イーストエンドで朝食を

 本部の裏口、ガラス戸を岬が押し開けてくれた。サンキュ、と答えたアタシの息は白くて、思わず身体を震わせる。

 朝は5時。チバの街並みは寝静まってる。アタシは岬に、

「どっかで飯食ってかん?」

「食堂寄ればよかったのに」

「この時間やってないだろ」

 あ、そっか、と今さらみたいな顔で岬が言う。

 そう、SIAの食堂は6時~20時と諜報組織にあるまじき健全さで営業してるので。

「いい機会だしたまに別のモノ食おうぜ。何かあるか?」

「ん、岬的にはラーメンががいいですね」

「したらイーストサイドか」

「えー、逆方向ですよ? 公園の中に屋台とかないですかね」

「だとしてもこの時間は店じまいするとこだろうよ。ほれ、わがまま言うなって」

「むう……」

 アタシらはだらだらと、本部から南、駅方面へ、やがて出てきた高架の下の小道を分け入るように歩く。岬は自分で肩を抱くようにしながら、

「……寒いですねえ」

「そろそろその薄着、風邪引くぞ。あ、でもオマエは」

「バカじゃないですし天に言われたくないです」

「先読みやがって」

「パターン変えたほうがいいですよ」

「余計なお世話だわ」

 付き合い長くなってくるとこうなる。

「オマエも前よりしゃべるようになったよな」

「職場の人間関係には気を遣うので。疲れるですよ」

「オマエ七世さんのことそう思ってたのかー、ひでーやつだなぁ」

「どうしてそうなるですか!」

 とかしゃべってるとしばらくしてデカい道に行き当たり、件のラーメン屋見えてくる。15分ぐらいは歩いたか、このあたりじゃ1軒しかなくて、本部からはまあまあ遠い。

 岬はぐう、と臆面もなく腹を鳴らし、

「絶対大盛りにするですよ」

「あぁ、米おかわりし放題だよ。初見か?」

「岬はあんまりこっちのほう来ないですし」

「そもそも一人で飯もないだろ」

「だいたいセンパイと一緒ですし、家でご飯作るですし」

「で、その七世さんは?」

 さあ、と岬は拗ねた顔で肩をすくめつつ暖簾をくぐる。気持ちはわかるよ。最近会えてないのはアタシも同じだしさ。

 っていうネガティブな感情は、豚骨醤油とニンニクの香りに全部吹き飛ばされてた。我ながら現金なもんだ。

 ありがたいことに客は全然いなくて(当たり前)、すぐに出てくる濃厚なスープに縮れ麺。食欲をそそるソレに岬が目を細めながら、

「あぁ~、効きますなぁ~」

「おっさんかオマエは」

 会話もそこそこに麺を掻き込んで、アタシらの飯は待ち時間より短く終わる。育ち盛りだからね、仕方ないね。

 ともあれ腹一杯になったおかげで、何か全部忘れて、気分良く店を出て。

 アタシは寒空の下、煙草に火点けながら、

「んじゃ人心地ついたし。帰って寝ますかな」

「でも天、覚えてるですか?」

「何をだよ」

 岬はニヤッと笑って、

「明日、天だけ早出だったですよね?」

「余計なこと言うなって……」

 SIA作戦部。明るい社風で、今日も元気に3時間睡眠です。

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