白の少女と黒の魔獣

 無事に短剣カテゴリのダガーから片手剣カテゴリである”ブロードソード”に買い替えた後。

 アトノス街道に移動した俺は、武器の試運転がてら襲いかかってきたエネミー相手に何度か戦闘を繰り返していた。


「槍はシールドバッシュで弾いて……はい、とどめぇっ!!」

「ブモォッ!!?」


 カウンターでイノシシ頭の怪人オークの胴体をぶった斬ると、オークは光の粒子となって身体を四散させた。


「そうそう、やっぱこれだな。これくらいのリーチが一番戦いやすい」


 何戦か使ってみた感想だが、結論から言えば文句無しだ。

 開発元が同じおかげか、JINMUの時とほぼ同じ感覚で扱うことが可能だった。

 他にもチュートリアルエリアより強化されたスライム、緑肌の小鬼ゴブリンでっかいコウモリバットとかもサクッと倒すことに成功した。


「欲を言えば日本刀みたいなやつが一番手に馴染むけど……とりあえず今はこれで十分か」


 本当だったら片手剣を買い替えるだけで買い物を済ますつもりだったが、予想よりもお金が余ったのでついでに盾も”皮の盾”から”青銅の盾”に買い替えている。

 おかげで回復アイテムを買う余裕が無くなったけど、これまで戦ってきた感じ、無くてもどうにかなりそうだ。


 それと盾で殴る時の威力は、盾の防御力が多少影響しているらしい。

 検証として皮の盾と青銅の盾それぞれで殴ってみたら後者の方がダメージを出していた。


 まあ硬い方で殴った方が痛いだろうし、JINMUでも似た現象が起きていたから、なんとなく予想がついていたことではあったけど。


 あと盾殴りといえば、最初から習得してあったアーツスキルのシールドバッシュ。

 やってることは盾で殴る時の威力を高めるだけの単発技だったが、追加効果として通常攻撃を当てた時よりも敵が仰け反りやすくなっていた。


 スキルは一度発動するとリキャストが入るから連発は出来ないものの、まあ使い勝手としては悪くはない。

 多分、今後他にスキルを習得したとしてもメイン技として使っていくことになるだろう。


 シンプルでクセの無い攻撃って最後まで重宝するしな。


 更に同じスキルを一定の度合いまで使い込むと、スキルレベルが上昇して性能が強化されていくらしいから、良さげなスキルが見つかったら積極的に発動させていきたいところだ。


 とまあ、こんな感じで新しい要素を確かめたり、変化を実感しているわけだが、


「――何よりAGIガン積みしたのマジで正解だったな。ゲーム始めた時より確実に動きが機敏になってる」


 元々は移動用の為に上昇させたAGIだったが、戦闘中の動作速度自体もかなり向上していた(多分こっちが本来の用途)。

 これなら雑魚敵相手なら回避だけでもやり過ごせるだろう。


 とりあえず現状、スピードに関してはこれくらいあれば十分だな。

 回避に関しては自前のプレイヤースキルでどうとでもなるし、仮に避けきれなくても盾でいなすなりして直撃を防げれればそれでいい。


 ここからは獲得したPPの殆どはSTRに回して、火力重視のビルドにシフトしていって問題ないだろう。


「……よし。それじゃあ、軽い肩慣らしも終えたことだし、そろそろエリア攻略に向かうとするか」


 この調子なら狩場をエリアに変えて問題ないはず。

 俺は遠くに見え始めた森林に向かって移動を再開した。






 パスビギン森林に入り、ひたすら敵を狩り続ける早数時間。


 オンラインゲームだから当たり前のことなのだが、街の外にも俺以外にプレイヤーはそこら中にいる。

 敵と戦っている場面に遭遇するのもさほど珍しいことではない。


「――でも、だからって……なんであいつ、明らかにヤバそうな奴に襲われてるんだよ!?」


 レベル上げがてら森を探索していると、遠くの方で如何にも初心者ですという雰囲気を醸し出している白髪の女プレイヤーが、絶対にまだ出現することのないであろう謎のエネミーと対峙していた。


(え……は? 何だよ、あの魔獣?)


 絶対ここらで徘徊しちゃいけねえやつだろ。


 深紅の眼を光らせる山羊の頭を持ち、強靭な四肢を備えた全身真っ黒な二足歩行姿は、よく悪魔として知られているバフォメットを彷彿とさせる。

 全身は禍々しい黒い煙——多分、闇の魔力みたいなもの——に覆われ、それのせいでえげつないくらいに危険な臭いがプンプンに漂ってきていた。


「どうしてこうなっているのか理由はさっぱり分からんけど、助太刀に入るべきか止めておくべきか……どっちが正解だ?」


 本来であれば、野良プレイヤーが戦っているところに割り込むのは好ましい行為ではない。

 たとえ加勢した側は善意でやったつもりだとしても、元々戦っていた側からすれば獲物の横取りと勘違いされてトラブルに発展する可能性だって十二分に考えられる。


 ……って、どっかのネットマナーに書いてた気がする。


(けど……あれに関しては、もう戦う以前の問題だよなあ)


 対峙しているとはいっても、女プレイヤーは尻もちをついてしまっているし、すっかり怯えてしまってまともに戦える状態ではない。

 放っておけば、そのまま一方的にやられるだけなのは目に見えていた。


「けど……今の俺にあいつ倒せんのか? 今レベル幾つだったっけ?」


 ステータス画面を開いて確認する。




————————————


PN:ジンム Lv:9

所持金:2862ガル

PP:0

ジョブ:戦士(盾使い)

-

HP:44  MP:12

ATK:41  DEF:31

SATK:7  SDEF:12

SPD:48  TEC:15

STR:35  VIT:19

INT:6  RES:12

AGI:48  DEX:15

LUK:10

アーツスキル

・シールドバッシュLv3 ・ジャストガード ・ジャンプスラッシュLv2 ・パワーキック


装備

武器1:青銅の盾

武器2:ブロードソード

頭:-

胴:村人の服

腕:-

腰:村人のズボン

脚:村人の靴

アクセサリー:-

アクセサリー:-


————————————




 ……うん、それなりに鍛えはしたけど、普通に敗色濃厚だな。


 確かここのエリアボスの討伐推奨レベルは11――それも二、三人でパーティー組んでいるのが前提だったはず。

 なのに下手したらエリアボスより強い可能性すらあるあいつとソロで戦うってのは、やれない事はないが如何せん無謀過ぎる。


 それに助けたって俺に何のメリットがあるわけでもない。

 寧ろ負けたらただデスペナが課されるだけで損得だけで考えれば、間違いなく損の方が大きい。


「だからって、見て見ぬ振りってのもなんか癪に障るし……」


 判断に悩む。

 だが、こうしている間にも山羊魔獣は女プレイヤーをキルしようとしている。


「——ああ、クソッ! もうどうにでもなれ!」


 格上だからってビビってんじゃねえ。

 そんな状況、JINMUのany%じゃデフォだったろうが。


 つーか、初期装備でテンゲンノマガツヌシと戦うことになるany%と比べれば、あいつを相手にする方がまだ全然マシなはずだ。


 つーか、あれより優しく難易度調整されているゲームで逃げるとかあり得ねえよなあ!?

 迷ってる時間があるなら、さっさと凸るぞ!


 そう自分に言い聞かせて、俺は少女と山羊魔獣の間に突撃することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る