腹、括って
「はあ……こうなった以上、やるしかねえか」
昼食を済ましてから数時間後、VR内アバタールーム。
あるゲームのタイトル画面を表示させた状態で俺は小さく呟く。
できれば一日中アルクエに
とはいえ、ヒーローの動画編集担当とモナカが拾い上げたことで集まった注目を逃すわけにはいかない。
欲を言えば、自分の力でちょっとずつチャンネルを成長させたかったが、だからと言ってこの好機をみすみす棒に振るのは勿体無さ過ぎる。
その為に予定していたアルクエの攻略を取り止め、別ゲーの練習に時間を充てていた。
「久しぶりだったから、グリッチの感覚を掴み直すまでに結構時間が掛かっちまったけど……まあ、これなら人様に見せられるくらいにはなっただろ」
ぐだぐだで良いなら速攻で
メニューウィンドウを操作し、目の前にホログラム状の灰色の球体を呼び出す。
それから動画サイトを開き、諸々の設定を完了させた後、俺は意を決して
(さて……どうなる?)
目の前の球体が灰色から赤色に切り替わる。
——配信中の合図だ。
配信開始から少しの間、ウィンドウを様子見する。
最初はいつも通りにぽつりぽつりと人が入ってきていたが、アクティブ視聴人数が十人を越えようとした時だった。
百人、二百人と爆発的に増え始め、同時にコメントも雪崩のように大量に書き込まれ始めた。
目まぐるしいスピードで視聴数は増えていき、最終的に数字が落ち着く頃には、アクティブ視聴人数は千五百人近くとなっていた。
「うわ、凄え……ドッキリじゃねえよな、これ?」
正直、大掛かりなドッキリでしたって言われても納得できるぞ。
しかし、コメント欄は『ドッキリじゃないよw』とか『何でその発想になるの笑』みたいな反応が返ってきていた。
「マジかよ……あ、すんません。今までアクティブ視聴人数が一桁がデフォの底辺チャンネルだったもんで。ちょっと真面目に状況の変化に戸惑ってます」
すると、また俺の発言に対しての反応がブワッと返ってくる。
それこそ一つ一つのコメントには対応しきそうにないくらいに。
これが有名配信者の配信ってやつなのか……!?
いや、モナカと比べるとまだまだ少ないんだけど。
「とりあえず……軽く自己紹介でもしときますか。多分、今配信を見にきてくれている人の大半は誰だよ、お前って感じだと思うんで。どうも、RTA配信主です。主って呼ばれることが多いですけど、特に名前は決めてないんで皆さんの好きに呼んでもらって構わないです」
言うと、『名前無いの草』やら『本当にチャンネル名まんまなのかよwww』とかツッコミのコメントが流れてくる。
「配信用の名義にこれといった拘りがないもんでね。要望が多ければ配信名を考えるかもしれないけど……ぶっちゃけ見てて不快にならなきゃ名前なんてどうでもいいでしょ」
それにずっと主って呼ばれてたから、今更変えるのもなあって気持ちもある。
愛着ってほどでもないけど、実を言うとそれなりに気に入ってもいるし。
「……と、話が逸れたな。自己紹介に戻りますね。チャンネル名の通り、主にRTAを配信しています。メインで走っているのはJINMUですけど、RTA要素があれば有名どころでもクソゲーでもやります。昨日は、お通夜なんて呼ばれてるHope of Dawnってゲームを走りました」
途端——大量の草コメが一斉に流れ出した。
『wwwwwwwwwww』
『あのクソゲーすらRTAするのかよwwww』
『お通夜ってあれだよな、あのクソゲー投稿者で有名になったwww』
『もしかして主、ヤバい系の配信者?wwwwwww』
安心しろ、JINMUのRTAしてる時点で道はちゃんと踏み外してる。
そういう意味だと、ヒーローもモナカもSyu-Taも皆んな仲良く頭のネジが外れた異端者だ。
「もしお通夜でどんなRTAすんのか気になったなら、アーカイブ残してあるんで、それを見てもらえばと思います。一時間ちょっとでクリアしてますんで」
まあ、それはいいとして。
「——自己紹介はこんなところですかね。それじゃあ、早速なんですけど挨拶がわりに一本通しで走ってみますか。多分、俺の配信を見にきてくれたのって、これが目的でしょう?」
『おお……本当に走るんだ』
『主、どんな走りをするんだろう。ワクワク』
『Any%もやれるの?』
『流石に動画のあれはやらんのか……』
期待と疑心のコメントが同じくらいの量で返ってくる。
ちなみに、今回の配信で走るゲームタイトルとレギュレーションは配信名に記載してある。
——JINMU Any%盾チャート。
(……遂にガチでAny%を走る時がやってきたか)
今まで100%に集中するからと盾チャーで走るのは避けてきたが、Any%のランキング更新を目指す以上、そろそろ真剣に向き合わねばならないとは思っていた。
現在、一位のMr.Deerが持っている記録は『30:56.02』——数いる走者の中で唯一の三十分台だ。
一発勝負で記録を更新できる気はしないが、せめて三十一分前半……できれば十秒台には届かせておきたい。
——じゃなきゃ
「じゃあ、準備が整い次第、計測始めるんでちょっと待っていてください」
言って、俺はJINMUを起動するのだった。
————————————
ようやくJINMUを書く時が来てしまいました……()
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