JINMU Any%盾チャート -5-
マガツが人間態の時に放ってくるようになった火柱と極光のギミックは、
「——っ!」
頭上が眩い光で照らされる。
足元が赤熱しながら隆起する。
視認した瞬間に即その場を離れ、降り注ぐ極光と噴き出す火柱を回避する。
(これがあるから攻撃のテンポが遅れるんだよな……!)
もう被弾するとかは無いが遅延行為でしかなく、対処がただただ面倒くさい。
だからこそ、ここの乱数次第でタイムが大きく変わる。
実際、モナカが自己ベを出した時はここで泣かされた憶えがある。
そのせいで四位という結果に甘んずることになっていた。
……いや、乱数の引きが悪くても四位の記録を出せていることを驚くべきなのかもな。
モナカの時と比べれば、今のギミック発動の乱数は悪くない。
だけど……もっと攻めなきゃ
「——ギアを上げろ」
無意識に呟く。
配信を見てる人が聞こえるか怪しいくらいの小さな声量。
——全神経を集中させろ。
意識を静かに沈める。
だが、胸の奥底から沸き立つ闘志は内に秘めたまま盛んに燃やし続ける。
すると——次第に周囲の動きがゆっくりと見えるような感覚に襲われる。
「っ、これは……!」
昨日の虚異霊戦で得た、あの感覚だった。
——ゾーン。
全てが視える、全てが分かる。
今まで条件反射と感覚でやって来たことが、思考して出来る。
最低限の動きだけで全ての攻撃、ギミックを対処する。
紙一重の回避、ジャスガ、パリィを的確に使い分け、最高効率でダメージを与えていく。
そして、時の流れが元通りに感じるようになったのは、十五体の敵を全部屠り切った後のことだった。
タイムは『21:15.84』——想定のラップで戦闘を終わらせられたか。
「おい、いつまでそこで高みの見物決めてんだ。こら?」
『……使えんな。大した時間稼ぎにもならなかったか』
「ああ。つーか、雑魚寄越して時間稼ぎができるとか考えが甘いんだよ。さっさとこっち来いよ。ま、尤も……」
——地面を思い切り蹴り、強く駆け出す。
「こっちから勝手に行くけどなあああっ!!」
最終決戦——テンゲンノマガツヌシ神威態との戦いが火蓋を切って落とされた。
マガツの攻撃方法は大きく三つに分かれる。
一つは、手印を組むことで放たれる魔法攻撃——JINMUの世界観的には法術とか呪術とかで呼ばれている。
プレイヤーが遠距離にいる時には、主に術攻撃を多用してくる。
——マガツの頭上に黒い光の奔流が生まれ、雷を含んだ極光の矢が飛んでくる。
最低限の捻りだけで矢を躱し、一気にマガツの懐へと潜り込む。
腹部に盾を殴りつけ、飛び膝蹴りで追撃する。
……が、マガツが怯む気配はなく、返しの攻撃として喚び出した太刀を振り下ろしてきた。
「ぬりいっ!!」
パリィで弾き、カウンターを叩き込もうとして、
「——チッ!」
一旦、距離を取る。
別方向から黒の極光を纏った掌底が突き出されていた。
術以外に残る二つの攻撃として、喚び出した太刀での斬撃と人間態の時にも使ってきた徒手空拳を使ってくる。
神威態はこの三つの攻撃手段+ステージギミックを掻い潜りながら戦う。
といっても、近接メインで戦うのであれば対処するのは実質二つだけどな。
距離を詰めた状態であれば、術の使用頻度は大きく下がり、ステージギミックも発動しにくくなる。
代わりに絶え間なく繰り出してくる太刀による斬撃と、防御不可の徒手空拳を捌かなきゃならない。
遠隔武器だとその逆で、常に放たれ続ける術と発動頻度がぐんと上がったステージギミックを対処し続けながら戦う必要がある。
だから近接系と遠隔系、どっちが良いとか悪いとか優劣はない。
強いて言うならどっちの地獄を取るか——違いはただそれだけだ。
「……ははっ」
笑いが溢れる。
一撃でも掠れば即死に繋がる怒涛の連続攻撃を、パリィとステップ回避で捌き、返しに盾を、蹴りを容赦無く叩き込む。
戦い始めた時よりも、緊張感も昂揚感もずっと高まっている。
『ぐっ……! 人間。なぜ、笑う……!』
「ああ? んなもん決まってんだろ。——楽しいからだよ!!」
マガツの胴体を駆け上がり、顔面にサマーソルトキックを放つ。
仰け反り、動きが止まったマガツの腕の一本を掴み、引き寄せながら回し蹴りを繰り出す。
マガツの首根っこに更に強烈な蹴りが入る。
そこから身体を回転させ、回し蹴りをぶち込んだのと同じ箇所へ駄目押しに踵落としを喰らわせれば、マガツの身体は大きく傾いた。
「……っし!」
まだ俺の攻撃ターンは続いている。
脳天に盾を叩きつけようと右手に籠める力を更に強める。
しかし——、
『舐めるな!!』
ここに来て、蹴り技主体にした際のデメリットが発露してしまう。
無理矢理体勢を立て直したマガツは、掌の上に球状に圧縮された黒い極光を生成すると、俺の心臓を目掛けて打ち込んできた。
蹴り技のデメリット——それは、機動力を大きく落としてしまうこと。
移動能力を代償に攻撃を可能にしているために、どうしても攻撃のパターンや攻撃後の咄嗟の対応力が低くなってしまう。
特に空中に浮いた状態で思うように身動きが取れない今は、まさに格好の的となっていた。
じゃあ、最初から空中に留まるような攻撃をすんなって話だが……仕方ねえだろ、身体が宙に浮いていて、おまけに俺よりデカい体格の奴を相手にするんならこうでもしねえと手数が足りねえんだから。
当然、リスクは承知の上だった。
だとしても、ここで仰け反りを強制キャンセルして来るのは予想外だった。
黒い極光は物理攻撃ではないからパリィは不可。
盾で防御しようにも貫通してくるので意味を為さない。
身を捩らせることもできない今、俺に出来るのは攻撃を受けることだけ。
——あ、終わった。
これは死んだ——、
「——じゃねえだろ!!!」
完全に無意識だった。
マガツの球状の極光が俺の心臓を穿つ寸前、俺は盾を胸の前に構えてジャストガードを発動していた。
ジャストガード——他の武器には無い盾特有のアクション。
パリィみたく攻撃を弾くことはできないが、無効化できる攻撃の種類はパリィよりも多い。
だが、それでも黒い極光は防ぐことが出来ない。
そう、防げない……はずだった。
黒い極光と盾が衝突した瞬間、極光は黒い粒子となって弾けるように霧散した。
「——は!?」
予想外の出来事に思考が固まりかける。
なんで……生きてる。
というか、今ジャスガ成功したよな。
「まさか差し込めた、のか……!?」
理由は分からない。
だが、おかげで九死に一生を得た。
地面に着地し、間髪入れずに俺は腹部に盾を叩き込む。
『が、はっ!!』
虚を突かれたからか、マガツには大きな隙が生じていた。
——畳み掛けるなら今だ。
「オラァ!!!」
さっきは空中に留まり過ぎたせいで被弾しかけたから、今度は出来るだけ地上に足を付けることを意識して攻撃を仕掛ける。
流れるように蹴りと盾殴りの連撃をマガツに打ち込む。
時々繰り出してくる斬撃はパリィで弾き返し、極光を纏った徒手空拳は回避する。
さっきは何故かジャスガが成功したが、条件がはっきりしていない以上、無闇に使うわけにはいかない。
というか、地上にいれば咄嗟の回避が出来るから狙う必要がなかった。
しばらくすれば攻守が入れ替わり、マガツが怒涛の連続攻撃を仕掛けて来るようになる。
それからまたしばらくすればまた俺の攻撃が始まる。
そのような攻防を何度か繰り返す内、マガツの行動に変化が現れる。
『認めぬ、認めぬぞ……!』
マガツが今まで組んでいた手印の形を変える。
胸の前で直立した左手の人差指を右手の拳で握ってみせると、周囲の空間を
——世界の再構築。
今ある世界を全て無に返し、世界を意のままに作り替える。
その際、大地を循環するはずだった地脈エネルギーを取り込む為、マガツの攻撃が一段と強力になるが、同時にそれだけマガツが追い詰められている証でもあった。
『我は創造主、世の理の主なり! 敗北などありえはせぬぞ!』
「ハッ、好きに吠えてろ!!」
マガツが握る太刀の刀身に黒い極光と雷が宿る。
これにより斬撃は高火力、広範囲、一撃必殺の大技となる。
だけど、この攻撃こそが最大の攻撃のチャンスだったりもする。
マガツは太刀と掌による連撃を繰り出す。
俺はその攻撃の悉くを完全に見切り、カウンターのタイミングを窺う。
もうこれ以上パリィをする必要も、こっちから攻める必要はない。
狙うはただ一点——、
「——ここ!」
マガツが太刀を両手で握り締め、大きく振り被り、少しの力を溜めてから袈裟斬りを繰り出す。
黒い極光は基本防御、パリィ共に不可だが、こいつだけは別だ。
——パリィを発動させる。
受付時間が通常のそれより短くなっているが、この攻撃だけはパリィが可能となっている。
そして、パリィを成功させ、振り下ろされた太刀を弾くと、太刀に宿っていた雷を纏った黒い極光が盾に移った。
『なっ……!!』
「終わりだあああああっ!!!」
マガツの胸部に黒い極光が宿った盾を叩き込む。
体内から何か硬い物が砕け散るような音が響き渡る。
それは、力の根源たる魔力の核が砕け散った音だ。
つまりこれがテンゲンノマガツヌシを撃破した瞬間だった。
刹那——マガツの動きは完全に停止し、目の前にはカウントの止まったタイマーが表示される。
結果は——『31:09.40』。
自己ベストを大幅に更新していた。
おまけにこのタイムは……、
「——世界五位きたあああああっ!!」
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どうにか完走まで書き切れました……。
一話のトドメの刺し方と今回のトドメの刺し方が異なるのは、Any%と100%では状況が大きく異なっているためです。
100%だと戦闘開始時点で世界の再構築がかなり進行しているので、マガツヌシの力が強まっているというわけですね。なので安定した通常攻略をする場合は、マガツヌシの性能が強化されるフラグを建てないことが重要になります。
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