手にするは黒
ライトが工房から上がってきたのは、あれから一時間半後のことだった。
その間にシラユキは、武器の試運転から戻ってきたひだりに付いて地下研究室に移動し、残ったチョコは、少し前にログインしてきたモナカ、朧と一緒に再度街の外に出て行っている。
「ジンム。出来たぞ」
抱えているのは、シンプルな形状をした漆黒の打刀と赤い紋様が刻まれた武者甲冑を模したような漆黒の盾。
それと黄色い装飾があしらわれた黒いレガースの三点だ。
本当は刀だけ作ってもらえればそれで良かったのだが、ライトの厚意で盾とレガースも作成して貰っていた。
「おう、ありがとよ。……にしても、見事に黒一色になったな」
「素材が素材だったからな。だが、ジンムにはこれが合っていると思うぞ」
言いながら譲渡申請を飛ばしてくる。
すぐに承認してからインベントリを開き、詳細を確認する。
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【黒刀【帳】】
黒き獣の呪いに侵された魔獣の素材を元に鍛練された業物。その漆黒の刀身はまさに星々の輝きを失った夜天のよう。果てなき闇が齎すのは絶望か、それとも——。
この剣を担いし者に闇の加護を与え、更なる力を引き出す。
・ATK+140
・特殊効果:攻撃時、闇属性付与/闇属性攻撃時、性能強化
・装備要求値:STR120、DEX60
【
黒の呪いを克服せし竜魚を素材に鍛えられた盾。踏み砕くは安寧、振り撒くは畏怖。破壊の衝動は立ちはだかる敵を打ち砕かん。
闇属性への耐性を持ち、持ち主の魔力を喰らうことで周囲に黒き衝撃を解き放つ。
・DEF+81、SDEF+31
・特殊効果:闇属性耐性/MP消費で闇属性の魔力を爆発させる
・装備要求値:STR60、VIT30、RES30、DEX60
【虚異霊の脚甲】
——より産み落とされし異霊の力を宿した脚甲。——を滅ぼした深淵の力に手を伸ばすのは、未知へ踏み出す勇気の証なのか、もしくは傲慢故の愚かさの顕れか。
この具足を装着せし者に魔の加護と一部の術式を打ち消す力を与える。
・DEF+30、SDEF+30
・特殊効果:攻撃時、魔属性付与/MP消費で一部術式無効化
・装備要求値:DEX80
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「うっわ、これまたエグく強化されたもんだな……」
「これでもまだ性能は抑えた方だぞ。でなければジンムが装備出来なくなる」
「確かに……ガチで今の俺に装備できるギリギリの要求ステータスじゃん」
装備できるようにPP配分を計算してみると、本当にギリギリだった。
剣も盾もレガースも漏れなく何かのパラメーターがかつかつなのだが、特にレガースのDEXの要求値がえげつなく、今持っているPPを全ブッパしてようやく要求値に届くといったレベルだ。
まだPPを割り振ってなかったのは僥倖だった。
——要求ステータスのことは一旦置いておくとしよう。
名前とフレーバーテキストで察することができる通り、刀作成の為に黒煇鉱石のお供として俺がライトに渡したのは、蝕呪の黒山羊がドロップしたアイテムだ。
序盤から終盤にかけて出現して、尚且つ装備強化の伸びしろがありそうな同系統のエネミー——この二つの要項に当てはまるとなると、災禍の眷属が適任じゃないかと思い至り、ライトに渡したってわけだ。
特殊効果で闇属性特化みたいになってしまったが、そこは特に気にしなくても問題ないだろう。
呪獣転侵の効果をフルに活かすなら、寧ろ闇属性強化に振り切った方がいいまである。
それから盾は、悪樓を素材に作られている。
装備するのに耐久系のパラメーターを要求されるようになってしまったが、その分特殊効果に面白そうな効果が付属していた。
「……MP消費で魔力攻撃、か」
どんな攻撃なのかは試してみないことには何とも言えないけど、これでゴースト系のエネミーみたく物理攻撃が効かない相手にも立ち回れるようになるかもしれないってことだよな。
物理一辺倒じゃ対処がキツい敵がいることは、大聖堂の一件で痛感させられたばかりだし、攻撃の手札が多くになるに越したことはないか。
そして、最後の装備——虚異霊の素材が用いられたレガースは、武器ではなくアクセサリに分類されている。
これが武器だったら運用がちょっと面倒だったが、アクセサリであれば問題なく装備に組み込める。
未だにアクセサリの枠を空けたままだったのが功を奏した。
(……つーか、こっちもこっちで変わった特殊効果があるな)
——MP消費で一部術式無効化。
これも実用性があるかは試してみないと分からないが、術攻撃に対して防衛手段が生まれたのは大きいと思われる。
欲を言うなら、盾とレガースの特殊効果が逆だったら尚良かったんだけどな。
けどまあ、効果があるだけありがたいと思うべきだろう。
特殊効果で性能の全てが決まるってわけでも無いしな。
装備の詳細を確認し終えたところで、俺は貯まっていたPPを全てDEXにぶち込み、それぞれ該当の装備を新たに入れ替える。
急激に上がったステータスに感動すると同時に一抹の寂しさも覚えた。
「雷牙の剣と盾とは意外と短い付き合いで終わっちまったなあ……。なんだかんだ結構苦労して手に入れたのに」
「最大限に性能を引き出したとはいえ、一つ目のエリアボスの武器だからな。どのみちもう少しすれば、別の武器と入れ替えることになっていたはずだ」
「そういうもんなのか」
「ああ。相棒と呼べるほど気に入ったのなら、何度も修繕と強化を重ねて使い続けるのも一つの手ではあるが……正直、そこまででは無いだろう?」
「んー……まあ、そうだけど」
製作者に向かってはっきり言うのもどうかと思いつつ頷くと、ライトは気にするなと言わんばかりに、ふっと笑みをこぼして見せた。
「なら、仕方ない。全部の武器を鍛え育てるのは難しいからな。とはいえ、一つはそういう武器を早めに見つけておいた方が良い。——今後の為にもな」
「……ああ、心に留めておくよ」
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ちなみに現在の主人公のパラメーターは、
HP:123 MP:35 STR:123 VIT:33 INT:17
RES:35 AGI:104 DEX:80 LUK:30
となっています。どうにか装備可能になるように上手くライトが調整してくれました。
複数の武器を使い分けるのであれば、育成枠と即戦力のような枠組みで運用するのがお勧めとされています。
実際、ライトも初期の頃から使い続けている武器を持っていたり……
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