黒く爆ぜて超えしは -4-
災禍の眷属の出現条件は、災禍の七獣が通り過ぎた後に近くにいたエネミー、もしくは住処と思わしき一帯周辺のエネミーを変異させること。
初めて左右兄弟と出会った日、ライトがそんなことを言っていたと脳裏に過ったのは、地中から突如として姿を現した二体の黒い煙に覆われた巨大蠍と相対した時だった。
「おいおい……二体同時とか運良すぎだろ」
実物を見るのは初めてだが、知識としては既に頭に入っている。
前に緋皇の眷属に遭遇しちまったから大分レア感薄れてるけど、災禍の眷属ってガチもんのレアエネミーだったはずだろ。
なんでこんな時に限って
「チッ……!」
こいつらと戦うべきか、全力で逃げるべきか。
普通に考えれば後者一択なんだが、黒禍ノ盾にMPを籠めようとした時、
「ジンくん、周りが——!」
シラユキの声と同時、周囲を侵入不可障壁が覆う。
「強制戦闘かよ……!!」
災禍の眷属はカテゴリ的にはボスエネミー扱い。
侵入不可障壁が展開したのは、エリアの仕様と重なった結果か。
ただ通り抜けるだけなんだから逃げさせろよ、こんちくしょう。
けど、こうなった以上は戦って勝つしかこの場を乗り切る方法はない。
「——シラユキ、戦闘準備! 出し惜しみは無しだ! 魔導書もガンガン使ってけ!!」
「うん、分かった!」
身バレとか気にしてる場合じゃねえ。
持ってるもん全部ぶつけねえと、多分コイツらは倒せない。
幸いにも今俺らがいるのは比較的安全地帯……災禍の眷属の強さは、出現場所に影響することを考えれば、格上である事には変わりないが、まだ倒せる範疇の強さになっているはずだ。
黒闇狼装備のシリーズボーナスで闇属性強化が付いているとはいえ、闇属性に耐性がありそうなアイツらに黒刀と黒禍ノ盾を使うのは悪手だよな。
だったら——、
「本格運用だ」
両手の武器を焔【赤陽】、【青月】に切り替える。
属性バフは乗らなくなるが、耐性属性で殴るよりはマシだろ。
小太刀二振りを握り締めたところで、シラユキにちらりと視線だけ向けて、
「基本的な作戦は悪樓戦と一緒だ。バフをかけ終わったら、あとはリリジャス・レイをひたすらぶっぱでいい」
「分かった……けど、それだとジンくんを——」
「フレンドリーファイアーとかは気にするな。それよりもアイツらが襲ってきた時の対処法を考えておいてくれ。なるべく俺が惹きつけるけど、突破してくる可能性があるから」
「……了解!」
力強く頷くシラユキ。
突然のボス戦になってしまったけど、大分落ち着いている。
(この感じなら……うん、問題なさそうだな)
瞬鋭疾駆起動——ダッシュ速度に補正を掛けてから、
「そんじゃ……行くぞ!!」
俺は黒蠍二体の元へと突っ込んでいく。
「テメエらどっちも俺が相手してやるよ!!」
憤怒の投錨者でタゲ集中を取り、黒蠍二体のヘイトを俺に惹きつける。
黒蠍達の間合い内に潜り込むと早速、黒蠍Aが先端の針がレイピアのようになった尻尾を俺に突き刺そうとしてくる。
「遅えよ!!」
回避スキルを使うまでもない。
小太刀で受け流しつつ、身を捻って躱してから、三浪連刃を叩き込む。
焔【赤陽】と【青月】には、特殊効果として攻撃時、火属性付与がある。
これにより斬撃がヒットすると同時に炎が上がるエフェクトが発生する。
「ついでにもう一発!!」
攻撃の終わり際に空いたもう片方の小太刀で破邪一閃を発動——横薙ぎを放ったところで、鏡影跳歩で黒蠍Bの鋏による攻撃を回避し、反撃に月砕蹴撃による回し蹴りをお見舞いする。
「はっ、どっちもノロマじゃねえか!! んなもん当たるかよボケ!!」
これならコヨトル二体の方がまだマシな動きしてたぞ!
それから暫くの間、黒蠍二体の攻撃を躱しつつ反撃の斬撃を叩き込んでいるうちに、シラユキのバフが入る。
「
STRに補正を掛ける祈祷術——シャープネスの派生強化術だ。
それともう一つ、
「
DEXに補正を掛ける祈祷術を掛けた直後の事だった。
いつまで経っても攻撃を当てられないことに業を煮やしたのか、黒蠍二体は今度は互いの攻撃の隙を埋めるような連携を取ってくる。
片方が尻尾を振り回して横方向に攻撃すれば、もう片方は尻尾を叩きつけるようにして縦方向での追撃をしてくるといったように。
だが——、
「俺に攻撃当ててえなら、もっと手数増やせよ!!」
これくらいだったら余裕で捌き切れるぞ!
空中に跳んで黒蠍Aの尻尾薙ぎ払いを躱し、小太刀二刀で黒蠍Bの尻尾叩きつけの軌道を逸らしてやり過ごす。
しかし、それを読んでいたのか黒蠍Bが即座に尻尾を振り上げ、先端の針剣で俺を斬り裂こうとしてくる。
空中にいる相手なら身動きが取れないだろ、って狙いか。
「ハッ、甘えんだよ」
エアキック発動——空中を蹴って、攻撃範囲から逃れた直後、
「リリジャス・レイ!!」
黒蠍二体を飲み込むのは、荒ぶる光の奔流。
自身に掛けたバフと装備によるシリーズボーナスやらのステ強化で威力がグンと上がっただけでなく、聖属性で弱点を突いたシラユキの渾身の一撃は、黒蠍達に少なくないダメージを与える事に成功する。
その証拠に、全身を覆う甲殻の一部がボロボロになって崩れ落ちていた。
「ダメ押しをくれてやるよ!!」
大ダメージで動きが鈍った黒蠍Aに向けて、俺はフライエッジ——飛ぶ斬撃を放つ。
火属性付与によって火炎エフェクトを帯びた斬撃は黒蠍Aに命中し、胸部を焼き斬るも、深手を負わすには及ばなかった。
「チッ……やっぱそう上手くはいかねえか!」
けど、想定していた以上には上手く戦闘を運べている。
油断は禁物だけど、ちゃんと勝機はありそうだ。
地面に着地し、一呼吸置いたところで再び黒蠍二体の中に突っ込んでみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます