JINMU Any%盾チャート -4-

 このゲームの敵はどいつもこいつも初見殺しの攻撃を仕掛けてくる。

 勿論、それはテンゲンノマガツヌシも例外ではなく、しかもこいつの場合、どれだけステータスを強化しても触れれば即死のクソ技を初手でぶっ放してきやがる。


 だからこそ俺は神足をいつでも発動できる態勢を整え、テンゲンノマガツヌシ——長えから以後マガツ——の攻撃に備えていた。


「——っしゃおらあああっ!! 始めようぜ、楽しいタイマンをよおおおっ!!」


 神足によるブーストダッシュ+道中で拾っておいた敏捷を上昇させるアイテム”疾風の丸薬”の組み合わせで迫る極光を回避し、一気にマガツの元へ肉薄する。


 ちなみにこの初見殺しの回避は必須だ。

 マガツが攻撃をする前に不意打ちだったり遠距離から狙撃をしようとすると、自動防衛機能が働いて問答無用で回避不可の即死技を喰らう事になる。


「小癪な……っ!!」

あめえっ!!」


 突き出される掌底をパリィで弾き、返しにマガツの顔面に盾を叩き込む。


「がっ、は……!」


 悪いが、お前の動きは完全に把握してんだ。

 武器が盾だけだとしてものお前じゃ相手になんねえよ。


 マガツが繰り出す攻撃の悉くをパリィで弾き返す。

 その度に、盾の殴打と蹴りを一方的に浴びせる。


 ——蹂躙。


 半ば作業にも近しい攻防のやり取りは、もはや戦闘とすら呼べないワンサイドゲームと化していた。


「……人間風情が、調子に乗るな!」


 マガツが叫ぶと同時、足元がボコっと隆起する。

 瞬時に反応してステップで回避した直後、隆起した地面からはプレイヤーを一瞬で灰燼へと返す豪炎の火柱が強烈な勢い立ち昇った。


 HP減少に伴う行動パターンの変化。

 これから先は、ランダムに発生する火柱にも注意して戦う必要がある。


(……いや、火柱だけじゃねえな)


 回避に成功したその先——スポットライトを当てるかのように、眩いばかりのが頭上を照らす。

 刹那——降り注ぐのは身体を瞬時に蒸発させる黒き滅却の極光。


 俺は前に突っ込み、マガツの懐に潜り込むことで極光を免れた。


 立ち昇る豪炎の火柱と降り注ぐ滅却の光。

 これからずっと地面と空に注意を払いながら、戦わなければならない。


 擦ることすら許されないギミックを対処しながら繰り広げる戦闘。

 一瞬でも気を抜けない緊張感、それとギリギリの攻防を繰り広げられる昂揚感で心臓がどくどくとうるさいくらいに高鳴る。


 殴り、避け、蹴り、弾き、また殴る。


「アッハッハッ!! やっぱ堪んねえなあっ、このひりつく感覚は!!」


 何十回、何百回……何千回と繰り返してもまだ全然飽きが来ねえ。

 アルクエも手強い敵はちらほら出てきてはいるけど、戦っている時の楽しさで言えばまだまだお前が一番だよ。


 改めて認識しながら俺は、マガツの正拳突きをパリィで弾き、カウンターで二連の回し蹴りを叩き込む。

 大きく怯んだ隙を突き、盾で顎を打ち上げ、続け様にサマーソルトキックで畳み掛ける。


「なぜ、だ。なぜ、人間なんぞに……!?」

「前のお前も一字一句同じことを言ってたよ」

「……前、だと?」

「ああ。尤も……もうすぐそんなこと考えずに済むようになるけどなあ!!」


 追い討ちでマガツの脳天に盾を振り下ろすようにして叩きつける。

 勢いのままに顔面が地面に沈むと、マガツはそのまま動かなくなった。


(タイムは……!?)


 ——『17:21.76』。


 よし、悪くない。

 それどころか普通に上位陣に並ぶペースだ。


 まあ、こっから事故る可能性も大だから喜んでばかりもいられねえけどな……!


 一度充分に距離を取り、気を引き締め直した時、


「——来るか!」


 マガツを中心にして地面に黒い光の奔流が渦巻く。

 瞬く間に光は周囲を飲み込み、一気に拡散すると、さっきとは姿が打って変わったマガツが鎮座していた。


 鹿を彷彿とさせるも白くのっぺりとした頭部。

 六本に増えた腕、背中と腰付近から生えた計四対の深紅の翼。

 下半身は無く、身体は宙に浮かび上がっている。

 それでも人間態の時よりも全長は二倍近くになっている。


 テンゲンノマガツヌシ第二形態——神威しんい態。


 マガツが力を解放した本来の姿であり、神としての姿。

 この状態になったこいつを倒した時点でタイマーストップとなる。


(……けど、その前に——)


『我は創造主。我は不滅の存在なり』


 マガツが俺から離れると、周囲に黒い沼のような影が発生し、中から物の怪共が這い出てくる。


 鬼、死霊、骸骨……etc.

 その数、実に十五体——出現したのは全てこの天の岩戸に出現する雑魚敵……の強化個体だ。


 マガツはこいつら全員倒さないと、ずっとプレイヤーから距離を取ったままだ。

 というか、倒さないとここら一帯を飲み込む大技をぶっ放してくる。

 だから雑魚は速攻で殲滅しなきゃならない。


 余談だが、Any%でやるとこの数だが、100%の時は三百体を相手にすることになる。

 数が増えるのは、100%だとマガツの性能ががっつり強化されるからだろう。


 まあ、それはいいとして……、


「最速で屠ってやるよ!!」


 道中で拾っておいた攻撃力を底上げするアイテム”鬼神の丸薬”を使用し、物の怪共の群れの中に飛び込む。


 ——四分だ。


 四分でこいつら全員鏖殺する。

 それでギリギリ四天王に匹敵するタイムを出せる。


 本来なら一つ下のランクの”剛腕の丸薬”で事足りるのだが、この為にわざわざ寄り道してまで鬼神の丸薬を拾いに行ったんだ。


「てめえら、速攻でくたばりやがれ!!」


 間合いに入る直前で高く跳躍し、身体を横に倒しながら放つ回し蹴りで骸骨の首をへし折る。

 その隙を突いて襲い掛かろうとする鬼の脳天に向けて、盾をぶん投げる。


「リーチ外からでも攻撃は出来んだよ!」


 着地と同時、別の鬼の足元に滑り込み、足払いをかける。

 すっ転んで動けなくなった頭部を掴み盾にすることで、別方向から襲いかかってくる死霊の攻撃を鬼に受けて貰う。


 お返しに死霊の頭をムーンサルトキックでぶっ飛ばし、間髪入れずに盾の近くにいる骸骨に飛び蹴りをお見舞いしてから地面に落ちた盾を拾い上げる。

 直後、さっき投げた盾をぶつけられた鬼が拳を振り下ろしてくる。


「——鈍いっ!!」


 パリィで弾き、もう一度顔面に盾殴りを叩き込む。

 それから不意を突くように後方から放たれた骸骨の槍を躱し、鬼に同士討ちをさせてから骸骨も盾で思い切りぶん殴ってみせた。




————————————

流石にコメントを見てられる余裕はないですね。

雑魚敵戦は湧いてくる敵も位置もランダムの為、ガチファイト案件です。

マガツ人間態の時もガチファイトなので大して変わらないのですが……()

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る