左右兄妹の実力
これまで俺らのサポートに専念してくれていたからあまり実感は無かったのだが、ライトとひだりはつい最近までネロデウスを追いかける為に大陸中を駆け回っていた超ゴリゴリのフィールドワーカーだ。
それこそ現状プレイヤーが到達できる最終地点がある大陸北部最奥の街にも二人だけで行くことが出来るくらいの。
つまりそれは、二人が全てのエリアを突破可能な実力の持ち主だということに他ならないということだ。
「——キャリーされるって、こういうことを言うんだな」
あれから時は流れ、時刻は二十三時を回ったところ。
現在地、エウテペリエとフリアニアを繋ぐエリア——『サブリメティヴ樹海』最北端。
少し離れた視線の先でライトは、深紅の刀身に青い水晶のような刃が覆った無骨な大剣を手に、一匹一匹がジープ程の大きさがある獣型エネミーの群れによる猛攻を一手に引き受け、悠々と耐え凌いでいた。
超人的な回避や派手なカウンター系のスキルはなく、無傷というわけでもない。
だけど受ける攻撃は全てカスダメに留め、随所で防御系のアーツを織り交ぜたガード主体の立ち回りを見せている。
その上、隙があればきちんと攻撃を与えており、一対多数の乱戦でも動揺一つ見せない落ち着いた剣捌きは、盾を持った俺よりも遥かに壁タンクとしての役割を果たしていると言っていい。
更に付け加えると、装備の特殊効果でHPが自動回復していて、受けたダメージ量よりも回復量が上回っているから実質ノーダメージだった。
先に言っておくが、決して生産職だからと舐めていたわけではない。
そもそも初めてライトとひだりと出会った時に繰り広げられていた兄妹喧嘩を目の当たりにした時点で、力量の高さは見当がついていた。
(……だけど、まさかここまでとは)
正直、
でも、あくまでそこと比較すると少し見劣りするってだけで、一般的な視点で見れば普通に、無難に強い部類に入る。
そして、それはひだりも同様だった。
「——ライト、撃つよ!!」
一方的な宣言の後、ひだりはライトの返事を聞くよりも先に、ピンポン球程度の小さな球体をスリングショットで放つ。
放たれた球体はライトの真横を掠めるように通り抜け、奥にいた獣エネミーに命中すると、小規模の爆発を引き起こし、獣エネミーをポリゴンへと四散させながら吹っ飛ばしてみせた。
しかし、ひだりの援護射撃はまだ止まらない。
一発目の爆弾を放った直後、すぐさま二発目、三発目と次弾のアイテムを装填し、何の躊躇いもなく発射し、またライトの間近にいる獣エネミーを撃ち抜いた。
「……これ、よっぽど信頼関係で結ばれて、どっちも肝が据わってないと中々出来ないよな」
誤射を恐れずに爆弾を発射するひだりもそうだが、至近距離で爆発が起きているにも関わらず、微塵も動揺することなく獣エネミーの群れの攻撃を惹きつけ続けているライトも大概だ。
しかも注意して見てみれば、ひだりが援護射撃しているのはライトに攻撃を仕掛けようとしているエネミーばかりで、ちゃんとカバーが出来ている。
(いや、ガチで凄え……)
ずっと二人で一緒にいるからこそ可能としているコンビネーション。
最低限の言葉のみで織りなされる阿吽の呼吸は、二人だけで大陸制覇した実力を示すには十分だった。
まあでも……これくらい出来なきゃ、ネロデウスからあの確殺クソコンボを引き出せねえか。
戦闘を眺めながら、しみじみ思った。
ライトとひだりが格上のエネミーをバッタバッタと薙ぎ倒してくれたおかげで、格闘士のレベルは速攻で上限の30に達していた。
後は街に帰ってクラスアップをすれば、サブジョブに格闘士の上位職をセットできるようになる。
「……まさか二時間もしないでレベルマックスになるとは」
最上職が攻略推奨のエリアだから当然なのだが、経験値のインフレを感じるというか、悪樓討伐に間に合わせる為に必死にクァール教官を周回した苦労は一体なんだったのかと、ほんの僅かにだけ虚しさを覚えるというか——。
「パワーレベリング、恐るべし……けど、あんまやり過ぎるとダメになりそうだな」
「そうだね。それにずっと付いていくだけだと、ちょっとだけ申し訳なくなっちゃうし」
シラユキと共に苦笑を浮かべていると、
「気にしない気にしない。ていうか、皆んなはもっとアタシらを頼ってもいいのに」
「いや、ガッツリ頼ってるつもりだけど……」
「なら、このままキンルクエまで連れて行こうか?」
「流石にそれは気が引ける。それに、形だけ攻略が進んでも意味ねえだろ」
「……ジンムって変なところ律儀だよねー。ま、だからこそジンムとシラユキちゃんをここに連れて来たわけだけど」
言って、ひだりはインベントリから小さな小瓶を取り出す。
中に詰められた液体の色と、その形状には見覚えがあった。
「それって、聖女の雫か?」
「あ、知ってたんだ。そう、前にライトがジンムにあげた聖女の聖霊水の廉価版。今から行こうとしている所に入るのにこれが必要なんだよ」
正確に言うと、聖女の名前の付くアイテムだね。
付け加えてから、またしばらく移動すると、空高く聳える切り立った岩山の前に辿り着く。
「ここって——」
マップの端っこどころか現大陸の端——大陸を囲う形で連なる岩山を超えた先は、海が広がっているだけだ。
普通に考えれば、本来の攻略ルートから大きく外れただけのただの行き止まり。
ここまで来ると、他のプレイヤーの姿は影すら確認できなかった。
だが、ライトとひだりは迷うことなく岩山に向かって歩いていく。
「ジンム、シラユキちゃん。あんまり離れないでね。すぐ入れなくなっちゃうから」
ぐるりと周囲を見渡してから、ひだりは目の前の岩に聖女の雫をぶち撒ける。
すると、水面に波紋が生じたみたいにぐにゃりと空間が歪んだ。
「隠しフロア……!?」
「そ、詳しくは中に入ったら話すから、閉まっちゃう前に通り抜けちゃって」
シラユキと一瞬視線を交わしてから、二人の後に続くことにした。
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Q.生産職はちゃんと戦う時とか真面目にエリア攻略をする時だけメインジョブを戦闘職にクラスチェンジするとかできそうだけど、なんでやらないんですか? そっちの方が強そうなのに。
A.単純に別の戦闘職を最上職までクラスアップさせて、尚且つレベマにするのがめーーーーーっちゃ大変だからです。そんなことしてる時間があったら、生産スキルを強化した方が遥かに有意義です。それにエリアの中や戦闘中でも簡易的な武器強化や補修、アイテム作成ができるのが生産職の強みでもあるので、下手に戦闘職にクラスチェンジするよりも攻略が安定したりする場合もあります。
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