帰るまでがクエスト

「どうにか倒したけど……なんだったんだ、今のボス」


 見た目が完全にクリーチャーっていうか、別ゲーのそれだったよな。

 にしても、アルクエにこんな趣味の悪い見た目のエネミーも用意してるとは。


 ちょっと意外ではある。


「……ま、奴の正体に関しては後で考えるとして」


 現在のHPを確認すると、ゲージそのものが消失を始めている。


 急いで帰らねえと……けど、残り二分で入り口まで戻れるか……?


 俺は全力で走ればどうにかなるだろうが、果たして他三人が間に合うか怪しいところだ。


 ……いや、朧はどうにかなるか。

 戦ってるのを見た感じ、ワンチャンでチョコもそうだな。


 朧は並外れた身体能力で、それとチョコは恐らくAGI特化であろう機動力で。


「朧、チョコ。最悪二人だけになったとして生還できそうか?」

「え? ……う、うん。またボスが出てこなければ多分?」

「ちぃは問題ありません。この程度ならお茶の子さいさいです。ぶい」

「そうか。じゃあ、ちょい無責任になるけど、そうなったら頑張ってくれよ」


 残る問題は——、


「シラユキ」

「どうかした、ジンくん?」

「すまん、先に謝っとく。悪いが、説明してる時間がねえ」

「えっと、それってどういう……きゃっ!?」


 返事を聞くよりも先に、シラユキを抱き抱える。


 ある程度のAGIがあって近接戦闘もいける朧とチョコと違い、シラユキはAGIにはほとんどPPを振ってない低速ビルドだし、近接戦闘になったらほぼ負ける。

 朧とチョコに護衛をしてもらうという手もなくはないが、それよりも俺が抱き抱えて移動するのが一番手っ取り早いし安全だ。


 また事後承諾になってしまうが、デスポーンさせるよりはマシだ。


 それから俺は、朧とチョコに向けて叫ぶと同時に強く地面を蹴る。


「——よし、走って入り口まで戻るぞ! 二人は頑張ってついて来てくれ!」

「え、ええっ!? ……って、ひゃあ!?」


 そして、AGI系の自己バフとリフレックスステップをガンガンに回した全力ダッシュで地下道を駆け抜けるのだった。






「——いやはや、先ほどは申し訳ありませんでした。まさか先ほどの漆黒の者の正体が獣の呪いが発症したあなただったとは……!」


 どうにかタイムリミットギリギリにシラユキを地下道入り口まで送り届けてリスポーンした後。

 急いで大聖堂まで戻ると、開口一番、エリックに頭を下げられた。


「いや、こっちこそ驚かせて悪かったな。確かに暗い地下道であんなのが出たら誰だって魔物だと勘違いしてもおかしくないもんな」


 エネミーと勘違いして待ち構えていたNPC全員から術ぶっ放された時は、流石にちょっと焦ったけど。

 なんであれ、俺以外は全員無事に生還できたからよしとするべきだろう。


「それより、地下道の様子はどうなった?」

「あなた方の活躍のおかげで魔物たちの活性化はほとんど収まりました。数も大分減ったので、これであれば当分の間、魔物の発生も少なくなるはずです」

「そうか。じゃあ、ひとまず一件落着ってところか」


 ボス含めて百体以上エネミーを狩り尽くしたかいがあったものだ。

 最後こそ呪獣転侵自爆装置が起動してしまって無事生還ってわけにはいかなかったが、余程低乱数引かなきゃ三十分近くは戦っても大丈夫って判明もしたしな。


「ところで……お連れの方がさっきからあの様子なのですが、大丈夫でしょうか?」

「え?」


 苦笑を浮かべたエリックの視線の先にあったのは、隅っこで小さく丸くなったシラユキの姿だった。


 不審に思い、シラユキの傍まで近づき、声をかける。


「……シラユキ?」

「ひゃっ!? ジ、ジンくん!? いつから……!」

「今来たとこだけど。……もしかして、さっきの揺れで酔ったか?」


 スピード最優先でエネミーガン無視の強行突破してたからな。

 慣れてないと三半規管にかなり響いていたとしてもおかしくはない。


「う、ううん! 体調はなんともないよ。ただ……」

「ただ?」

「えっと、やっぱりなんでもない。気にしないで」

「……?」


 首を傾げていると、


「シラユキさんは僕とチョコさんで見てるから、ジンム君は司教さんと話の続きをして貰っていいかな?」

「あ、ああ……分かった」


 朧に促されたので、とりあえずエリックの元に戻ることにした。


 なぜか、何か言いたげにしたチョコにじーっと見つめられているような気がしたが、あまりに気に留めないようにしておこう。


「とりあえずは大丈夫っぽそうだ」

「そうですか。ずっと悶えていたりしていたようですが、なら一安心です。それで、今回のお礼と言うわけではないのですが……貴方が望むのであれば、聖女の霊薬をキンルクエから取り寄せるようにしましょう」

「え、マジで。いいのか?」

「ええ。一度に用意できる数に限りはありますが、数日待っていただければお渡しできるかと思います」

「……っし!」


 思わぬ収穫に拳を握り締める。


 これでライトとひだりに頼まずとも自力で入手できる。

 流石にアイツらに聖女系の回復アイテムを買いにキンルクエまで行ってきて、って頼むのは申し訳なかったからな。


「それと他の御三方にはもう渡してあるのですが、お礼としてこちらを」

「ん、何これ?」


 エリックから渡されたのは、銀の装飾が施された黒の腕輪だ。

 黒をベースに銀のアクセントって、なんか聖黒銀の槍みたいだな。


「教会の祝福を施した魔鉱石から作った装飾品です。これで探索者である貴方がたの力を引き出せるかと」

「ふーん」


 出現したポップアップには、”浄魔の腕輪”と書かれていた。




————————————


【浄魔の腕輪】

 教会の祝福を受けた魔鉱石から鍛造された腕輪。更なる加工を施すことが可能。

 身に付けし者の内なる魔力を引き出す。

・MP+15、SATK+10、DEF+5、SDEF+5


————————————




 うん、俺のビルドとは微妙に噛み合わねえな。


 けど、性能としては悪くない。

 というか普通に優秀な部類に入ると思われる。


 エリックには悪いが、これは俺が装備するんじゃなくて、シラユキとか朧に装備させた方が有効に扱えるだろう。


「改めてですが、魔物を退治していただきありがとうございました。あれだけ大量発生していたとなると、ドン個体も出現していたことでしょう」

「確かにウェアラットのドン個体とは遭遇したけど、大した敵じゃなかったぞ。それより後に出てきた虚異霊って異形の亡霊を倒す方が苦労したな」

「……異形の亡霊?」

「ああ、頭部と胴体が一体化してて、六本の腕が生えた脚無しの亡霊」


 途端、エリックは眉間に皺を寄せる。

 そのまま指先を眼鏡のつるに当てて位置を直して言うのだった。


「すみません、そんな魔物見たことも聞いたこともないのですが」

「……マジ?」




————————————

虚異霊の簡単な倒し方は聖水をぶっかけることです。

聖女の聖霊水であれば余裕でオーバーキルが可能です。

しかし、ドロップアイテムの数は減るので素材が欲しいのであれば正攻法で倒しましょう。

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