頼るべきは

 雷牙の剣と雷牙の盾。

 この二つの武器以外にも、別れを惜しむべき装備がある。


「——この防具一式ともお別れしねえと、か」

「そうだな。防具の新調も早めにやっておいて損は無い。それに製作者の俺が言うのもなんだが……色々と主張が強いからな、そのデザイン」


 苦笑を浮かべながらライトは、全身の至るところに装飾された豹柄を一瞥した。


「まあ……最初に装備した時は、大分抵抗感があったからなあ」


 慣れてからは、そんなに気にしなくなったけど。

 ただ、今でも街を歩いているとプレイヤーが奇抜なものを見るような眼差しを向けてくることはちょいちょいあるから、本音を言えばもうちょっと落ち着いたデザインの防具に変更したいところだ。


「けど、こいつのシリーズボーナスは普通に優秀なんだよな……」


 ATK、SPD、TECの各ステ強化に、雷属性強化(中)と雷属性耐性(中)の属性系盛り合わせ。

 あと時々忘れそうになるが、地味に嬉しい脚力強化。


 たったの四人で悪樓を撃破できたのは、これらの恩恵があったからと言っても過言ではないだろう。

 正直、防御力が上がる程度のメリットしかないのであれば、全身豹柄なことに目を瞑ってでも今のままの方が良い気がしている。


 住めば都……ってわけじゃないが、それなりに愛着がないわけでもないしな。


 ただ、雷牙の剣をメインウェポンから外してしまった事と雷属性を扱うような強敵と戦うことがない現状、属性系の恩恵に関しては若干死にスキルと化しているというのもまた事実だ。


 悪樓戦の時みたくライトニングボムを使って自身諸共爆破する戦法を取るのであれば、雷属性耐性はまだ活かせるかもしれないが、ライトニングボムはもう全て使い切ってしまったし、また大量の魔核集めをしてまでやるような戦法でもないだろう。

 つーか、そもそも基本戦術にするにはコスパがクッソ悪いからやろうとも思わん。


「シリーズボーナスに関して気にする必要はないぞ。そこは俺がどうにかする」

「マジで?」

「ああ。防具に使う素材を調整すれば、ある程度はなんとかなる。当然、限度はあるし、メインの素材によっては変更が利かない物もあるがな」


 サラッと言ってるけど、多分ライト程の技量があるからこそ出来る芸当なんだろうな。


(……ほんと、この兄妹には頭が上がらねえわ)


 二人の恩に報いる為にも、早くネロデウスに立ち向かえるよう強くならねえと。

 なんて、内心密かに決意を固めた時だ。


「ジンムー、いるー?」


 ひょこっとひだりが顔を覗かせながら一階に上がってきた。

 その背後にはシラユキの姿もあった。


「どうした」

「あ、いたいた。いきなりだけどさ今晩、時間貰っていい? ちょっと案内したい場所があるんだ」

「良いけど、案内したい場所って……?」

「まだ内緒。けど、ちょっと真面目な話になるってだけ先に言っとくよ」


 いつにもなく真剣な面持ちでひだりは答える。

 すると、つられるようにライトの表情が険しくなる。


「……そうか。ところで、他の三人はどうするつもりだ?」

「モナにゃん達はまた別の機会にするつもり。大人数で移動して変に目立っても困るし、とりあえずジンムとシラユキちゃんをに会わせるべきだと思うんだ。この二人はきっとになるだろうから」


(……ああ、そういうことか)


 何となく察しはついた。


 二人がそこまでガチになるような案件つったら思い当たる節は一つだけだ。

 まあ、十中八九あれのことだよな——。


「分かった。そういうことだからジンム、シラユキさん。唐突で悪いが、夜になったらエウテペリエで落ち合おう。詳細は現地に着いてから説明する」




「あ、そうだ。ジンムもシラユキちゃんも時間に余裕があったら、サブジョブもクラスアップできるようにしといた方がいいよ」


 暫くして、ふと思い出したようにひだりが言う。


「サブジョブも?」

「うん、そっちの方がジョブのステータス補正がより強く効くようになるから。あと習得できるスキルの幅も増えるしね。例えば、ジンムだったら蹴り技の上位技が解放されやすくなる、みたいにさ」

「なるほどな……でも、またレベリングすんのめんどくせえな」


 サブジョブの格闘士をメインジョブに切り替えるのは簡単だ。

 けど、そうするとまたレベル1からやり直す羽目になる。


「まあ、メインジョブと比べると補正幅は小さいから無理にやる必要もないんだけどさ。……でも、レベルが上がっていくほど、この小さな補正値の差が意外と馬鹿にならなくなってくるんだよね」

「ふーん……そういうもんなのか」

「ああ。俺もひだりもサブジョブを上位職にしてから戦闘が幾らか楽になった。……尤も、メインジョブが生産職だったというのも理由の一つかもしれないが」


 なるほど、経験談だったか。


 確かに補正元のステータスが大きくなればなるほど、より恩恵を受けられるようになるか。

 それに上位職版の蹴脚術を習得しやすくなるのであれば、面倒でもやっておくべきなんだろうな。


「となると、またクァール教官を周回ボコしに行く必要があるのか……」

「——悪樓の一件の時は色々あって手伝えずにいたが、ジンムが気にしないなら、俺達が一気にクラスアップできるようになるまで力を貸すぞ」

「……え、マジで?」


 思いがけない一言に顔を上げると、


「ジンム、水くさいぞー。もちろん良いに決まってるじゃん! バックアップだけがアタシらの役割じゃないんだし。むしろ戦闘とか攻略でもどんどん頼ってよ! アタシらとしても皆んなには早く強くなってもらいたいしさ」


 ひだりがにしし、と目を細めるのだった。




————————————

クラスチェンジは、メインジョブを戦士系統→狩人系統といったように基本クラスごと変更することを指します。レベルとPPはクラス毎で別管理になっている為、そのクラスに初めてクラスチェンジする際は、レベルとPP配分どちらも一からやり直しとなります。ただし、共通するアーツスキルのスキルレベルに関しては引き継ぎとなります。


ジョブチェンジは、メインジョブを神官→僧兵といったように同じクラス内のジョブに変更することを指します。こちらはレベルの変動はありませんが、PPは引き継ぎとなります。戦闘職は戦闘感覚がガラッと変わって戦いづらくなる可能性があるので無理に行う必要はありませんが、生産職は生産できるアイテムの幅を増やす為にも可能な限りやっておいた方が良いです。

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