乱入、闘志激らせて
「いやぁぁぁぁぁっ!!!」
女プレイヤーが上げる悲鳴に躊躇う素振りすらなく山羊魔獣は、丸太のような太く屈強な腕を容赦無く振り下ろす。
硬く鋭い爪が女プレイヤーを引き裂こうとした寸前、間一髪のところでどうにか間に割り込むことができた。
俺はタイミングを合わせて防御することで身体にかかる衝撃を大幅に緩和させるアーツスキル――ジャストガードで攻撃の軌道を逸らしつつ、カウンターで頭部にシールドバッシュを叩き込む。
続け様に通常よりも高威力の前蹴りを放つパワーキックを腹部にぶち込んで、山羊魔獣を無理矢理後退させてどうにか生み出した隙に、女プレイヤーを抱えて山羊魔獣から距離を取った。
無闇に異性プレイヤーに触るのはあんまりというか普通によろしくないだろうが、変なところは触れないようにしているし、今は緊急事態だから大目に見て欲しい。
にしても、やっぱ敏捷上げといたのは正解だった……!
じゃなきゃ多分、今の攻撃を防ぐの間に合ってなかったぞ。
「おい、大丈夫か!?」
「――え? は、はい。……って、あれ、え!?」
まさか助けが来ると思っていなかったのか、女プレイヤーからはどこか素っ頓狂な反応が返ってくる。
今はちゃんと顔を見ていられる余裕などないから表情は確認できないが、恐らくまだデスしてないことに驚いているんだろう。
……ん?
つーかこの声、どっかで聞き覚えが……?
いや、今はそんなこと考えている場合じゃねえか。
「獲物を横取りするようで悪いが、ここは俺が惹きつけておく。その間にあんたはさっさと逃げろ」
「え……? でも、そしたらあなたは……?」
「俺のことは心配しなくていい。サシで戦うのは得意な方だからな。ほら、行け!」
「は、はいっ……!」
女プレイヤーは最後に「ありがとうございます」一言礼を告げて、足早にこの場を去っていく。
俺がずっと視線を外さずに睨みつけていたからか、はたまた奴の気まぐれか。
理由は知る由もないが、彼女が居なくなるまでの間、山羊魔獣は攻撃を仕掛けることなく俺をじっと見つめていた。
今更だけど、さっきの俺の発言って、バチクソ死亡フラグだよな。
身を挺して退路を作る奴って大抵、そこでやられて退場するイメージがあるし。
(……え、やめろよ、マジで。いや、ガチで)
悪い予感を払い除けるようにブンブンと頭を振り、意識を山羊魔獣へと集中させる。
「……まあいいや。そんじゃまあ、いっちょ俺と一戦やろうぜ」
盾を持つ手で軽く手招きをした瞬間、山羊魔獣は悍ましい咆哮を上げると、右腕を大きく振りかぶってから物凄い勢いで飛びかかってきた。
「って、動き早っ!」
そのまま俺の頭を砕こうと拳を地面に叩きつけるや否や、間髪置かずに今度は左腕でも同じことをしてくる。
しかもそれで攻撃は終わらない。
咄嗟に側面に回り込むようにしてローリング回避した俺を追尾するように、もう一度同じコンボを仕掛けてきた。
「あっぶな!! いきなり猛攻かよ!?」
あれ直撃喰らったら間違いなく一撃でお陀仏だろ。
早速、フラグ回収するところだったぞ。
けど、多分あれ行動パターンの一つだよな。
メタな読みになるけど、AIだけであんな攻撃してこないだろ。
もし次、右腕を振りかぶる予備動作から同じことをしてきたら確定と見て良いはず。
(試しに攻撃を誘ってみるか……?)
様子見で攻撃が終わって動きが止まった山羊魔獣から距離を取ってみる。
すると今度は、両腕を大きく引いてモーションをとってから助走をつけたラリアットを放ってきた。
「それじゃねえ!」
思ってたのと違う攻撃で意表を突かれたが、別にも攻撃方法があることを知れたのは大きな収穫だ。
それに幸い、距離があるから見てから対処が間に合う。
悠長にしていられないが、今はできるだけ山羊魔獣の動きを引き出して情報を掻き集めるべきだ。
ラリアットは低く身を屈むことでやり過ごし、俺は立ち上がり様に山羊魔獣の背中を斬りつける。
でも隙があったら見逃さずに反撃は仕掛けていく。
慎重に、でも大胆に——意識して立ち回るのがタイム短縮のコツだ。
……って、今はRTAじゃねえんだった。
そんな感じで攻撃を誘っては、避けるかジャストガードでいなし、時々カウンターをの一撃を浴びせる。
それを体感で十五分ぐらい続けているうちに、なんとなく山羊魔獣の行動パターンが掴めてきた。
――移動しながらの攻撃が三種類、その場での攻撃が三種類ってところか。
まず移動系の攻撃だが、標的を追いかけながらの四連台パン、両腕での突進ラリアット、それとショルダータックルだ。
ショルダータックルだけ予備動作が短いのが厄介ではあるが、どれも対処は楽だし攻撃が終わった後の硬直がはっきりしていてカウンターを狙いやすい。
行動の美味さでいえば全部中ってところだな。
で、面倒くさいのがその場での攻撃だ。
こっちはシンプルに爪を振り下ろす、地面を抉り上げるような回転攻撃、それと両腕を上げてからの上体プレスなのだが、はっきり言って上体プレス以外は出してきて欲しくない。
ほぼノーモーションから放ってくる上に、攻撃が終わったら即座に振り向きからの連続攻撃してきたり、バックステップで距離取ったりで後隙が綺麗に潰される。
しかもバックステップから移動攻撃を誘おうとしても、ただ飛び込んでくる場合もあるから面倒なことこの上ない。
とはいえ、多分だけどこういった攻撃は、パリィみたいに弾き返すことができれば、逆に隙を作り出せるとは思う。
「——残念なことにそもそもパリィ持ってねえんだけどな!!」
今の俺にできるのは、ジャストガードと素の回避でどうにか耐え凌ぐだけだ。
唯一、上体プレスは予備動作も分かりやすく、後隙も他のどの攻撃よりも長い。
こいつが一番のデレ行動になっていた。
つーかさ、これマジで初心者に倒させるつもりねえだろ。
個人的にはこういうのJINMUっぽくて好きだけどさ。
ここまで凶悪設計だと負けイベじゃないかと邪推したくなるが、どうせ負けたら普通にリスポーンするだけだ。
JINMUで何度もそのパターンに泣かされてきたんだから間違いない。
「ハハッ……! これだよ、これ。一つのミスが破滅に直結する肌がひりつくようなこの緊張感。いいね、ちょっと燃えてきた……!」
アルカディア・クエスト――大衆向けのヌルゲーかと思ってたけど、どうやら高難易度攻略もちゃんと用意してくれているとはな。
こんなのテンション上がるしかねえじゃねえか、おい!!
脳内にアドレナリンがドバドバと溢れ出す中、俺は山羊魔獣が繰り出す次の攻撃に備える。
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