順風満帆、見せかけて

 本当に見渡す限りだだっ広い平野が広がるだけのチャレンス平原を最短距離で突き進むこと約一時間。

 現在、ボスフロアで上半身は筋骨隆々な人型の獅子、下半身は馬というケンタウロス型のボス——ライオットタウルを相手にしているのだが、


「——聖蕾・光牢」


 シラユキの結界術で動きを拘束し、その隙に俺が適時合ったアーツをぶっ放す。

 ひたすらそれの繰り返しだけで戦闘が成り立っていた。


 最早、バフを掛けてもらう必要すら無かった。


 ライオットタウルは、今までのボスエネミーとは違って特殊なギミックがない代わりに、その分単純に高ステータスであり、戦闘能力も高いという事で有名らしい。

 けど俺からすれば、強いだけってのはただのカモでしかない。


 これまでのエリアボスにも共通して言える事だが、この程度の強さの敵はあっちJINMUじゃザラにいたわけだしな。


 加えて、攻略推奨よりも大きく上回ったレベル。

 明らかにオーバースペックな武器の数々。

 そして、突如として侵入不可障壁を突き破ってまで現れる事のない乱入者イレギュラー


 この三点が揃っている事で、本当にただのヌルゲーと化している。

 だからライオットタウルには、新装備の性能を確かめるサンドバッグになってもらっていた。


「、ラァッ!!」


 ライオットタウルの胴体を駆け上がりサマーソルトキックを放つ。

 装着した虚異霊の脚甲に禍々しい黒のエフェクトが纏うの視認しつつ、顔面を蹴り上げてから続け様にラウンドシュートを脇腹に叩き込む。


 特に身体の動かし方に変化は感じないが、虚異霊の脚甲を装備したことでアーツだけでなく通常の蹴りにもより重みが乗るようになっていた。


 それと盾で殴る時と同じく、DEFが攻撃力に換算されているのだろう。

 多分、与えるダメージ量も上がっていると思われる。

 しかも虚異霊の脚甲がアクセサリ扱いになっているおかげで、ちゃんとラフファイトの効果が適用されているおまけ付きだった。


 着地と同時、ライオットタウルを覆っていた光の障壁が破壊される。

 直後、拘束を解かれたライオットタウルは、俺に向かって手にした大剣を振り下ろしてくる。


「んなんもん、効くかよ!!」


 パリングガード発動、黒禍ノ盾で大剣を弾き、返しに盾にありったけのMPをぶち込んだ守砕剛破をライオットタウルの腹部に叩き込む。

 今まで守砕剛破を放つ際は、メリケンサックを握る要領で盾の持ち方を替えていたが、黒禍ノ盾の形状が巨大な手甲みたくなっていることで、その必要がなくなっていた。


 攻撃が命中した瞬間、ヒットした部分を中心に発生した凄まじい紫がかった黒の爆発がライオットタウルを吹っ飛ばした。


 間違いなく数百キロはあるであろう巨体が何度も地面に叩きつけられる。

 それでも勢いは止まらず、跳ねるように地面を転がってからようやく停止する。


 それからすぐに立ち上がろうとするも、ダウン状態になったからか上体を起こすのが精一杯のようで、その場から動けずにいた。


「——シラユキ、ダウン取った!」


 後方にいるシラユキに一言報告。

 俺は、黒刀【帳】を鞘に納めながらスプリングブーストを発動させ、ライオットタウルへと肉薄する。


 一気に間合いを詰め、射程圏内に捉える直前、リフレックスステップの上位版アーツ——鏡影跳歩きょうえいちょうほ+ドッジカウンター+クリティカル威力と弱点部位へのダメージに補正をかけるアーツ——クリティカルアイを同時起動。

 瞬間的なスピードを限界まで上昇させた上で繰り出すのは、居合抜刀によるホライズフラッシュ——すれ違い様に振り抜いた刹那の一太刀は、寸分の狂いも無くライオットタウルの喉元を綺麗に斬り裂いた。


 傷口から大量の赤いポリゴンが飛沫を上げ、ライオットタウルは項垂れるように崩れていく。

 だが、全身がポリゴンへと霧散することはなく、肉体は未だ形を保っていた。


「……チッ、これでも倒せねえか」


 まあでも、まだ発狂モードにすら入っていないのだから当然か。


 流石は高ステータスが売りのエリアボス。

 いくらレベルと装備の暴力による渾身の一撃でも沈んではくれないようだ。


(——けど、そんなのお構いなしに削り切れると思ったんだけどな)


 とどめを刺せなかったのは残念だが、どの道この攻撃が俺の最後の一撃であることには変わりない。

 黒刀を鞘に戻した数秒後、


「——リリジャス・レイ!」


 後方から放たれた荒ぶる光の奔流が虫の息となったライオットタウルを呑み込み、そのまま跡形も無く蒸発させるのだった。






 ……と、まあ、こんな感じにエリアボス戦は完全にヌルゲーだったわけだが、


「——なあ、シラユキ」

「……うん」

「あそこにいる奴さ……見るからにやべえよな」


 問題は、エリアを抜けたすぐ後に起きた。

 ディルシオンまで続くクレシオン街道——そのど真ん中に明らかにヤバそうなエネミーが、近くにいたプレイヤーを蹴散らしながらどこからともなく現れた。


 アックスビーク。

 斧のような巨大な嘴を持った陸上に特化した鳥型のエネミーだ。


 クレオーノ周辺のフィールドやエリアに生息しており、さっきエリアを攻略する過程でも何回か戦ってきているが、今俺らの前に現れたそいつは、通常のそれとは見た目も雰囲気もまるで違っていた。


 本来のサイズは一・五メートルくらいのはずなのに倍近く巨大化している。

 眼は黄色く発光し、前に戦った虚異霊みたいな禍々しい黒い魔力が全身から吹き上げ、身体のあちこちに毒々しい模様を浮かび上がらせている。

 災禍の眷属とはまた違う異質さがそいつにはあった。


(戦闘を回避……は、無理だな)


 判断し、


「シラユキ、戦闘準備……!!」


 指示を出すと同時、変異アックスビークが周囲を見渡し、とても生物とは思えない悍ましい鳴き声を上げると、周辺にいたプレイヤー全員に対し、戦闘開始を告げるポップアップが出現するのだった。




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[オーバードエネミー『アックスビーク”狂戦斧鳥トマホーク”』が出現しました。レイドバトルを開始します]

[参加人数:14/24]


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ライオットタウル

 チャレンス平原に生息する半人半馬のエリアボス。これまで戦ってきたエリアボス——ストレイクァールや壊邪理水魚とは違い、ステージを利用したギミックを使ってこない代わりに、強大な膂力と卓越した剣技で戦いを挑んでくる。

 戦い方がシンプルな分、同じ攻略推奨レベルであるレッサーグリフォンよりもステータスは高めに設定されている。戦闘技術に自信があるのであればチャレンス平原の攻略がお勧めされている。


 パワーでゴリ押しゴリラタイプのボスですが、特にステージギミックがないので主人公にとってはかなり相性がいい相手でした。

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