悠久の彼方にて
歪んだ空間を通り抜けると、俺は登り坂の前に立っていた。
周囲は袋小路のように大岩に囲まれ、一本道だけが続いていた。
「……こんなとこ、よく見つけられたな」
「まあね。といっても、ただの偶然なんだけど。ライトを回復させようと聖女の雫を撃ったら狙いが逸れて今の場所に当たったから気づいたって感じ」
「パチンコで回復アイテム飛ばすなよ」
けど、そのおかげでここを見つけられたと考えれば、ある意味ファインプレーだったと言うべきか。
これを狙って見つけろとか普通に無理ゲー過ぎるし。
「——それで、ここに何があるってんだ?」
「んー……とりあえず実際に目にしたが早いかな。口で説明するのはそれからで。だからまずは進もうか。
ひだりに促され、坂道を登り切る。
その先には断崖と二つの月光に一面が照らされた大海原が広がっていた。
「景色やばいな」
「うん、とても綺麗だね。……でも——」
俺とシラユキの視線は別のものへと向けられていた。
俺らの視線を奪ったのは、断崖の端っこに上に生えた一本の大樹。
——その下の小さな花畑に佇む、儚げな一人の少女だった。
腰まで伸びた雪のような銀の髪。
どことなく憂いを帯びている銀の瞳。
パッと見、俺らと同年代っぽそうな少女の容姿は、奇しくもシラユキのアバターと似通っていた。
「プレイヤー……な訳ねえか」
頭上にプレイヤーネームが表示されていないし、何より足元が半分透けている。
ということは、まあ……そういうことだよな。
「サラー! 会いに来たよー!」
「……ひだり。また、来てくれたんだ……。それに……ライトも。……後ろの、二人は?」
「ジンムとシラユキちゃん。前に連れてくるって言ったアタシらの仲間だよ。他にもいるけど、まずは二人に来てもらったよ」
「ども」
「は、初めまして……!」
とりあえず軽く会釈だけしとく。
すると、サラと呼ばれた少女はゆっくりと俺らの方へ近づき、銀の瞳を静かにじっと向けてくる。
見ていると吸い込まれそうになる大きな瞳は、俺らを捉えているようで別の何かを視ているような感じがする。
……なんだか色々と見透かされているような気分で落ち着かねえ。
暫しの間、俺とシラユキを交互に見つめてから、サラは一言、
「……懐かしい」
小さく呟いた。
今にも消え入りそうな声音はとても嬉しそうで、でも少し寂しそうで、そして今にも泣き出しそうなくらいに悲しげでもあった。
「貴方からは……兄さんの気配を、感じる。……それから貴女には、別の何かを……それも、とても大事な……。でも、何だろう……分からない」
自分でも困惑した様子でサラは頭を振る。
(……兄さんって、どういうことだ?)
俺に兄貴の面影がある……って感じじゃねえよな。
シラユキみたく白髪銀眼だったら分からなくもないが、サラと俺のアバターの見た目は大分違っているし、容姿でそんな対応が変わるもんなのか疑問でもある。
となると、俺の中身——内部データを参照していると見るべきか。
でも、俺の何を以て——?
「——やはり、そうだったか」
傍らで、ライトが一人納得したように頷く。
「やはりって……心当たりあったのか」
「まあな。元々、確信レベルで予想はついていたが、ジンムが来てくれたことで本当の確信に変わった。……サラ、二人にも教えてやってくれないか。——お前の兄について」
ライトの頼みにサラはこくりと頷いて応える。
「……聞いてくれる?」
「ああ」
「是非、お願いします」
承諾した直後、目の前にウィンドウが出現した。
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[グランドミソロジー〜Episode of C7thB”No.6”〜『遥か悠久の彼方にて、忘却の少女が祈りしは』を開始します]
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「——っ!!?」
唐突に開始したイベントと表示される知らねえキーワードの数々。
ついカッと目を見開くも、サラは構うことなく静かに言葉を紡ぎ始める。
(……まずはこっちの話に集中しねえと)
「兄さんは……ビアス兄さんは、とても……優しい人だった。いつも、笑顔で……誰よりも、人の幸せを願って……皆んなを、守ろうとしていた」
「へえ、いい兄貴だったんだな」
「うん……自慢の兄さん——だった」
言って、サラは星々が煌々と輝く夜空を見上げる。
瞳には深い哀しみが覆い尽くしていた。
「でも……今は、破壊と殺戮の怪物に、変わってしまった。今の、兄さんは……ただ、本能のままに……災厄を振り撒いている。……夜と空を統べる——
「………………!!」
ぶち込まれた情報に頭が混乱しそうになる。
昨夜のダイワからの爆弾も相当だったが、個人的にはこっちの方が衝撃的だった。
(は……いや、マジで言ってんのか……!?)
ライトとひだりから真面目な話だと聞かされていた時点で、何についてなのかはある程度は想定がついていた。
でも、奴とサラがどう関係するのか結び付かなかったから、答えに気づけずにいたが、今やっと繋がった。
――元から奴らはそういう魔物っていうか、種族なんだと思っていた。
偶然か必然かは別として、全てを超越した強い力を持って生まれた怪物達なのだと。
けど、実際はそうじゃねえ。
「まさかアイツらは——災禍の七獣は……!!」
恐る恐るライトに視線を遣って反応を伺うと、
「ああ、ジンムが考えている通りだ」
一度言葉を切ってから、ライトはそれを口にするのだった。
「——災禍の七獣。奴ら……少なくとも天魔ネロデウスは——
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グランドミソロジー
世界の根幹に関わる物語の体系。
この顛末が世界そのものに変化を起こす。
CBはCatastrophe 7th Beastの略。No.6と付いている辺り察しがつくと思いますが、全部で七つあります。
それとアルカディアクエストはグランドミソロジーには区分されていません。
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