片方は家探し、もう片方は聖堂へ

 審議の結果。


 賛成六、反対ゼロ。

 満場一致で俺の提案は可決され、


「——ちぃです。お世話になります。これからどうぞよろしくです」


 クランメンバーの一覧にチョコの名前が加わった。


 自分で提案しておいてなんだが、正直ここまですんなり意見が通るとは思っていなかった。

 けど思い返してみれば、ネロデウス撃破という目標はあるものの、うちのクランの基本方針は『みんなで楽しくワイワイと!』だ。


 余程協調を崩すようなタイプだったり、悪意を持ってるような奴じゃなきゃ拒む理由も無かった。


 それに情報が流出させないようにする為、と建前はあるものの、話した感じチョコがそういうことするタイプには見えなかったしな。

 俺らが酷い対応を取らなきゃ、多分実行に移されることはないだろう。


 チョコが挨拶を終えたところで、クランオーナーであるモナカがパンと手を叩く。


「はいはーい、ちゅうもーく☆ これからクランで活動していくにあたって、初めのうちにやっておきたいことについて話し合いをしたいと思いまーす!」

「やっておきたいこと、ね。具体的には?」

「うーん……パッとこれだっていうのは思い浮かばないけど、このアイテムはゲットしておきたいーとか、あそこには行っておきたいーとか、そんなのだよ」

「あー、なるほどな」


 確かにそこの擦り合わせはあった方が良さそうだな。


 大目標はネロデウス撃破だが、攻略の手がかりが皆無に近い現状で、ただ無闇に突っ走るだけじゃあまりに効率が悪い。

 だから、先にその為の土台を固めようってわけか。


「というわけで、ぬしっち。何か案ある?」

「雑な振りだな、おい。クランとして最初にやっておきたいことか……」


 無難なとこで言えば、レベリングと装備の新調ってところだろう。


 でも、これってわざわざ目標に設定することでもないよな。

 やってれば自然と出来てそうなことだし。


 答えに困っていると、ライトがひだりと目を合わせてから挙手する。


「……俺たちから一ついいか?」

「お、ライライ! いいよ、どんどん言っちゃって! ヘイヘイ、カモカモ!」

「通常の攻略をするにしてもネロデウスを倒すにしても、まずは活動の拠点を作っておきたい」

「拠点……クランハウスのことか?」


 訊ねると「ああ」ライトは首肯する。


 クランハウス。

 簡単に言えば、クランメンバーで共有するプライベートスペースだ。


「あくまで生産職としての意見にはなるが、早いうちにちゃんとした工房を構えておきたい。恐らく、それがお前達の攻略のサポートにもなるはずだ」

「まあ、ライトがそう言うんなら構わないけど、クランハウスって購入するのにめっちゃ金が必要じゃなかったか?」


 攻略サイトでチラッと流し見しただけだからうろ覚えだけど、数十万とか余裕でかかった気がする。

 割り勘で買うにしても、悪樓戦でゲットした金でも足りないだろう。


「費用の心配はしなくていい。そこは俺とひだりが負担する」

「つってもなあ……一応、クラン共有の財産になるわけだし」

「それなら立て替えってことにしてくれればいいよ。勿論、クランハウス購入に皆んなが賛成してくれるならだけどね」

「……ってことらしいけど。残りの四人方、そこんとこどうよ?」


 モナカたちにも意見を促すと、


「んー……面白そうだからオッケー♪」

「私も大丈夫だよ」

「僕も同じく」

「何だかよく分からないけど、良いと思います」


 速攻で同意が返ってきた。


 ……全員賛成してるみたいだし、ならこれでいいか。

 クランハウスを購入することのメリットは俺らにもあるしな。


「よし、それじゃあそうする方向で行くか」

「りょりょけまる☆ じゃあじゃあ、やっておきたことその一が決まったことだし、早速皆んなでクランハウスを買いに行こー!」

「いや、俺はいいや。家自体には特に興味ないし」

「えーっ!? ぬしっち、なんでー! 一緒に行こうよー!」

「大人数で行っても仕方ねえだろ。それにちょっと寄りたい所もあるしな」

「ぶー、ぬしっちの薄情者ー!」






 あれからもう少し話し合い重ねた末、二手に分かれて行動することとなった。


 片方は、モナカと兄妹のクランハウス購入組。

 これから建築ギルドに行って、土地の下見やら家の購入手続きやらをしてくるとのことだ。


 残った俺らはその間、街の中を自由散策だ。

 まあ散策とは言いつつも、もう行く場所は決まってるんだけど。


「——ここが大聖堂か。……クッソでけえな、おい」


 目的地に辿り着き、足が止まる。

 視界に飛び込んできた景観に圧倒される。


 聳えるのは、百五十メートル近い高さの尖塔。

 それと全幅およそ百八十メートル、全長二百メートルを超えているであろう、あまりに巨大で荘厳な建造物が俺の目を奪う。


「凄えな、これ……」


 思わず声が漏れ出る。

 現実の大聖堂にも引けを取らない——いや、ワンチャンそれすら超えるレベルの完成度だ。


 ネクテージ渓谷もそうだったけど、景観の作り込みに対する力の入れよう半端ねえよな、このゲーム。


 隣に視線をやれば、シラユキに朧、それとチョコも俺と同じような反応を取っていた。

 というか、周囲を見渡してみると、初見と思わしきプレイヤーは揃って大聖堂の外観に驚いていた。


 中には記念撮影感覚でスクショ撮ったりしてるし、なんて言うかまんま観光地と化しているみたいだった。


「って、のんびり見てる場合じゃねえか。そろそろ中にも入ろうぜ」


 外を眺めているだけでも時間が潰せそうな気がするが、ここを訪れたのは別に理由がある。


 気を取り直し、中に入る。

 建物の中もこれまた現実の大聖堂にも負けず劣らずの荘厳華美な内装が広がっていたが、今度は足を止めずに奥へと進んでいく。


 ふと朧に質問をされたのは、そんな時だった。


「……そういえば、ジンム君はなんでここに?」

「ちょっと確認しておきたいことがあってな。前々からクレオーノに着いたら来ようと思ってたんだ」


 言いながらインベントリから取り出したのは、一通の書状。

 以前、ビアノスにある武具屋のクエストを達成した時に貰った、司教と謁見するための紹介状だ。


「前に欠損した左腕を治しに教会に行ったことがあるんだけど、その時、教会の神父に教えられたんだよ。俺の中に良くない何かがあるってな」


 神父が言ってた良くない何かの正体は、多分、発症前の獣呪のことだろう。

 今思えば、あの時点でもう既に獣呪発症のフラグは立ってたのかもしれない。


「へえ、そうなんだ。……え、左腕!?」

「ああ。まあ、左腕のことは置いとくとして」

「置いておくんだ……」


 そこら辺の説明をすると話が進まなくなるからな。


「それでもし身体に異変が現れたのならここに立ち寄るといい、なんて言われたから、こうして試しに来てみたってわけだ。……ま、結果はあんま期待はしてないけどな」


 けど折角の手に入れたコネを使うに越したことは無い。

 それに実際のところどうなのかは、やってみなきゃ分からないからな。


 とりあえず近くにNPCのシスターを見つけたので、紹介状片手に話しかけてみることにした。




————————————

実はネロデウスに襲撃されずにここにやって来れたら、獣呪発症をフラグ自体を消せていたという事実。

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