青く白く光りしは、都市内を繋ぐ網の石

 結局、虚異霊の正体は分からぬまま、俺たちは大聖堂を後にした。


 クエストを達成した以上、あそこに長居する理由もないし、モナカから物件が見つかったと連絡もあったからな。

 それに俺たち四人が虚異霊についてあれこれ考えても答えが出るわけもないから、情報共有の為にも指定された座標へと向かっていた。


 大聖堂とかNPCカフェ”ラルカンシエル”がある中央区を出て、北区に入ったところで俺は大きくため息を吐く。


「——それにしても、街の中移動するだけでかなり歩かなきゃならねえとか、どんだけデカいんだよ。この街」

「確かに。一つの区画を通り抜けるだけでも結構時間がかかるのに、これが五つもあるんだもんね。前の二つの街と比べると規模が大違いだよ」


 隣で苦笑を浮かべながら朧が首肯する。


 いやまあ、マップ見た時点でバカ広いなとは思ってたし、攻略サイトにもクレオーノは全拠点屈指の面積があるって書いてたけどよ。

 だからって限度というものがあるだろ。


 うろ覚えだけど、区画一つ当たりの広さはバチカン市国よりちょっと大きいくらいらしい。

 つまり東西南北中央の五つの区画に分かれるクレオーノの面積は、バチカン市国五つ分+αに相当するということだ。(まあ、バチカン市国って言われてもぶっちゃけピンと来ねえんだけど)


 ここまで広いと、アポロトシアとビアノスが大分可愛らしく思えてくる。

 あの二つの街も狭いとは全く思わなかったのにな。


 つーかここまで広いとなると、下手すりゃこれまで攻略してきたエリアよりもワンチャン広いんじゃねえか?


 ……いや、それは流石に盛ったわ。

 エリアって入り口から出口まで最短で進むから短く感じるけど、縦にも横にも広がってるから隅々まで探索しようとするとえげつない広さになるんだった。


 特にネクテージ渓谷なんて、二つの台地もエリアに含まれてるらしいから面積に換算したら半端じゃない広さになるはずだ。


「……ま、狭くて拍子抜けするよりはマシか。けど、せめて乗り物とかファストトラベルみたいな移動手段は欲しいよな」

「そうだね。自転車とかがあれば便利だよね。……ところで、ジンム君。ファストトラベルって、何?」

「言っちまえばワープ機能みたいなもん。昔のRPGでもあったんじゃねえか? 街から街へひとっ飛びするやつ。ただ呼び方が違うってだけだ」


 けどまさか、街の中でもファストトラベル機能が欲しいと思う時が来るとは。

 最悪ファストトラベルじゃなくていいから、タクシーとか自転車とか歩かなくても済む方法があれば良いんだけど。


 なんて思ったところで、ふと道の端に朱鷺トキと雄鶏を模した台座の上に青白く輝く水晶のような鉱石が浮かんだオブジェクトがあるのが目に入る。

 高さは大体一・五メートル程度。

 いかにもセーブポイントですよ、と言わんばかりのそいつの周りには、結構な数のプレイヤーが集まっており、ウィンドウ操作をして姿を消したり、出現したりしていた。


「なあ、なんだあれ?」


 足を止め、謎のオブジェクトを指差すと、チョコが答える。


「あれはエーテクリスタルすね。クレオーノのあちこちにあって、一度調べたエーテクリスタル間でテレポートできますよ。ほうほう、こんなところにもありましたか」

「へえ……ん、あちこちにある?」

「はい。街の入り口とか、区画の境目とか。あとは広場とかにもあるみたいですよ」

「……マジかー」


 完全に見落としてた。


「朧、知ってたか?」

「ううん、今初めて知ったところ。ああいうのもあったんだね」


 朧も初耳ってことは、俺がライトかひだりが説明したのを聞き漏らしたってわけではなさそうだ。


 一度触れないと機能は解放されないっぽいし、普通に存在を忘れてた説はあるな。

 それに、昨日はアルゴナウタエのスカウトやらクラン結成やらでそれどころじゃなかったし、仕方ないといえば仕方ないか。


「折角だし、ちょっとブクマしてくか。チェックしておいて損はなさそうだし」

「だね」


 エーテクリスタルの所まで行こうとして、ふと違和感に気づく。

 後ろを振り返ると、シラユキがどこか上の空なまま真っ直ぐ歩こうとしていた。


「シラユキ、そっちじゃねえぞ」

「……え? あ、ごめん!」


 すぐに駆け寄るシラユキだが、やっぱどこかぼうっとしている。

 ここからエーテクリスタルまで大した距離はないのだが、なんか目を離してると普通に逸れてしまいそうだった。


(はあ……仕方ねえか)


 右手で後頭部を掻きながら、小さく息を溢し、


「シラユキ。手、貸せ」

「……へ」

「ほら、逸れられちゃ困る」

「う、うん……」


 手を差し出せば、おずおずと掌が重ねられる。


 俯いているから表情は窺えない。

 頬がほんのり赤くなっているのはちらりと見えた。


 そりゃそうか、扱い方が迷子のそれだもんな。


 でも今のシラユキはガチで逸れかねないので、ちょっとの間だけ辛抱してもらうとしよう。


「ジンム君もお手柔らかにね」

「全くです。ただでさえジンムさんは、罪作りな人なのですから」


 気を取り直して前を向くと、朧が困ったよう目を細め、チョコがうんうんと頷いていた。


 二人が何を見てそう言ったのか意図は掴めなかったが、とりあえず体勢を崩さない程度にシラユキの手を引っ張ることにした。




————————————

エーテクリスタルは、都市系の拠点であれば漏れなく設置されています。

都市系の拠点で他に例を挙げると、キンルクエ等が該当しますね。エーテクリスタルは、都市内の短い区間でのみ効力を発揮する転移魔術のようなもので、これらがあることで、このゲームにもファストトラベル機能があるということが推察されました。

その後、攻略勢と検証班の尽力により転移魔術の術式が刻まれたアイテムの存在と、その作成方法が発見されましたが、作成コストが高過ぎる為、ガチ勢しか使用が許されていないのが現状です。そして、転移魔術のアイテムが発見されたことで、逆説的に転移魔術が存在することが実証されたので現在は、転移魔術そのものの習得方法、もしくは転移魔術が刻まれた魔導書を血眼になって調査されるようになりました。

ちなみにエーテクリスタルを使用は、無料でできるので見つけたらどんどんチェックしておくと良いでしょう。


それはそうと、やっぱ救いようのないクソボケですね。はい。

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