決死に放つ致命の墜落

 いつもと手応えが違う……クリティカル入ったか!

 よっしゃ、ラッキー!


 会心の盾殴りと光弾によるサンドイッチ、それと地上十五メートルからの落下ダメージ。

 これだけ噛み合えば、ほぼ確実にドン・ヴァルチャーに引導を渡すことができるだろう。


 ただ一つ、問題があるとすれば……、


(一緒に俺も落下ダメージで死ぬかもしれないってことだ)


 でも、だからどうした?

 共倒れ上等、そうなる可能性も織り込み済みで俺はこの作戦を決行している。


 途中でデスするかもしれないリスクを承知で、シラユキには慣れてもない囮役をやらせたんだ。


 なのに俺は、とどめの美味しいところだけ掻っ攫うだけ?

 そんなだっせえ真似できるわけねえだろうが!


 装備を一新して防御力は上がったとはいえ、地面に激突することを前提としたこの墜落に俺の貧弱な身体HPとVITが持ち堪えられるなどと微塵も考えていない。

 HP全損してしまったら、ビアノスから頑張ってここに戻ってくるだけだ。


 せめてもの対処として、ドン・ヴァルチャーの上に乗っかり、こいつをクッション代わりにするつもりだが、これが上手くいく確証はない。

 でもこれでこいつに百パーセントまるまるの落下ダメージをもろに喰らわせることができるのなら、俺のライフを天秤に全賭けする価値は十二分にあった。


「これで……逝きやがれぇぇぇっ!!!」


 そして、突如として俺の身体を淡い青の光が包み込んだ直後、俺に頭を押さえ付けられたドン・ヴァルチャーと地面が衝突を起こす。


「……ぐっ!?」


 ドン・ヴァルチャーを伝って、全身に電流が走ったかのような衝撃が走る。

 身体の至るところから赤いポリゴンが吹き出し、HPは急激な減少を始める。


(落下によるダメージ判定、どうなる……!?)


 しかし、俺の生死が決定するよりも先にドン・ヴァルチャーが限界を迎える。

 もはや声にもならない呻き声をあげ、ほんの僅かピクリと身体を跳ねさせると、そのまま硬直し光の粒子へと散っていった。


 ドン・ヴァルチャーが消滅したことで足場を失った俺は、一秒にも満たない浮遊感に襲われる。

 そして、ダメージ判定のない落下を挟んでから、ようやくHPの減少が収まった。


「あっぶね……ギリギリセーフ」




————————————


【RESULT】

 EXP 1050

 GAL 550

 TIME 13’01”37

 DROP ”首領禿鷹の爪×2”、”首領禿鷹の嘴”、”首領禿鷹の翼”


【EX RESULT】

称号【首領個体を討ち倒し者】を獲得しました。


————————————




 HPゲージを確認すると、残されたバーは一割を切っていた。

 というかミリ単位でしか残っていない。

 恐らく残りHPは2、3といったところか。


 どうにか生き残ったことに胸を撫で下ろしつつ、出現したバトルリザルトで戦闘が終了していることを確認していると、シラユキが慌てた様子でこちらへと駆け寄ってきた。


「――ジンくん、大丈夫!?」

「ああ、死に体だけど……っと、サンキュー」


 手渡されたポーションを有り難く受け取り、一気に飲み干す。

 ある程度までHPが回復するのを待ってから、俺はゆっくりと立ち上がった。


「ありがとうな、シラユキ。俺が死なずに済んだのはシラユキのおかげだ」


 それから重ねて、シラユキに感謝を告げる。


 さっきの墜落ギャンブルだけど、結果からいうと俺の負けだった。

 感覚的に本来の落下ダメージの総量は、俺の最大HPを少し上回るくらいのものだったと思う。


 つまり、ドン・ヴァルチャーと一緒に仲良く俺もポリゴンへと散っていくはずだったということだ。

 だが、俺をこうして生存させたのは、落下直前に俺を包んだ青い光のおかげだった。


 支援系アーツスキル——バリアー。

 味方一人のVITを上昇させるこの術は、シラユキによって施されたものだった。


「……しかしまあ、よく俺が地面に落ちるまでに術を発動させるの間に合ったな」

「ぐ、偶然だよ。さっきは無我夢中になってたから……でも、間に合って本当に良かった」


 そう言ってシラユキは、ふにゃりと目を細めてみせた。


 ちなみに作戦内容を伝えた時、俺が指示を出したのは、巣を狙ってエナジーショットを放つところまでだ。

 というのも、エナジーショットを発動してすぐさまバリアーも使用するとなると、術式の構築が間に合わないだろうと思ったし、何かあった時の保険がない方が、俺も腹を括れたからな。


 だからバフを盛ることを選択したのは、紛れもないシラユキ個人の判断であり、落下までに術式の発動を間に合わせたのは、シラユキの超絶ファインプレーだった。


 正直なところ、シラユキの成長具合に内心めちゃくちゃ驚いている。

 だって昨日のスライム一匹すらまともに倒せなかったあの状態から連続での術式行使……しかも二回目に関しては、瞬時に術を使う判断をして高速で構築して発動させられるまでになってるとか、もう別人レベルだろ。


 ――なるほどな、慣れたら一気に化けるタイプだったか。


「……ま、なんであれこれで無事にドン個体のヴァルチャーを倒せたわけだし、あとは荷物を回収して帰るとしようぜ。シラユキはあそこの物陰に隠れてるハンスを呼んできて貰っていいか? 俺は、その間に巣から荷物を取って来ておくから」

「うん、分かった。って、え……!? その、大丈夫なの?」


 シラユキが不安げに訊ねてくる。


 まあ、そうなるのも当然か。

 ついさっき落下ダメージで死にかけたばっかだし。


 心配になる気持ちも分からんでもない。


「まあな。今度は別に飛び降りるわけじゃねえし」

「でも……!」

「マジで大丈夫だから。それよりハンスのこと頼んだぞ」

 

 軽く笑みを浮かべて答えると、シラユキはジト目を向けていたが、少し間を置いてから分かったと首を縦に振った。

 明らかに納得してなさそうな表情ではあったけど。


「……あ、そうだ。シラユキ」


 それからハンスを呼びに行こうと背中を向けるシラユキに声を掛け、俺は軽く手を挙げながら続けて口を開いた。


「ナイスアシストだった。GG」

「……うん、どういたしまして。GG」


 シラユキは一瞬きょとんとした顔をするも、すぐににこりと笑みを浮かべて、ハイタッチに応えるのだった。




————————————

ヴァルチャー

 ネクテージ渓谷周辺に生息する飛行種エネミー。

 普段は、断崖に巣を構えて生活しており、獲物を狩る時だけ地上に降りる。プレイヤーに対して積極的に襲いかかることはないが、孤立していたり、戦いで疲労したところを狙って襲撃する狡猾さを持っている。

 ヴァルチャーのドン個体は、一帯を統べる親分のような個体で、通常種より二回りほど体格が大きくなる。また、体内の風属性の魔力が大幅に増加し、魔力をこめて翼を羽ばたかせることで鎌鼬を発生することが可能になる。仮にドン個体がいなくなる場合、残ったヴァルチャーの中から一匹だけがドン個体へと成長する。逸早く成長できた個体だけが一帯の巣を自由にできる権利を得るのだ。


ヴァルチャーは通常種、ドン個体共に、ずっと空飛んでばっかのクソエネミーですが、一度地上に落としてしまえば、後は袋叩きにするだけで倒せます。

とはいえ、撃ち落とすにしても弓やスリングショットのような飛び道具系の武器が無いと、中々撃墜できないので、結局クソエネミーには変わりません。

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