

 黒蠍Aの両腕の挟み込みをギリギリで避け、返しに三浪連刃と通常の斬撃を連続で叩き込む。


 斬りつけた箇所から炎が舞い上がる。

 畳み掛けた攻撃によって、黒蠍Aが怯みモーションに入る。


「っしゃあ!! ボーナスタイム!!」


 けど、その前に——、


「見えてんだよ!!」


 背後から忍び寄る黒蠍Bの尻尾の針剣による刺突を後ろ手にした小太刀二振りで受け流してから、黒蠍Aに追撃の攻撃を仕掛ける。


 自己強化系のアーツを複数起動。

 殴打系のダメージに補正をかけるフィルスビーターの派生強化版、剛腕の殴打者。

 行動不能状態の敵に対して殴打系のダメージ補正をかけるパシュートヒッター、武器を使わない攻撃にダメージ補正をかけるラフファイト。


 さっきのアーツと合わせて、攻撃に補正を掛けるアーツ全部詰め合わせだ。

 諸々のバフが乗ったこの状態から繰り出すのは、


「ッらあああ!!」


 渾身の回し蹴り——月砕蹴撃が黒蠍Aを捉えると、そのまま巨体を吹っ飛ばす事に成功する。


「シラユキ!!」

「うん! リリジャス・レイ!!」


 そこにダメ押しの一撃。

 何度も地面を転がり、ようやく動きが止まったところに荒ぶる光の奔流が襲い掛かり黒蠍Aを飲み込んだ。


「ナイス!」


 ずっとやってきた戦法だから、連携がすっかり身についてきたな。

 シラユキの成長に感嘆しつつ、俺はまだ動けずにいる黒蠍Aに肉薄する。


「テメエもこっち来るんだよ!!」


 憤怒の投錨者で黒蠍Bがシラユキを狙わないようこっちに惹きつけ、黒蠍Aにただの飛び蹴りをお見舞いする。

 本当ならフライングキックで攻撃したかったところだが、技スペの関係で組み込めていないのが残念だ。


 マジで平常時だとクソ邪魔だな、この呪獣転侵自爆装置は。


 だが、それでもバフ盛り沢山の今なら通常攻撃も下手なアーツスキルよりも強力なダメージソースとなっている。

 飛び蹴りが黒蠍Aに命中すると、普段よりも強烈な手応えが返ってくる。


「まだまだぁっ!!」


 更にその場で前宙をして繰り出すのは、勢いの乗せた踵落とし。

 頭部付近にぶち当てた直後に装備変更。

 左手に持つ焔【赤陽】を黒の大盾——戦斧の大楯に持ち替え、盾震烈衝を繰り出し、黒蠍Aの頭部にシールドバッシュを叩き込む。

 普段よりも重さの乗った一撃が黒蠍Aの脳天をかち割ると、怒涛の殴打が響いたからか黒蠍Aがスタン状態に陥った。


「おまけにもう一発——っ!?」


 アーツをぶっ放そうとするが、その矢先、追いついた黒蠍Bが俺を両断しようと尻尾を薙ぎ払ってきた。


 咄嗟に反応し、大盾を構え巌柳剛衛を発動させる。

 直後、針剣を大盾が触れパリィが成功すると、薙ぎ払っていた針剣の軌道が不自然に変わり、その影響でついでに黒蠍Bも体勢を崩す。


 このままカウンターの一撃を……といきたいところだが、まだ黒蠍Aのスタンは続いている。

 であれば、狙いは引き続きこっちだ。


「今度こそ、おまけの一発!!」


 盾の握りを変え、放つのは守砕剛破。

 本気の左ストレートを黒蠍Aに叩き込み、ついでに破邪一閃を放ったところで黒蠍Aの反撃にも意識を割き始める。


 初見の敵相手にスタン解除ギリギリを見極めて攻撃しようとすると、引くタイミング見誤って手痛いカウンターを喰らう危険性があるからな。

 そろそろ黒蠍Bの攻撃頻度も上がってきそうだし、攻めはこれくらいに留めておくのがベターだろう。


 それと、勢いでおまけの一発が二発になっちまったが……ま、いいか。

 んなことよりもこいつらを倒すことに集中しねえとな。


 武器は……このままでいいか。

 小太刀二刀流でも今のThe壁タンクみたいな構成でも特に困ることはねえし。


 大盾に切り替えたことで回避メインからガード主体の立ち回りにシフトする。

 基本は素の防御で攻撃を受け流しつつ、要所要所でアーツでの防御、回避で耐え凌ぐ。

 勿論、狙える時は積極的に攻撃を仕掛けはするが、自己強化が切れてからは、リキャストが完了するまで基本囮役に徹する。


 火力がない状態であれば、別に俺が無理に攻撃する必要はねえ。

 それに相手が災禍の眷属である以上、攻撃の最適役は——、


「……シラユキ後ろだからな」

「リリジャス・レイ!!」


 鏡影跳歩で一時戦線離脱。

 直後、膨大な熱量を持った光線が黒蠍二体を呑み込んだ。


 悪樓戦でもそうだったが、バフ盛ってひたすら術式連打でゴリ押しは、内容がシンプルだからこそ小細工の必要がなく、相性の良い敵にはこれ以上にない強力な戦法となっている。

 それに俺が前線で敵のヘイトを惹きつけて、その間にシラユキが術式で攻撃するって戦術は、一番慣れてるっていうか普段通りの戦術でもあるから、余計に戦況を有利に運べている要因になっていた。


 ……だが、


「——っ!?」


 想定外の事態が発生。

 光線が消失すると、二体いたはずの黒蠍が一体だけとなっていた。


「消えた……!?」


 いや、一瞬で姿を眩ませるほどの機動力は黒蠍にはねえ。

 だったらどうやって……。


 状況を把握しようとするも、思考を阻むように黒蠍がこちらに接近してくる。


「……チッ!」


 大盾で黒蠍の攻撃を防ぎつつ、周囲を警戒しているうちにふと気づく。


(黒蠍一体のタゲ集中が外れている……?)


 それだけじゃない。


 地中で何かが動いているような音がする。

 そして、その音はシラユキに向かって移動していることに。


 ——まさか……!!


 バッと後ろを振り返り、


「シラユキ、地中に注意しろ!! そっちに一体向かってる!!」

「え……?」


 叫んだ瞬間、シラユキの背後から姿を消したもう一体の黒蠍が地中から飛び出し、両腕の鋏をクロスするように振り下ろしてきた。


「きゃっ!?」


 間一髪、シラユキは後ろに跳んでどうにか攻撃を回避するも、黒蠍の攻撃はまだ終わらない。

 シラユキの両足が地面から離れた瞬間を狙って、尻尾の針剣で刺突を放ってきた。


「——シラユキッ!!!」


 流石にこの状態から更に回避行動を取ることはできない。

 黒蠍の繰り出した針剣は、そのままシラユキの腹部を貫いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る