装備、改めて

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【雷牙の剣】

 雷豹の力を宿した片手剣。閃く刃は雷光の如く。

 この剣を担いしものに雷の加護を与える。

・ATK+58

・特殊効果:攻撃時、雷属性付与

・装備要求値:STR50


【雷牙の盾】

 雷豹の力を宿した盾。雷をも喰らう耐久を持つ。

・DEF+35、SDEF+9

・特殊効果:雷属性耐性(小)

・装備要求値:STR40


【雷豹の兜】

 雷を操る魔獣の素材を使った頭装備。兜の下から除く獰猛なる双眸に狙われたが最後、標的はなす術もなく仕留められるのみ。

・DEF+24、SDEF+6


【雷豹の戦衣】

 雷を操る魔獣の素材を使った胴装備。森を支配する雷光を纏いしは、それ即ち強者の証となる。

・DEF+30、SDEF+8


【雷豹の手甲】

 雷を操る魔獣の素材を使った腕防具。獲物を確実に死へ誘う爪牙は、装備者に比類なき力を齎す。

・DEF+22、SDEF+5、TEC+8


【雷豹の穿物】

 雷を操る魔獣の素材を使った腰防具。柔軟で強度な肉体は、如何なる場所でも標的への襲撃を可能とする。

・DEF+28、SDEF+7


【雷豹の半長靴】

 雷を操る魔獣の素材を使った脚防具。逃れることのない脚力によって迫るくる死に、獲物はただ怯え打ち拉がれるのみ。

・DEF+22、SDEF+5、SPD+8


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 宿屋で全員と合流した後、ライトから渡された遂に完成した装備一式を身に纏い、性能の詳細を見て思わず声を漏らす。


「うわ……やべえな、これ」


 攻撃力も防御力も一気に跳ね上がり過ぎだろ。

 雷牙の剣なんてあともう少しで、聖黒銀の槍の攻撃力に届きそうじゃねえか。


 だが、それと同じくらいヤバいのはシリーズボーナスだ。


 まずATK、SPD、TECがそれぞれ+15のステ補正。

 加えて雷属性強化(中)、雷属性耐性(中)、おまけに脚力強化とガチで追加効果が盛られまくっている。


「クァール教官の装備ってこんなにぶっ飛んだ性能してたのかよ……」

「仮にもボスエネミーだからな。最大値を引き出せさえすれば、当分は新しい防具に変えずにやっていけるポテンシャルはある」

「……それ暗に自分は、その最大値を出せてるって言ってねえか?」

「まあな。最上職なんだからこれくらい出来て当然だろう」


 こいつ……キッパリと言い切りやがった。

 けど、一切の嫌味を感じないのは、驕りではなく自身の実力を客観視した上での発言だからだろうな。


「にしても……流石に攻めまくってんだろ、このデザイン」


 とりあえず着れさえすればいいと言わんばかりの質素な作りで、本当にただの衣服でしかなかった村人シリーズ。

 所々に製作者のこだわりらしきものはあったが、全体的に茶色系統で落ち着いた色合いでまとめられ、無難なデザインだったレザーシリーズ。


 それらと比べると今装備している雷豹シリーズは、随分と……いや、かなり派手なデザインをしていた。


 上は白の革鎧に黒の産籠手とグローブ。

 下は黄土色と黒のツートンのダボっとしたシルエットの皮ズボン。


 と、ここまでは比較的シンプルな服装なのだが、問題はここから。

 革鎧の上に重ねられたベストに肩当て、腰巻、それに加えてガントレットにブーツと何から何まで全てが豹柄となっていた。


 上から下までほぼ豹柄があるとか、大阪のおばちゃんだってこんなに主張激しくしねえぞ。

 関西行ったことないから、あくまで偏見でしかないけど。


 ちなみに頭装備の兜は、マジでクァール教官の頭部を模した仮面みたいな見た目をしていて、そいつを装備すると豹要素が強くなりすぎるから非表示にしてある。

 顔隠したい勢からすれば使えるだろうけど、俺は別にそうでもないしな。


「防具名に豹がついてるからって……やっぱこれは、いくらなんでもやり過ぎだろ」


 改めて防具を見回していると、隣にいるモナカが若干顔を赤らめながらうんうんと頷いていた。


「分かる……分かるよ、ぬしっち。あたしもこの装備を着るのは、ちょび〜っとだけ勇気がいると言いますか……」

「……だろうな。こっちだと人目があるもんな」


 モナカの防具はというと、俺みたく全身豹柄というわけではないのだが、代わりに太ももやへそ周り、肩から二の腕にかけてだったりと何かと肌の露出が多い大胆な衣装となっている。


 もしこの格好をしているのが独立したゲームキャラクターであれば、特段気後れをすることも無かったのだろうが、これはフルダイブVRMMOだ。

 たとえ装備に袖を通すのが仮初めの肉体だとしても、実際に自分自身が着ているようなものではあるし、更にはその姿を多くの人に見せることにもなる。


 言ってしまえば、公衆の面前でコスプレをするようなもんだ。


 いくら配信で万単位の視聴者に見られることに慣れているモナカとしても、周囲から直に視線を向けられることに何の羞恥心も感じないわけではないのだろう。

 人にコスプレ姿を見せるにしても、SNSに撮った写真をアップするのと、実際のイベント会場で直接見せるのではかなり勝手が違うだろうしな。


 そう考えると、レイヤーってすげえな。

 現実の自分の体で、それをやっちまうんだから。


 まあ、だからと言って俺もモナカも装備を外すって選択肢には絶対ならないが。


 シリーズボーナスで適用されているステ上昇は実質的な火力バフだ。

 火力アップ=タイム短縮――つまり装備をしない理由がどこにもない。

 となればタイムと羞恥心、どちらを取るかなんて答えは火を見るよりも明らかだった。


「ところでさ、ライト。こいつのデザインってライトの趣味だったりすんの?」

「いいや、作製する装備の性能はプレイヤーの腕でばらつきが出るが、見た目はあらかじめ決まっている。その気になればデザインを弄ることもできなくもないが、必要素材の要求値が大きくなるし、そんなことしてる時間も無かったから今回はそのままだ」

「へえ、なるほどな。レシピに沿って料理作るようなもんか」


 けどまあ、何にせよこれがライトが考えたデザインじゃなくて良かった。

 人のファッションセンスにケチつけるわけじゃないが、もしそうだったとしたら超絶反応に困るところだったぞ。


「だとしてもだ。……じゃあ、あの二人のデザインが比較的落ち着いているのも、そのシステムによるものか?」


 言いながら俺が視線をやった先にいるのは、白と黄色を基調とした法衣を身に纏ったシラユキと、黒と黄土色がベースの和風チックな装束姿をした朧だ。


 どちらも豹柄がワンポイントに留められており、モナカのように肌の露出があるわけでもない。

 同じエネミーの素材を使って作られてるというのに、デザインの方向性が俺らとかなり異なっていた。


 それに対して文句を言うつもりは殊更ないが、ただ純粋にその理由が気になった。


 ライトは「ああ」即答で首肯し、言葉を続ける。


「このゲーム、細部への作り込みが丁寧過ぎるところがあるからか、同じ素材で防具を作ったとしても、性別とジョブ毎に異なるデザインと性能になる。例えば同じ雷豹シリーズで挙げると、男性の戦士系統ならジンムのように、女性の狩人ならモナカ、男性の村人なら朧さんのような衣装になる。装備の詳細を確認すれば分かるが、数値の配分がちょっと異なっている」

「……変なところにこだわり過ぎだろ。いや、テック社ならやりかねないけども」


 JINMUの時もモブNPCの容姿が誰一人として流用されていなかったり、同じ武器でも入手できる場所によって、性能には影響しないところで違う意匠が施されてたりしたもんな。

 んなところより難易度調整しろって意見がちらほら……いや、あちこちから出てた覚えがあるけど、そいつを真摯に受け止めた心優しき運営鬼畜生悪魔共は、煽るようにじゃあ難易度上げるね^^パッチ配布して一時期かなり炎上もしたこともあったか。


 そんな頭のネジが何本も外れたイカれたヤバい企業が今ではVRMMOの覇権ゲーをリリースしてると思うと、なんだか心に沁み入るものがあるな。


「それとシラユキさんの場合は、まず他の三人と防具の傾向が違うし、そもそも僧侶系統の装備は落ち着いた見た目になる傾向がある。――とまあ、ジンムとモナカ、朧さんとシラユキさんで大きく違うのはそういうわけだ」

「ふーん、そういうことだったのか。……ところで、性能は戦士のまま村人の見た目にすることはできたりすんの?」

「やろうと思えば、な。ただ……逆に訊くが、自分から進んでお揃いの衣装を着たいか?」

「どっちでもいいけど、あんま気乗りはしねえな」


 答えつつメニューから動画サイトに接続し、俺のアカウントページを開く。

 そして再生するのは、俯瞰視点から撮影した悪樓との戦闘映像。


 今朝、学校に行く前に限定公開でアップロードしておいたものだ。


「——さてと、装備の変更も済んだ事だし、ぼちぼち作戦会議を始めるとしようぜ」




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防具の作成を得意とするプレイヤーは大抵、服飾の沼に沈んでいった猛者変態ばかりです。

右兄は機能性を重視するタイプなので、デザインにはそこまで頓着しませんが、一度凝ってしまうと周りが見えなくなるくらい追求に没頭しますね、確実に。

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