術技、息を合わせて

 物理はすり抜け、術式は掻き消される。

 なのに向こうの攻撃はバッチリ通る。


 そんなクソな状況を強いられる中、振り下ろされる両腕を紙一重で躱し、一度に発射する数が三つに増えた魔力の塊を回避と盾で凌ぎ、二つ同時に生み出される魔空間から逃れながら俺は思考を回す。


 異形の亡霊の攻略法を。


 今の奴は発狂モードに入っている。

 であれば、理不尽とも言える無敵状態なのも納得が行く。


 だからこそ、必ず抜け道はあるはずだ。

 時間制限、特定の攻撃のみ適用……なんでもいい、そいつを見つけ出せ。


 繰り出される攻撃を防ぎながら、異形の亡霊の観察を続ける。


(どこだ、どこにある……逆転の一手は)


 試みる。

 異形の亡霊が攻撃する瞬間に合わせたカウンター。


 落花瞬衛で叩きつけてくる腕を防ぐと同時に、ホライズフラッシュで胴体を斬り払ってみるも、結果は失敗。

 盾には重い衝撃が伸し掛かるが、振るった剣は虚しくも空を切り裂いただけだった。


「チッ、ダメか……」


 もう一度やってみる……いや、無駄か。

 だったら他の方法を——思った時だ。


 全身に微かな痺れが走り、強く心臓が鼓動した。


「——おいおい、このタイミングでかよ……!」


 それは最凶の自爆装置が起動した証。

 身体から溢れ出した漆黒の煙が全身を覆い、奥底からとめどない力が漲り溢れ出す。


 呪獣転侵——どうやら自動発動する可能性が極低確率になったからといって、乱数の女神様の気まぐれには敵わないようだ。


「……ジンくん!!」

「大丈夫だ、シラユキはそのまま術を発動し続けてくれ!」


 悲痛そうに叫ぶシラユキに指示を出し、続けて、


「朧は術攻撃を中止してシラユキの護衛、チョコは俺の回復を頼む!」


(クソッ……けど、なっちまったもんは仕方ねえ)


 切り替えろ。


 俺のデスポーンが確定になっただけで、まだ敗北したわけじゃない。

 タイムリミットまでに倒してしまえばいいだけだ。


 発射される魔力の塊を盾で受け流し、返しにラウンドシュートを叩き込む。

 ……が、放った回し蹴りは胴体をすり抜けてしまう。


 獣呪になったことでもしかしてと淡い期待を抱いての攻撃だったが、やはりそう都合よくはいかなかったか。


 若干、焦りが募る。

 だが、まだまだ猶予は残されている。


 足元に作り出される魔空間をリフレックスステップで躱し、ラリアットのように振るってきた腕をドッジカウンターを起動させ、ギリギリで避けながら斬りつける。

 刀身が腕に当たった瞬間、ズシリとした衝撃が伝わってはきたが、残念ながらダメージには至らなかった。


「チッ、これも駄目か」


 攻撃している間、腕だけは実体化しているようだが、如何せん硬すぎてこっちの攻撃が通らねえ。


 呪獣転侵でステータスに大幅バフがかかってこれかよ。

 せめて傷一つくらいついて欲しかった。


 結局、打開策が見つからないまま時間だけが無為に過ぎていく。

 スリップダメージはチョコの回復技でどうにかなっているが、もう少しすれば最大HPの減少が始まってしまう。


 やっぱ初見殺しの鬼畜さはテック社だよな。

 改めて思い知らされた——その時だった。


 異形の亡霊の全ての攻撃が止まった僅かな隙に、小さな影が懐に潜り込み、


「——虎哮掌破ここうしょうは


 虎の顔を模した闘氣と掌底を胴体に叩き込んだ。


 闘氣と体術の同時攻撃。

 それは、ずっと指先一つ触れることすら叶わなかった異形の亡霊の胴体を捉え、そのまま後方へ大きく吹っ飛ばしてみせた。


「攻撃が通った……!?」

「ふむふむ、ちぃの読み通りです」


 小さな影……もといチョコが吹っ飛んだ異形の亡霊を眺めながら、したりとほくそ笑む。


「物理攻撃と術や魔力を使った攻撃は、同時には防げないみたいです」

「マジか……よく気づいたな、チョコ」

「ずっと後ろか観察してましたので。……ですが、ちぃの攻撃力ではジンムさんがやられちゃうまでに倒せるか怪しいです」

「……何でそれを?」

「シラユキさんと朧さんに教えてもらいました」

「あー、なるほど」


 後方なら情報共有してられるくらいには余裕があるか。


「ま、突破口が分かれば十分だ。お手柄だぞ、チョコ」

「えへん。もっと褒めてください」

「……お前のその変に素直なところ嫌いじゃないぞ。んなことより、一つ頼まれてくれるか?」

「むぅ、そう言うジンムさんは素直じゃないですね」


 チョコは唇を尖らせるも、


「……ですけど、分かりました。何をすればよいのでしょう?」

「後ろの二人に伝えてくれ。術をとにかくぶっ放してくれって。それと朧は無理にリリジャス・レイを撃たなくてもいいって言うのも」


 ここからは手数勝負だ。

 火力はそこまで必要ない。


「任されました。では行ってきます」


 そして、チョコが前線から離脱したところで、異形の亡霊がダウンから復帰した。


 まだ最大HPの減少は始まっていない。

 つまりは、まだ二分以上の猶予はある。


 一旦、落としたギアを再度上げる。

 脳内のアドレナリンを一気に分泌させる。


 ここが正念場だ——テンション滾らせろ!


「っしゃあ! 来いよ、決着と行こうぜ!」


 憤怒の投錨者アンガーアンカー再発動——異形の亡霊のヘイトが固定された直後、足元に魔空間が作り出され、三発の魔力の塊が飛んでくる。


 リフレックスステップで攻撃範囲外に逃れ、落花瞬衛で魔力の塊を防ぐと、今度は物凄い勢いで異形の亡霊が突っ込んでくる。

 繰り出すのは助走——いや足ねえから助走ではないか——をつけたラリアット。


「んな分かりやすい攻撃当たると思ってんのか!!」


 パリングガード発動。

 タイミングを合わせてガードすることで、ラリアットの軌道を無理矢理逸らし、異形の亡霊の体勢を崩す。


「浄陣・燦華!」


 瞬間、奴の足元に円陣が刻まれる。

 同時に俺は、光が放たれるタイミングに合わせて守砕剛破を放つ。


 円陣から浄化の光が浮かび上がり、盾による右ストレートが異形の亡霊を捉える。

 この戦闘で初めて、手に攻撃が当たる感触が伝わった。


「キタァ!!」


 ——成功だ。


「エナジーショット!」


 続け様に、朧が術を発動させる。

 さっきチョコに伝令を頼んだ時、リリジャス・レイじゃなくていいと言ったのは、朧がサブジョブに魔術士(短杖使い:無)をセットしているから。

 おかげでエナジーショットだけは発動可能となっていた。


 魔力弾が命中すると同時に、今度は盾震烈衝をぶつける。

 こっちも見事に同時当てに成功、その直後、魔力で束ねていた腕は解け、それぞれ三本の腕へと戻る。


 しかもさっきの物理+術式無効の反動からか、物理攻撃が通るようになっていた。

 試しにホライズフラッシュを放った際、剣に手応えを感じたことで気づいた。


 加えて、発狂モードが強制解除されたことで、異形の亡霊が項垂れるようにして動きを止めている。


(これは……特殊ダウンか)


 ま、なんだっていいか。


「今が攻撃を畳み掛けるチャンスだってことには変わりねえしなあ!!」


 各種火力系の自己バフを一斉起動させてから、ラウンドシュートをぶっ放す。

 三連浪刃を発動させ、リキャストが完了するまでの間、盾殴りと斬撃のラッシュを浴びせる。


「——くたばれぇぇぇ!!!」


 そして、最後に守砕剛破を叩き込んだところで、異形の亡霊は地面に力無く倒れた。


 それでも起き上がろうともがいてはいたが、やがて敢えなく事切れるとポリゴンへと散っていくのだった。




————————————


【RESULT】

 EXP 18779

 GAL 14530

 TIME 19’27”54

 DROP ”骸骨霊の残穢×10”、”布亡霊の布切れ×8”、”毒蛇の皮×4”、”毒蛇の毒牙×4”、”大鼠の毛皮×3”、”大鼠の尻尾×2”、”大蜘蛛の糸×7”、”虚異霊の黄眼×2”、”虚異霊の黒布×2”、”虚異霊の虚核”


【EX RESULT】

称号【裂け目の怪物を討ち倒し者】を獲得しました。


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[——規制事項——]

 本来、新大陸に生息しているが、偶然にも■■の脅威から逃れ現大陸に流れ着いた。

 これを始めとした裂け目の怪物は■■の天敵とも呼べる存在であり、[——規制事項——]となった。

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