雄飛する新参 -9-
減少するHPの管理に気を配り、隙を見てポーションを振り撒く。
リキャストが完了すると同時にアーツを悪樓の脳天に叩き込む。
下から飛んでくる三人の攻撃に巻き込まれないようにしつつ、悪樓にはしっかりと命中するよう左手と両脚で悪樓の動きを制御する。
一度にやらなければならないことだらけだが、全部こなせなきゃ勝利はない。
どれか一つでもしくじればそれまで……待っているのは、死あるのみだ。
手札はかなり限られてきたが、最善は尽くしているつもりだ。
だというのにも関わらず、未だに悪樓が弱る気配は一向に見えてこない。
「クソッ! どんだけ体力あんだよ、こいつ……!?」
ずっと頭部にアーツも普通の盾殴りもブチ込みまくってるのに、全然スタンにもならねえし。
もしかして……第一形態の時からスタンの蓄積値を引き継いでいる?
それか第二形態になったことで、スタンに完全耐性が付いたのか?
原因がなんであれ、さっさと仕留めなければならないことには変わりない。
(もう時間はそんなに残されてねえっつーのによ……!)
「——チッ、始まっちまったか……!!」
ふと残りのHPを確認して、ゲージ自体が少しずつ消失していることに気がづく。
最大HPの減少。
つまり、獣呪のタイムリミットが残り二分を切ったということ。
俺の命が尽きるその瞬間は、刻一刻と迫っていた。
とはいえ、俺にはライトから貰った
いざとなればそいつを切れば、延命はできるかもしれない。
(……けど、それじゃあ何の意味もねえ)
確かに聖女の聖霊水を使って獣呪の解除に成功したら、自滅は回避できる。
だが、メリットとデメリットは表裏一体——代わりにリキャスト短縮や全ステ強化といったバフも一緒に消えてしまう可能性が非常に高い。
加えて、自滅確定なのを覚悟で呪獣転侵を再度発動させようにも、本来セーフティのはずの『戦闘中、一度のみ発動可能』が足を引っ張っている。
呪獣転侵の効果がなければ、この無茶な騎乗を続けることは困難になる。
俺が今こうして悪樓に無理矢理跨って制御していられるのは、呪獣の恩恵があるに過ぎないからだ。
素の膂力だけでは多分、振り落とされないようしがみつくのがで精一杯になるだろう。
そうなると結局、呪獣転侵を発動させる前の状況に逆戻りになるだけ。
もしその状態でDPSチェックが発生してしまえば、それこそゲームオーバーだ。
だから聖女の聖霊水で延命しようがしなかろうが、どの道この状況は打破する必要があった。
内心、焦りが生まれる。
緊張で鼓動が早くなる。
(……だとしても、だ)
こんな時だからこそ思考は冷静に。
するべきことを明確化し、出来ることから一つずつ全力で対処するだけだ。
それに時間に追われてボスを倒すのは、別にこれが初めてでもない。
つい最近、似たような状況に遭遇したばっかだ。
そう——今の状況は、蝕呪の黒山羊と戦った時と非常に似通っている。
あの時は、呪厄の即死効果が発動するまでの時間勝負だった。
(——思えば、このゲームを始めてから、つくづく呪いとは縁があるよな。……ま、縁と言っても腐れ縁だけど)
しかし、あの時と明確に違うことが一つある。
そいつを自分の意思で作り出したか否か、だ。
時間に追われるのと自ら時間制限を設けるのでは、一瞬にかける覚悟に大きな差が生まれてくる。
「ついでにタイムリミットがあった方がテンションも上がるしなぁ!!」
というか、
アドレナリンを全開に滾らせ、シールドバッシュ発動。
悪樓の頭部に思い切り盾を打ち付けると、遂に目に見える変化が現れる。
岩を砕いたような甲高い音を響かせて、悪樓の右の角が砕け散った。
「っしゃあ、きたぁ!!」
喜んだのも束の間。
——途端、悪樓がいきなり地上に落下しかけた。
急に足場が消えて無くなったような不自然な挙動で。
「うおっ!? あっぶね……!」
とはいえ、落ちていたのは、ほんの一瞬だけ。
次の瞬間には、もう既に体勢を立て直していた。
……が、角が砕ける前よりも少しだけ、でも確実に上下の揺れが大きくなっている。
なんというか、浮遊能力に不安定さが出始めているようだった。
(まさか……こいつが空を飛べるのは
今の流れからして、何かしらの因果関係があるのは間違いない。
「なら、もう片方も破壊すれば……!」
まだ一本の蜘蛛糸のように限りなく細い筋道ではあるが、確かな勝機が見えてきた。
一旦、ポーションでHPを回復。
今度はまた落下してもいいように両脚の踏ん張りを利かせつつ、左の角にバリアーナックルをぶっ放した後、何度か普通に盾で殴りつける。
程なくして、さっきと同様に角が砕けた。
同時に悪樓はまた墜落しかけ、すぐに持ち直してみせる。
しかし、更に浮遊の安定性は欠け、上下の浮き沈みが激しくなっている。
更に大きな変化として、鈍足状態を付与されたのかと思うくらい、動きが大分鈍くなっていた。
やはり読み通り、悪樓が翼も無しに飛行能力を得ているのは、角が関係していると見てよさそうだ。
だが、これでもまだ落下には至らない。
ということは、まだ他にも空を飛べる能力を司る器官のようなものがあると考えるべきか。
(けど……そんなもんが一体どこにある……!?)
背部、側面、尻尾。
ざっと見渡してみるが、それらしき箇所は見当たらない。
残るは腹部のどこかか……そもそも存在しないか。
腹部にあればモナカに射抜いて貰えばいい。
でも、もし後者だったら——マイナスな思考が脳裏を過ぎりそうになった時だ。
「おーい、ぬしっちーーー!!!」
下からモナカの叫び声が聞こえてきた。
「ん、モナカ……? どうした!?」
「さっきから悪樓の喉ら辺がなんか赤く光ってるんだけど、そこから攻撃できたりしないー!?」
「……喉?」
ポーションを使って減ったHPを回復してから、身を乗り出して悪樓の喉元を確認すると、モナカの言う通り、何やら赤く光る部分があった。
「ああ、ちょっと待ってろ!」
大きさは手のひらよりも小さい。
およそ鱗一枚分——つまり、逆鱗ってことか……!?
これも竜種になった影響なのかもしれない。
「あいつ……よく、これを見つけられたな」
下からだとガチで豆粒程度の大きさしかない。
狩人特有のスキルによるものなのか、はたまた単純にあいつの目が猛禽類並みに良かったからなのか。
いずれにせよ、ここに攻撃しないなどという手はない。
これが飛行能力を制御する最後の器官という確証はないにしても、
「逆鱗は竜の弱点って言うもんなぁ!!」
聖黒銀の槍を左手に装備。
悪樓の折れた左角の根元に手を引っ掛けてぶら下がり、喉元を狙って聖黒銀の槍を突き放つ。
「これで――墜ちろおぉぉぉッ!!!」
そして、逆鱗を打ち砕いた瞬間——糸が切れた操り人形のように悪樓の身体は地面へと吸い込まれ始めた。
————————————
竜種になってしまったが故の弊害。
角が超常の力を司り、破壊されると一気に弱体化してしまうのです。
本来、悪樓の角ははもっと時間をかけて破壊される想定だったのですが、大量の爆弾によって耐久値をガンガンに削られ、部位破壊に有効な打撃系の攻撃を立て続けに喰らい続けたためにたった五分で、しかもたった一人の手によって砕かれてしまったのです。
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