限界を迎え、繰り出すは決死の一撃
さっきまでは攻撃後の動きが止まる瞬間を狙って、確実に反撃を与えるヒットアンドアウェイを軸に戦略を組み立てていた。
だけど、それだと先に呪厄による即死効果が発動してしまう。
立ち回りを変える必要がある。
常に側面に張り付くように立ち回り、攻撃と回避を同時に行うぐらいの意識で攻めなければ俺に勝ち目はない。
怒り状態になったことで予想通り攻撃速度は上昇し、おまけに黒煙によって攻撃範囲も広がっていたが、モーションそのものに大した変化がないおかげで、対処にはすぐに慣れた。
それどころか全体的に更に動きが大振りになっているから、むしろさっきよりも戦いやすくすら感じる。
「爪、振り向き、抉り、抉り、バクステ……タックル!」
山羊魔獣が何かアクションを起こす度、俺はカウンターの一撃を当てていく。
頭部への盾殴りもしくは斬撃を基軸にして、リキャストが終わると同時にアーツスキルを発動し、最速最短でスキルを回していく。
発動タイミングがダブった時は、状況にもよるがシールドバッシュを優先させる。
発動時の隙も少ない上に、もう一回あいつをスタンにすることができれば、一気に攻撃を畳み掛けられる。
そうなれば勝機はグッと上がる。
というか、スタンにさせることが俺の勝利条件の一つと言っていい。
(何か知らねえが、肉質も柔らかくなってるしな)
形態変化した後から攻撃した時の手応えにも変化が起きている。
通常状態よりも斬りつけた時に発生する傷口のエフェクトが確実に大きくなっていた。
敵のHPゲージも与えた時のダメージ量も視認できないから断言はできないが、耐久と引き換えにすることで攻撃力を上げているのかもしれない。
ショルダータックル終わりに山羊魔獣の脳天にシールドバッシュを叩き込むと、山羊魔獣の左角が根元からボッキリと砕けるようにして折れた。
「お、部位破壊もあんのか!」
今はそんなこと気にしている場合ではないのだが、新発見があったらテンション上がるのが自然の摂理というもの。
それに部位破壊が発生したということは、着実にダメージを与えられている証拠でもある。
ピンチとチャンスは紙一重。
だったら……尚更ガン攻めでいくしかねえよなぁ!!
「――きた、プレス!」
しかも、タイミングよく一番のデレ行動である上体プレスのモーションに入った。
俺はジャンプスラッシュの発動の為、一旦後ろに飛び退く。
これに関しては、攻撃がヒットするタイミングで周囲に発生する黒煙の余波を回避する意味合いも兼ねてある。
「オラァ!!」
飛び込みからの渾身の斬り下ろしを叩き込み、そのまま連続斬りへと派生させる。
一撃、二撃と剣を振るい、三度目の斬撃を浴びせたその時だった。
手元でバキィ、と金属が砕けたような甲高い音が響いた。
視線を移すと、ブロードソードの刀身が根本からぼっきりと折れていた。
「はあっ!? 装備破損あんのかよ、このゲーム……!!」
……いや、よく思い返してみれば、装備には耐久値なるものが存在するみたいなことが取説にも書かれてた気がする。
それに何時間も休憩無しで雑魚狩りしてから三十分以上こいつと戦っていれば、武器が限界を迎えて破損したとしても何ら不思議はない。
「だとしても、最低のタイミングで壊れてんじゃねえよ!」
なんで今なんだよ……!?
青銅の盾がまだ無事であるのは救いではあるか。
とはいえ、同じタイミングで買い揃えたことを考えると、こっちもいつ破損してもおかしくはない。
柄だけになってしまったブロードソードを投げ捨て、即座に左手の装備をダガーに変更する。
売らずに残しておいたことが、まさかこんな形で助けられるとはな。
山羊魔獣が起き上がるのに合わせて、顎へと勢いよく盾を突き上げ、立て続けにリキャストが終わったシールドバッシュで顔面にぶち込み追い討ちをかける。
ここでようやく山羊魔獣の頭上に待望のスタンエフェクトが発生した。
「よし、スタン間に合った——けど、タイムリミットも残ってねえ!!」
気がつけば、死神アイコンがほぼはっきりと表示され、目の前には黒衣を身に纏った骸骨の姿が見え始めていた。
奴の掌の上には黄色い火の玉のような浮かんでいる。
恐らくそれがこのアバターの魂なのだろう。
猶予はあと数十秒あるかないかってところか。
それまでに……いや、このスタンが切れるまでに決着をつける!
どのみちこれで削りけれなければ、もう大量にダメージを与えるチャンスはないし、もし下手に体力を残してまた特殊行動をされでもしたら、それこそ完全に詰みだ。
盾をメリケンサックを握るような形に持ち直し、短剣と盾両方で山羊魔獣に怒涛の連続攻撃を浴びせる。
少々雑な斬撃と殴打のラッシュではあるが、合計のダメージ量もDPSもこれが一番高いのは間違いない。
多段ヒット系のアーツスキルがあればもっと良かったが……って、ないものをねだっても仕方ねえか。
それよりも今は、こいつのHPを削り切ることだけに集中しろ。
「間に合え……!!」
がむしゃらになってひたすらコンボを叩き込む。
だが、スタンが始まってから十秒が過ぎたあたりで、急にぐったりとした疲労感に襲われ始める。
(クソッ……スタミナ切れか!)
一応、このゲームにもスタミナの概念はあるらしく、全力の行動を取り続けると疲労度が溜まっていき、一定の値を超えると少しずつ動きが鈍くなっていくという。
スタミナを使い切った状態で動きを止めると完全疲労となって、アバターの息が整うまで、まともに身体を動かせなくなる。
ここで一度スタミナを回復するべきか……いや、続行しかねえだろ!!
攻撃の手を緩めたらスタンが終わってしまうし、これで倒せなきゃどのみち負け濃厚だ。
十五秒が経過する頃には、動きのキレは更に悪くなり、全身が鉛になったかと錯覚レベルで急激に重くなっていく。
まだか……まだ届かないか……!?
そして、二十秒。
ここまで来ると最早、気力だけで動いていた。
疲労はとっくに限界を迎え、攻撃の威力も大分下がっているように思える。
それでも短剣を振るい、盾で殴りつけていく。
というか止まったら疲労状態になるし、それこそ一巻の終わりだ。
「だあぁぁぁぁぁっ!!! いい加減くたばりやがれっ!!!」
ついにスタンから回復し、山羊魔獣が動き出そうとする。
咄嗟に俺は、無理矢理発動させたシールドバッシュを腹部に叩き込む。
これで動きを止めることには成功する。
……が、盾が山羊魔獣を捉えた瞬間、耐久値が限界を迎え、砕け散った。
けど気にしてる余裕はねえ。
俺は、ジャンプスラッシュの発動を試みる。
短剣ではあるが同じ剣カテゴリ同士だし発動できなくは無いはずだ。
スタミナ切れのせいか、その場でほんの僅かに跳ぶだけのモーションになってしまったが、発動は——成功。
最後に振り下ろした短剣が山羊魔獣を両断する。
そして、これがとどめの一撃となった。
山羊魔獣は最期に弱々しい咆哮を上げると、その巨体を爆ぜさせ、光の粒子となって辺りに霧散していった。
————————————
【RESULT】
EXP 4540
GAL 1420
TIME 38’15”79
DROP ”黒山羊の呪爪×2”、”黒山羊の呪角”、”呪獣の魔核”
【EX RESULT】
称号【黒の眷属を討ち倒し者】を獲得しました。
称号【格上殺し】を獲得しました。
————————————
「はぁ……はぁ……間に、合った……か」
動きを止めた途端、完全疲労に陥ってことでついに立っていられなくなり、堪らず膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れ込んでしまう。
これが完全疲労……うっわー、マジで疲労感えげつねえな。
指一本まともに動かせねえし、声を出すのもキツい。
目の前に表示されるバトルリザルトとその奥にいる死神をぼんやりと眺めながら、俺はフッと笑みを溢す。
結局、力尽きてしまう結果とはなったが、勝負には勝てたしよしとするか。
——ちょっとだけ冷めていた熱が戻りもしたしな。
「おらよ……好きに持って、いきやがれ」
最後に死神に向けて途切れ途切れに呟くと、死神は手にする火の玉を握り潰す。
瞬間——ぶつりと電源が切れたように、目の前が真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます