JINMU Any%盾チャート -1-
JINMUのAny%でやることを簡単にまとめると、速攻でチュートリアルエリアの洞窟を抜けてからプレイヤースキルとグリッチを駆使してラスダンに突入し、火力アップアイテムを回収しつつボスフロアに向かい、ガチファイトでボスをボコす……という流れになっている。
「普段だったらガバった時点でリセットするけど、今回は途中でミスっても最後まで通しでやりますね」
言いながら、俺はキャラメイクを始める。
つっても、名前は”a"で他は全てデフォルトの設定なんだけど。
初期設定で選ぶことができるのは、プレイヤーの名前と性別、体型、髪型といった見た目と両手に装備する武器だ。
もう何回もやって来た作業だから、コメントを流し見しながらでも問題なく終わらせられる。
『主、自己ベストどんくらい?』
『ランキングに乗った事はある?』
『盾チャーって強いの?』
「んー、大分前の話だけど自己ベは大体三十五分前後とかだったかな。個人的に計測した奴だから公式記録ではないけど、当時なら十位以内には入ってた気がします。武器に関しては扱いやすい扱いにくいはあるけど、強い弱いとか特にないですよ。このゲーム、武器の強さは良くも悪くもプレイヤーの使い手次第なんで」
じゃなきゃ一位から三位まで武器被りが起きていない、なんて状況になってないだろ。
大事なのは自分のプレイスタイルに合った武器をどれくらい使いこなして、チャートを細かく調整できるか、だ。
質問に答えつつ、俺は手癖で完了させた設定を終了させる。
「それじゃあ、画面が切り替わったらタイマースタートです。始まったらコメント返せないと思うんでそこんところは了承お願いしますね」
『GL!』
『グッドラック!』
『了解です!』
コメントが流れる中、一つ気になるコメントが目に止まる。
『あれ、剣はいいの?』
——剣?
キャラメイク用のウィンドウに視線をやる。
そして、気づく。
「……あ」
——左手の装備、何にも持たせてねえじゃん。
うん、普通にやらかした。
しかし、時既に遅し。
俺はゲームスタート前の最終確認のボタンを流れるようにタップしていた。
目の前が暗転する。
数秒のロードを挟み、瞼を持ち上げるように視界が開いていく。
そこは所々から陽の光が差し込む洞窟の中だった。
俺の身体は、項垂れるようにして洞窟の壁にもたれかかるようにして座り込んでいた。
——ゲームが始まった。
身体が動かせることを自覚したと同時、俺はすっと立ち上がり、外に向かって全速力で駆け出す。
『あの、もしかして初っ端ガバった……?』
『盾チャーって盾だけのチャートかよwww』
『あれだったらリセットしてもええんやで』
『いや、寧ろこのまま走ったら面白そう』
コメントを流し見しながら、俺はようやく口を開く。
「ま、まあ……こっからミスしなきゃ世界一なんで」
精一杯の強がりを。
『ガチでガバってんじゃねーよwwwww』
『主、声震えてるよ^^』
『あーあ、やらかしちゃったよwww』
『え、これで走るの?』
——ああ、走ってやるよ!
さっきミスっても最後までやるって言ったばっかだしな!
「本番はガバるもの——盾だけでもどうにかしてやるよ」
ギアを切り替える。
こっからはガチの集中モードで行く。
疾走すること十数秒。
前方にJINMUにおける最初の敵、小鬼の姿を捉える。
小鬼は俺を発見するや否や、近くに落ちていた礫を拾い上げ、俺の心臓目掛けて勢い良く投げ飛ばしてきた。
「——んなもん、当たるかよ!」
トップスピードを維持したまま、最小限の動きで回避し、そのままゴブリンの真横を通り抜ける。
体感二秒後、横方向に僅かに進路を変更する。
直後、後方からさっきまで俺がいた場所に向かって二発目の礫が飛ばされた。
これがJINMU最初の初見殺し。
二段構えの投石だ。
RTA走者ならノールックで避けれて当然の攻撃だが、初めてプレイする人はまずここで記念すべきファーストデスを捧げる事になる。
俺も最初はきちんとこいつにぶっ殺された。
小鬼はプレイヤーを発見するとしつこいくらいに追従するが、ある程度距離を引き離せば諦めて所定の位置へと戻っていく。
こんな感じに道中の雑魚は基本的に全無視で進んでいく。
ゴブリンを引き離してからまた少し走ると、遠くに洞窟の出口が見え始める。
が、出口の少し手前にある開けた空間に出た瞬間、突如天井が崩落し、空いた天井から体長三メートル近い巨人が上から飛び降りて俺の前に立ちはだかる。
筋骨隆々の強靭な肉体に赤眼で赤い肌の怪物。
両腕と両足には無理矢理引き千切られた手錠が嵌められ、纏う衣服はボロボロで薄汚れている。
咎の赤鬼——チュートリアルエリアを抜ける為のボスであり、JINMU初見プレイヤー達にとっては最初の関門。
ごく少数ではあるが、ここで挫折するプレイヤーも出てくる。
咎の赤鬼がどんな敵かというと、言ってしまえばさっきの小鬼をそのままデカくして強力にした感じの奴だ。
であれば、当然——初手ノータイムで岩石を投げつけてくる。
咎の赤鬼は、俺を視界に捉えると、天井が崩落した際に出来た掌サイズ(※俺らにとってはサッカーボールくらい)の岩をさっきの小鬼が放った礫よりも速いスピードで力任せにぶん投げてきた。
(まあ、速くなっても当たらねえんだけどな!)
飛んできた岩石を紙一重で躱し、咎の赤鬼の懐に潜り込む。
普段であれば刀で斬りつけていたところだが、ガバったせいでそれが出来ない。
「——だったら盾と蹴りで戦えばいいだけの話だ!!」
ハードアッパーの要領で、咎の赤鬼の顎を打ち上げ、ガラ空きになったボディに回し蹴りを叩き込む。
更にもう一撃、回転して勢いをつけてから回し蹴りを放つと、反撃に咎の赤鬼の両腕が俺の頭蓋目掛けて振り下ろされる。
「遅え!!」
盾装備にデフォで備わっているアクション……パリィで攻撃を弾き、ガラ空きになった腹部に渾身の前蹴りをぶち込む。
そこから追い討ちにシールドバッシュを叩き込むと、咎の赤鬼がダウン状態となり両膝が地面に崩れ落ちた。
(……案外、盾と蹴りだけでもどうにかなるもんだな)
アルクエでクァール教官と戦った時の経験が役に立ったか。
しかも、あの時と違って左腕があるから全身のバランスも取りやすい。
それと蹴り技練習の為に
まさかここに来て他ゲーでの経験が活きるとは。
思わぬ恩恵を感じつつ、俺はこのまま速攻で咎の赤鬼を討伐してみせた。
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初っ端ガバ
あー、早速もう滅茶苦茶ですね()
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