雄飛する新参 -1-
ひだりが撒いた白煙の中を真っ直ぐに駆け抜け、無事にボスフロアである中洲に突入後、俺は背後を振り返る。
「おい、全員いるか!?」
「うん、皆いるよ!」
すぐさまシラユキが返事を返すと、続けて朧とモナカも呼び掛けに応える。
ふとボスフロアの外に視線をやると、さっきまで蔓延していた白煙は消え、代わりに黒煙が川岸を覆い尽くしていた。
あれも煙玉の一種か……?
——いや、それよりも今は戦闘に集中しろ。
各自武器を構え、戦闘態勢を整えたところで水中から這い出てくるのは、全長二十メートルを優に超える青鈍色の怪魚——悪樓が姿を現した。
戦うのはこれで五度目になるが、相変わらず圧倒されるようなデカさだな。
「……まずは第一関門は突破か。でも、こっからが本番だ。全員、気ィ引き締めてかかれよ!!」
「「「了解!!(ラジャー!!)」」」
「――行くぞ!!」
俺の号令に合わせ、それぞれ手筈通りの行動を取り始める。
「こっちだよ! お前の相手は僕だ!」
まずは朧が悪樓の背後に回り込みながら、朱色のエフェクトを纏わせたブーメランを投げ放つアーツスキルでファーストアタックを決めつつ、挑発でヘイトを自身に向けさせ、シラユキへ注意が行かないように意識を惹きつける。
「グガァァァアアアアアッ!!!!!」
ブーメランが命中した直後、悪樓が地面を振動させるほどの轟音で咆哮を上げ、朧に向かって突進を仕掛ける。
しかし、朧は難なく攻撃範囲から逃れ、そのまま俺らに悪樓の背面を見せるように位置を誘導して見せた。
よし、朧が回避態勢に入ったな。
なら俺らも動くとするか。
悪樓が朧に突っ込んでいる間に、シラユキが朧と対角線を結ぶような位置に移動しつつ、シャープネスの発動準備に入る。
同時に、俺とモナカは悪樓の両サイドに展開しながら攻撃を開始する。
「DPS落とすなよ、モナカ!」
「誰に言ってんのー? そう言うぬしっちもちゃんとDPS稼いでよね!」
「ったりめえだ!!」
早速、ストレートジャベリンで聖黒銀の槍をぶん投げ、ガラ空きになっている胴体にぶっ刺し、右手の装備を雷牙の剣に変えて一気に距離を詰める。
ジャンプスラッシュ、トリプルスラッシャーを連続で発動後、ぶっ刺した聖黒銀の槍を回収。
続け様に剣と槍の二刀流? で一心不乱に悪樓を斬りつける。
「ハハハッ! 仮にも盾使いなのに盾装備しねえで殴るとか、コンセプト崩壊してんなぁ!!」
だが武器の攻撃力やら属性の関係上、アーツスキル+通常盾殴りよりも剣×槍で攻撃を畳み掛ける方がダメージの効率がいい。
盾メインに攻めるのは、攻撃位置が変わってからだ。
悪樓の右側面に回ったところで、全身を赤い光が包み込む。
シャープネスによる攻撃バフだ。
「ナイスだシラユキ! よっしゃ、ここからもっと攻めるぞオラァ!!」
これで第二関門——基本陣形の形成も成功。
ここまではチャート通り、立ち上がりは上手く行った。
後はこれをどれくらい維持できるか、か……。
――俺が考案した作戦内容は比較的シンプルだ。
悪樓から距離が離れ、尚且つ死角になる位置からシラユキがリリジャス・レイを発動しまくって、残りの三人は悪樓を取り囲んで戦うというものだ。
囮役はシラユキと対称となる位置で悪樓の攻撃を避け続け、DPS組は悪樓のサイドに回り込んでそれぞれ攻撃を行う。
囮役のヘイトが解除されたらDPSの二人でタゲ集中を取り、ヘイトを向けられた奴が囮役と位置を交代し、囮役だった奴はDPSとして攻撃に参加する。
この時、囮役のメインとなるのは朧だ。
俺とモナカは朧の挑発の効果が切れている間、朧が再度挑発をかけられるようになるまで繋ぎで囮役を引き受ける。
他にも個別にやることはあるのだが、大まかな流れはこのようになる。
簡単に言ってしまえばこの作戦は、サッカーの鳥かごを応用したようなものだ。
ヘイトというボールを保持したまま、敵を惹きつけ続け、キツくなったら他に回してカバーする……これを繰り返し、悪樓のHPを削っていく。
本来のサッカーと違うのは、ボールを持っていない二人で殴りかかるってのと、後方から定期的に強烈な一撃が飛んでくるってことか。
……ファイイレよりも質が悪いな、これ。
(けどまあ……ここは、親父に感謝だな)
更にこの作戦のメリットとして、シラユキが放つ術の射線上に誰もいないおかげで、術式構築が完了次第、退避の指示を出さずに気兼ねなく術を連発することが可能となる。
悪樓の巨体があってこそだから、他の戦闘ではあまり活きることはないだろうが、各々が好きに動いても他の行動を阻害しないのはかなり大きなアドバンテージになるはずだ。
そして、陣形が整った今、DPS組がやるべきことは単純だ。
一に殴る、二に殴る。
三、四で殴って、五も殴る。
要するに脳死で攻撃をし続けるだけだ。
勿論、場合によって臨機応変に立ち回る必要はあるが、最初から最後までこの基本戦術は変わらない。
シラユキはモナカにもシャープネスを発動させる必要があるから、まだ攻撃に参加できていないが、バフをかけ終われば後はリリジャス・レイを連発させ、一番の固定砲台になる。
それと悪樓の巨体のせいで逆サイドを視認できないが、バフを掛けられるのを待っているこの間にも、モナカはひたすらに矢を放ちまくっているはずだ。
——
強制疲労を起こさないようスタミナを管理しながら両手の剣と槍で斬り刻む。
不意に飛んできた尻尾の薙ぎ払いを悪樓の身体を踏み台にして高く跳躍することで回避する。
直後、モナカが大きく叫んだ。
「そろそろ麻痺るかもだから、ぬしっちとオボロンは爆弾準備ーーー!!」
「オーケー!!」
「分かった!」
即座にインベントリを開いて、中から取り出すのは、ひだりから受け取ったライトニングボム。
大半は朧に持たせてあるが、今のような一斉攻撃できる状況に備えて俺らも幾つか所持しておいた。
朧の火力不足の為に用意した物だけど、俺らが使ったって効果的なのは変わらないしな。
モナカが声を掛けてから、数秒を経たずして悪樓に変化が現れる。
悪樓の全身からバチバチと黄色い火花のようなエフェクトが発生すると、途端に感電したようなモーションと共にその場から動かなくなった。
これがエネミーの麻痺状態か。
モナカ曰く、平均的な麻痺の持続時間は恐らく十秒〜二十秒程度。
慌てる必要はないが攻撃を更に畳み掛ける絶好のチャンス……ここは攻めチャーで行く!
「——麻痺ったよ! 投擲よろろ!!」
モナカの合図に合わせ、俺は至近距離からライトニングボムを悪樓に向かって投げつける。
ライトニングボムによる電撃はプレイヤーを巻き込む危険性があるが、だからってここで日和って安全圏に下がっているようじゃいつまで経っても倒せない。
呪獣転侵が発動するよりも先に一秒でも早くぶっ倒すためには、この程度のリスクは背負っていかねえとなあ!
ライトニングボムが悪樓に着弾し、目と鼻の先で強烈な電撃が迸り悪樓を灼き焦がす中、俺は雷牙の剣を雷牙の盾に変更して悪樓の頭部へと突っ込む。
「朧! スタン値溜めるから頭以外に攻撃を当ててくれ!」
「えっ!? うん分かった!」
咄嗟の指示であったが朧は上手く反応してくれて、新たに取り出したライトニングボムを山なりに放り、蒼いエフェクトがかかったブーメランを悪樓の右側面へ投擲する。
それを横目に俺は盾殴りのアーツ三連+パワーキックのコンボを悪樓にぶち込むのだった。
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