完走と感想と悲報と
「………………はあ、終わった」
胸の内から沸々と込み上げてくる達成感。
コメント欄を覗けば、コメントが大量に流れている。
『GG!!』
『グッドゲーム!』
『え、ガバってこのタイム!?』
『十分、化け物でしたわGG』
『GG。見事な人外っぷりでした』
『おめでとう、GG』
『というかさ、武器ガバしてなきゃ世界一だったんじゃ……?』
……それは言わないでくれ。
気にしないようにしてるんだから。
「たくさんのGGありがとうございます。どうにか自己ベ更新出来ました」
エンディングムービーが始まる傍ら、カメラに向かって頭を下げる。
「普段ならしないんですけど、今回は初めてこんな多くの人に見て貰えているので、折角だしRTA走者らしく完走した感想を言っていきますね」
気づけば、放送を開始した時よりもアクティブ視聴人数が更に跳ね上がっていた。
現在アクティブ視聴人数——五万強。
(……マジかよ)
たった三十分そこらでこんなに視聴人数が増えていることに半ばビビりつつ、俺は感想を口にする。
「まずは、そうですね……一番最初にガバった時はどうなるかと思ったけど、どうにかクリアまで行けて良かったです」
刀装備させるのを忘れた時は事故るんじゃねえかってガチめに肝を冷やしたぞ。
『最初声震えてたしなwww』
『というか見てた感じ剣無くてもいいんじゃねって思った』
『というか主、急に落ち着いたなw賢者モードwww?』
なってねえよ、デフォに戻っただけだ。
「ぶっつけ本番でしたけど鹿登りは成功したし、神足グリッチもかなり良い場所に飛ぶことができたので、移動面に関しては文句無しでしたね」
この二つの技を一発で通せてなければ、間違いなく三十一分三十秒台になっていたはずだ。
多分、ちゃんと刀を装備して走っていたら安定チャートで岩山登りをしていただろうから、今になって思えばだけど、逆にガバって正解だったのかもしれない。
「戦闘面に関しても、神威態でちょっとだけミスった事を除けば、途中ゾーンに入れたこともあってかなりの手応えがありましたね」
『ゾーン!?』
『へー、本当にゾーンに入ることってあるんだ』
『ゾーン入るとどんな感じだった?』
『もしかして魑魅魍魎戦の時?』
うおっ……!?
意外とゾーンに食いついてきたな。
「ゾーンに入るとどんな感じだった、か。なんて言えばいいんだろうな。……こう、思考は冴え渡っているけど空間はゆっくりと動いているっていう感じですね。もしかしたら、リアルでスポーツやってた人なら分かる人いるかもしんないっすね」
ゾーンって、スポーツでよく起きるって言うしな。
反応を見てみると、少数ではあるが『あ、分かるかも』とか『経験したことあるわ笑』といった同意のコメントが見受けられた。
「まあ、話を元に戻すとして。あの……もしこの場に有識者がいたら確認したいことがあるんですけど、マガツの魔力攻撃ってジャスガできましたっけ? 俺の記憶だと防御不可だった気がするんですけど」
視聴者に向けて訊ねれば、
『いや、無理なはず』
『防御できないね。でも防いでたよな?』
『もしかして……主、ジャスガの差し込みタイミング発見した?』
見てる側も困惑していた。
「やっぱそうか……。これは、裏で検証してみないとだな」
神威態を相手にした時のジャスガ方法が確立できれば、戦闘時間を短縮できるかもしれないし。
にしても、発売して四年近く経ってジャスガ差し込めるポイントが見つかるってどういう事だよ。
ジャスガの受付時間が極端に短いのか、ごく僅かにだけジャスガが有効な箇所があったのか、それとも他に条件だったり一種のグリッチだったりするのか——。
(……ま、今考えても仕方ねえか)
「——最後に、惜しくも自分を紹介してくれたMonica♪さんの記録には僅かに及びませんでしたけど、五万人と大勢の人に見守られる中で世界五位の記録を達成できて良かったです」
言って、数秒経った時だ。
『あの……その記録、世界五位じゃないです』
不意に申し訳なさそうに書かれたコメントが目に入った。
「……へ?」
五位じゃない……?
思わず素っ頓狂な声を上げると、
『実は、昨日の夜にKIDが31:08出してる』
『一秒だけKIDに届いてないです』
『主さんや、残念だがあんたは世界六位なんや……()』
続々と悲しき事実を告げるコメントが流れてくる。
「——KIDって、
『せやで^^』
『既に集積サイトにも提出して記録も承認済みですよ』
(嘘だろ……)
一言断りを入れてから、速攻で集積サイトに飛び、JINMUの記録を開く。
一位から四位まではいつものメンツの名前が並び、その下を確認すると、確かにそこにはKIDの名前と『31:08.97』の数字が書かれてあった。
「ガチじゃねえか……!」
しかもコンマ五秒くらいの差って……!!
もどかしいような悔しいような、どうにも形容し難い感情に襲われる。
それとさっき五位だと勘違いして叫んだことへの羞恥心も芽生えてくる。
「ああ、くそっ……やらかした……!」
屈んで項垂れると、慰めのコメントと時折揶揄うような煽りのコメントが投下されるのだった。
————————————
実は主人公が知らぬ間にちゃっかり七位が五位に上がっていた件。
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