一人、路地裏にて

 道中で襲いかかって来た別のスライムも秒で蹴散らしながら、無事アトロポシアに到着してから俺は、誰もいない路地裏でメニュー画面を操作していた。


 ここならさっき居合わせたプレイヤーとばったり遭遇することも無いだろうし、人通りが多いところだと呑気にメニューを覗けないしな。


「まずは何をするにしてもレベリングと金策は必須だよな。それとアーツスキルっつーのがどんなもんなのか試しながら、あとは……素材集めだな。生産職があるってことは、アイテムは作れるってことだろうし」


 とりあえず現状確認も兼ねて、ステータス画面を見てみるか。




————————————


PN:ジンム Lv:1 

所持金:1004ガル

PP:50

ジョブ:戦士(盾使い)

-


HP:35  MP:10

ATK:18  DEF:24

SATK:5  SDEF:10

SPD:7  TEC:8

STR:15  VIT:15

INT:5  RES:10

AGI:7  DEX:8

LUK:5

アーツスキル

・シールドバッシュ


装備

武器1:革の盾

武器2:ダガー

頭:-

胴:村人の服

腕:-

腰:村人のズボン

脚:村人の靴

アクセサリー:-

アクセサリー:-


————————————




「なるほどな……ATK攻撃力STR筋力みたいに似た単語が分かれているのは、素の能力と武具を装備した時の最終的な数値を区別するためってところか」


 初期パラは俺が調整したわけではなく、最初からこうなっていた。

 俺が自由に調整できるなら、まず間違いなくHPとVIT耐久の数値をSTRとAGI敏捷に回してる。


 ちなみに初期パラはジョブごとに個別で設定がされている。

 例えば戦士の場合だと、素のHPが高く、攻守共に物理方面が強くなっている代わりに、他は平均を下回るようになっている特徴がある。


 特にINT知性に関しては壊滅的だが、そもそも戦士は接近戦を前提とした近接DPSかタンクといった役割に回ることが多いから、妥当な数値配分といえるだろう。


 ゲームによってはジョブ関係無く初期ステータスは一律スタートだったり、完全に自分で好きに割り振れるっていうのもあるみたいだが、ある程度差別化が図られているのは恐らく初心者への配慮だろうな。

 これならジョブの特色を掴みやすいし、極振りして事故るってこともないわけだし。


 それと数値上には表示されていないから分かりにくいが、ジョブごとに決められたパラメータに補正がかかっているらしい。

 俗に言う隠し補正って奴だな。


 例えば、戦士であればSTRとVIT、盗賊だったらAGIとDEX器用みたいな感じに。

 だから戦士と盗賊が全く同じパラメータで同じ動作をとったとしても、戦士の方が火力と耐久に優れ、盗賊の方が行動の速度や精密性に優れている。


 ……と、取説に書いてあったから間違いない。


「あと、そうだ。今のうちにパラメータポイント振っておくか」


 ステータス画面上部にあるPPの文字列を見て、ふと思い出す。


 初期パラメータがプリセットだとすれば、PPパラメータポイントがどのようなものかと言うと、自分の好きなように自分のステータスを成長させることができるいわば拡張要素だ。

 こいつをどう割り振るかで今後の冒険に大きく影響が出てくる。


 PPはゲーム開始時点で50ポイントが配られ、以降はレベルアップやら特定の条件達成で獲得できるという。


 ここで注意しなきゃいけないのは、一度割り振ったポイントは、自分では元に戻すことが出来ない。

 だから調整は慎重に行う必要がある。


 まあでも、初期の50ポイントをどう割り振るか、頭の中ではもう既にほぼほぼ固まっているんだけど。


「……とりあえず、AGIガン積みで残りは、DEXとLUK幸運にでも振っとくか」


 遺跡から宿屋まで全速力で走ってみて思ったのだが、現在の敏捷だと如何せん足が遅すぎる。

 走る動作自体はJINMUの時よりもスムーズになっている感じすらしたが、同時に思うように前に進んでいない感じがしていた。


 多分、戦士にしている影響なんだろうが、もしこれがこの先も続くとなるとそのうち若干……いや、かなりのストレスになりかねない。

 まずは、この問題を解決するべきだ。


 それにRTA抜きに考えても効率よくゲームを進めていくには、まず移動時間を短縮するのが肝要というもの。

 特にこういうったゲームの場合、自分の足で動くのが基本になってくるだろうから、今真っ先に上げるべき能力は素早さで間違いないはずだ。


 攻撃力を本格的に鍛えていくのは、その後からでも問題ない。

 というか、序盤の攻撃力の差なんてそこまで大したもんじゃないだろ。


 DEXにPPを振るのは、気持ち程度だけど動作のスムーズ化に繋がればいいという考えからで、LUKに振る理由はというと……運は大事、以上。


 数値上は僅かな差でしかないかもしれないが、この小さな差がここ一番での運ゲーに勝利出来るかどうか左右する鍵になる。

 乱数の女神様から得た教訓だ、間違いない。


 耐久は知らん、んなもん防御と回避で凌ぎきれ。

 出来なきゃ、出来るまでデスを繰り返して練習しろ。


 ——これは、JINMUの教訓だ。


「……これでよし、と」


 というわけで、AGIに40、DEXとLUKに5ずつ割り振ってPP調整は完了。

 ステータス画面を閉じ、次はレベリングの予定を立てるべく、街周辺を含んだマップを映し出す。


「へえ、この辺の地形ってこうなっているのか」


 街の西側と北側それぞれに門があり、西門から出るとさっきのチュートリアルフィールドに繋がり、北門から出ると次の街に続くフィールド――”アトノス街道”に繋がっている。

 街道が攻略ルートであり、そのまま奥に行けば次の街に繋がるエリアがある。


 選択肢としては二つあるわけだが、まずチュートリアルエリアは無しだな。

 他のフィールドと比べて敵が弱く設定されているが、代わりに得られる経験値も金も低すぎて、流石に効率が悪すぎる。


 本当にゲームに慣れていないプレイヤー向けのエリアなんだろう。


 となると……必然的にアトノス街道になるか。

 そこで雑魚敵を狩りつつ場合によっては、そのまま隣接するエリア”パスビギン森林”に場所を移すってのもアリだな。


 そんなに無理に攻略を急ぐ必要もないけど、早く次の街に行けるに越したことはないし、可能ならエリアを攻略することも頭に入れておくか。


(――ま、予定としてはざっとこんなもんか)


 あとは武具屋に行って、ダガーを売っ払って片手剣に買い替えれば準備完了だ。

 やることが決まったのなら善は急げ、俺は足早に武具屋に向かうことにした。

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