初見殺し
「1、2、3、4――はい、そこおっ!!」
四連台パンが終わって硬直状態に入った山羊魔獣の頭部を狙って、シールドバッシュとパワーキックのコンボを叩き込む。
初めにぶっ放された時は軽くビビったが、慣れれば連続バックステップでどうにかなるし、拳を地面に叩きつける過程で上半身が下がるおかげで、頭に攻撃当てやすくなって助かる。
最後に一発だけ斬撃と素の盾殴りをお見舞いして、すぐに距離を取ろうと後ろに跳んだ時だ。
山羊魔獣が足をふらつかせ、頭上に星形エフェクトが天使の輪のようにして出現していたのが見えた。
「――よっしゃ、スタンきた!」
取説を読んでたから存在は知っていたが、ボスにもちゃんと有効だったか。
あればいいな程度の考えで盾殴りや蹴りといった打撃系の攻撃は頭部に当てることを意識していたが、どうやらそいつが功を奏したみたいだ。
(なら、ここで一気に削る!!)
着地した瞬間、またすぐさま前方に飛び込み、思い切り剣を振り下ろす。
前方に跳躍して斬りかかるアーツスキル――ジャンプスラッシュ。
この技が俺が持っている攻撃スキルの中で一番の火力を誇る。
モーションが大振りで後隙もデカいから使うタイミングは見計らう必要はあるが、距離を詰めながら攻撃したい時、一撃で仕留めたい場合やここぞというタイミングでは有効打になる。
ジャンプスラッシュで山羊魔獣を斬りつけた後は、ここからはスキル無しの斬撃を連続で浴びせる。
リキャストが終わり次第、シールドバッシュとパワーキックを即座に発動させて更なる追い討ちをかけていく。
スキル発動後は、またひたすら無心に攻撃を畳み掛け、十秒程度が経過した辺りでラッシュを止め、後方に退避する。
スタン自体はまだ終わってないが、持続時間を把握するのと、スタン解除直後の思わぬ反撃に遭う可能性を減らすためにあえての判断だ。
挙動が読めない以上、下手に突っ込むとかえって窮地になりかねないしな。
しかしまあ、観察に徹していた時間を含めていたとはいえ、かれこれもう三十分くらいはぶっ通しで戦ってるのに全然倒れる気配がしない。
他の雑魚敵は漏れなく全部1分もあれば倒せていたから、こいつがいかに例外かというのが嫌でも痛感させられる。
……やっぱりなんであいつ、こんなのに襲われてたんだ?
偶然……なわけないよな。
となると、特殊イベントによるものか?
秒数を数えつつ、思考を巡らせていると山羊魔獣が我を取り戻したようで、それを示すように頭上のエフェクトも消滅した。
「——スタンの効果時間は大体二十秒弱、ってところか」
思ったよりは長めに設定されているみたいだな。
次にまたスタンにした時も同じ時間なってればいいけど――
「……って、は!!?」
反射的にっていうか、ほぼ無意識だった。
俺は、咄嗟に横に跳びながらジャストガードを発動させる。
刹那——突如として山羊魔獣が身が竦んでしまうほどの咆哮を轟かせた。
全身を覆う黒煙が周囲へ大量に溢れ出し、その一部が一箇所に集まると、巨大な魔力の球体となって俺に向かって放たれた。
(っ、しまっ……!!)
初見殺しはどれだけ警戒していたとしても、前知識がなければ十中八九回避できないからこそ初見殺しと言われるわけで、この状況がまさにそうだ。
だからせめてものリカバリーはできるようにと、集中は切らさないでいたわけだが……クソッ、それでも不十分だったか!
盾と黒の球体が衝突した瞬間、俺の身体はいとも容易く後方へ吹き飛ばされる。
ピンポン玉のように何度も地面を跳ねて転がり、たまたま生えていた木にぶつかることでようやく動きが収まった。
「ガハッ……!!」
(――クッソ、やらかした!!)
ジャストガードで直撃を防ぎ、空中で受けてあえて吹っ飛ばされることで被弾時の衝撃を和らげることには成功した。
にも関わらず、HPがほとんど尽きかけている。
どうにかギリギリ生きていられるのは、HPとVITの高い戦士にしていたおかげだ。
それでも盾を装備——それも適正を盾使いにしてなかったら、今ので間違いなく即お陀仏だったぞ。
盾使いにかかる補正が防御力なのに助けられた結果となった。
「……けど、やべえな。ポーション持ってねえってのに致命傷食らっちまうとは。こうなるんだったら、道具屋に行った時、ダガー売っ払ってポーション買うべきだったか」
RTAじゃないし無理して金策しなくていいやと、そのまま来たのが裏目に出てしまったか。
けどまあ、今更後悔したところで仕方のないことではある。
思考を切り替えろ……!
今、考えるべきなのは、どうやってあいつを倒すか……それだけだ。
カスダメでもデスしてしまうレベルの残りHPだが、これに関しては心配ない。
長時間対峙し続けて来たことであいつの攻撃パターンは完全に掴んでるし、次にさっきの初見殺し技を放ってきても確実に避けられる。
ただ問題があるとすれば、視界左上にあるHPバーのすぐ真下に半透明で表示された死神のアイコンだった。
「——なんでこんな序盤から
状態異常『呪厄』——発生から一定時間が経過すると、問答無用でプレイヤーに即死効果を付与する。
一度この状態に陥ると、聖水や解呪専用の回復スキルといった特定の方法でなければ解除することができない。
だが生憎、現状そのような回復手段は持ち合わせていない。
というかそれ以前に、アトロポシアの道具屋に売ってた回復アイテムは、そもそもポーションと解毒薬しか無かったはずだ。
つまり、俺に呪厄を解除する方法が無い以上、こいつに勝とうが負けようが俺がデスすることは確定となっている。
……やっぱあいつ序盤に出てきていい敵じゃねえだろ!?
「マジでフラグ回収してどうすんだよ……! クソッ、絶対てめえだけは道連れにしてやるからな!!」
何秒で即死が発動するかは調べてないから分からないが、取説によればアイコンがはっきりと表示された瞬間にデスになるという。
それまでに何としてでもあいつをぶっ倒す!
遠くにいる山羊魔獣を睨みつけると、山羊魔獣の全身を覆う黒煙は更に濃度を増しており、煙の奥では深紅の双眸を鋭く光らせていた。
スタンさせたことで怒り状態に変化したか。
「怒り状態になりてえのは俺だっつーの! でもそんなこと知ったこっちゃねえ、こっからは攻めチャーでいく!」
さっきより攻撃スピードも威力も上がろうが、全部完璧に対処してやるよ。
カスダメでも乙してしまいかねない緊張感に奮い立つ中、俺は山羊魔獣の懐目掛けて駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます