第8話「地上と天に灯る星」

「ん?あれは、なんだ?」


ルナスタラの城門で検問官として立っていた衛兵は、夕陽の中で紫煙を吹かし城門へ向かって来る未知の鉄塊に疑る視線を送る、目線の先に映るのはカザミが乗る魔導機構弐駆マーヴァモータルだ、段々とエンジン音も大きくなるのに警戒した衛兵は武器を構え、城門前に立つと叫んだ、


「おい!そこの鉄塊止まれ!止まらなければ戦闘意思ありと判断し、こちらも戦闘行動へ移動させて貰う!!」


そう叫ぶ衛兵の声が聞こえたのか、衛兵が鉄塊と例えた魔導機構弐駆マーヴァモータルは城門より少し前で止まる、衛兵が警戒する中、カザミはゆっくりと降り、両手を上げて衛兵の方へ向く、


「えーっと、戦う意思なんて、全くないんですが、」


衛兵は未だ警戒しているが、カザミは両腕上げたまま衛兵の返答を待つ、衛兵の持つ武器は、柄の直ぐ上から一・五メートル程の長さの螺旋剣槍ブレードランス、あんな形状が独特な武器を扱える奴が弱い訳がない、争うのは得策とは言えない、


「貴様、何者だ、」

「いや、何者だと言われましても、ただの観光目的の旅行者何ですが、」


カザミの言葉に衛兵は拍子抜けした声を上げた、


「かん、こう?、だと、」

「ええ、観光です、」

「なら、この鉄塊はなんだ?」

「ああ、俺の旅行用の魔導機構弐駆マーヴァモータルです、」

「まーゔぁ?、なんだ!それは!」

「あーっと、、、移動用の乗り物ってことです、」

「移動用の乗り物?貴様作ったのか?」

「あー、はいそうです、」


いまいち状況を吞み込めていない衛兵に冷静に説明していると、城門の隣に付けられた衛兵用の出入口からもう一人の衛兵が出てくる、


「おい、どうした?客人か?」


出てきた衛兵はカザミの隣の魔導機構弐駆マーヴァモータルを見て固まる、その直後興奮したように声を荒げた、


「なんだコイツァ!?スゲーイイ見た目してんじゃねぇか!」


そう言って魔導機構弐駆マーヴァモータルにベタベタと触りながら興奮して話している、


「こう、なんつうか、どう言えばいいか分からねぇけど、めっちゃ良い!!、」

「・・・近未来的って言いたいのか?」


一人盛り上がっている衛兵にカザミが口を挟む、


「きん、みらい?、どういう意味か分からねぇが、こう、しっくりくる呼び方だな!、近未来、、いいな!、」


まだ触っている衛兵はカザミの言葉に賛同した、


「・・・フレックス、いい加減に職務戻ってくれないか?」


螺旋剣槍ブレードランスを持っていた衛兵はそれをしまい、怒りを抑えた声で、ベタベタと魔導機構弐駆マーヴァモータルを触るフレックスと呼ばれた衛兵に声をかけている、呼ばれたフレックス本人はぎくりとビビった様に振り向いた


「お、おお!そ、そうだな、しっかり仕事しねぇと!だからルーガ、その顔やめてくれ、マジで怖ぇからよ、」


お手上げとでも言うようにフレックスは両手を上げ、ルーガと呼ばれた衛兵の方へ歩いて行く、


「で、貴様の入国理由は理解した、そのまーゔぁ何とかは分からんが、敵意の有無も確認出来た、入国を許可する、」

「ああ、それはありがたい、」


カザミはルーガの言葉に安心すると、バイクを収納魔法にしまった、


「よしっと、ってあれ?」


後ろから突き刺さる様な違和感を感じ振り向くと、ルーガとフレックスが驚愕の顔でこちらを見ていた、


「・・何ですか?」

「あのデケェ奴を一瞬で収納した・・・」

「あれは、収納魔法の類なのか?、」


え、何かまずいことしたか?


「あの何か仕舞ったらまずい感じでした?」

「あ、いや、そういうわけでは無いが、あの大きさの物体を一度にしまうのは並みの人間には出来ないからな、」

「ああ、なるほど、、あ!そうだ、衛兵のお二人は何処かこの国で名所みたいな場所って知ってます?」


丁度いい、この国の衛兵なら名所の一つや二つぐらい知ってるかもしれないしな。


衛兵の二人は、少しの間考えるとカザミの方を向いた、


「今の夕の刻からなら、城門に入って直ぐに見える、星聖国中央の旧星詠之ホシヨミノ塔へ行ってみろ、月光の刻になる頃に、良い景色が見える筈だ、」


なるほど、夜では街を楽しめないと思っていたが、夜景があったじゃないか、光に彩られた夜の街を上から眺めるのも、中々に良さそうだ、


「ありがとうございます、そこに行ってみることにします、」


カザミは衛兵に礼をすると、開かれていた城門へ入っていった、


「おお、あれが旧星詠之ホシヨミノ塔か、」


カザミが城門を越えてすぐに視界に入ったのは、巨大なとても高い塔だった、三角形を連ねたような幾何学的な見た目をしたそれは何処か現代アートを思わせる、だがその中に見える面々の星の様な細かな輝きの装飾が幻想的で綺麗だ、


「取り敢えず、先ずはあれを目指せばいいんだな、だけど、ここからでもあの大きさって、間近で見たらどれだけデカいんだよ、、」


そんな事を思いながらカザミは城門の目の前に広がる長い大通りを歩く、実際の所、予想よりも遥かに街並みは明るく、上から見たらどうなるかとても楽しみだ、これも魔法なのだろうか、そう言えば確かに俺も光球を生み出したり出来たし、そんな感じの奴か、


「あれ、そう言えばモチどこ行った!?」


言ってみれば、城門入った辺りから見てない、何処だ・・・・待てよ、まさか、収納魔法でバイクごとモチも仕舞っちゃった?、いやいやいや・・・うーん、取り敢えずやってみるか、


「収納魔法・・・」


カザミが唱えると、小型ブラックホールの様な空間の穴から、モチがぽとりと落ちてきた、


「あぁ、やっぱりー、入ってたのね、」

「キュゥぅ、、、、キュゥィぃ」


何やら酷く怯えている、収納魔法の中ってそんなに怖いのか?、確かに真っ黒のブラックホールみたいになってるし、俺も中身がどうなっているかなんてわかんないんだけどさ、


「えっと、ごめんね、」

「キュゥ・・・・」


とにかく、非があるのは俺だ、ここは誠意謝罪をすべきだろう、例え動物でも今は立派な仲間なのだからね、


「いや、マジで本ッ当にすみませんでした、」


そうしてカザミは大通りのど真ん中で、正面の怯える小動物に本気の謝罪を決める、モチはゆっくり歩いてくるとぴょんと腕の中に飛び込んできた、


「キュイ」


腕の中にいるモチは額の角を胸につんつんと押し当てる、別に痛くはない、寧ろほのかに心地いいくすぐったさがある、


「えっと、許してくれるって事でいいですか?」

「キュ、」


許してくれたって事でいいらしい、ツンツンと突いていたのを止めると腕の中で丸くなり眠ってしまった、


「あーまあいっか、俺の腕の中で寝てくれた感じからして許してくれたんだと思うし、取り敢えず行こっと、」


眠った可愛い小動物を胸に旧星詠之ホシヨミノ塔へ急いだ、空もだいぶ夕暮れ色から、夜空に近い暗い紫色に変わり始めている、


「ここが、旧星詠之ホシヨミノ塔・・・」


俺は今、旧星詠之ホシヨミノ塔の真下付近にいる、まさに上を見上げている真っ最中だが、デカすぎんか、これ、東京スカイツリーとかと同じ大きい気がする、すぐ下からだと天辺が見えないから本当に摩天楼のようだ、


「ここを登れば絶景が拝めるって訳か、いっちょ上ってやろうじゃないの!階段だろうが何だろうがドンと来いだ!」


入口だと思われる紫紺のクリスタルで出来た扉を開ける、扉の先に見えたのは以外な光景だった、


「・・・え?」


塔内は綺麗に並んだ大理石のタイルで出来た床に砂岩で出来た受付窓口の様な物が視界の端に見える、だが一番驚いたのは正面に見える三列のエレベーターホールだ、


「お客様、塔の上階への入場をご所望ですか?」


意外過ぎる近代設備に固まっていると、受付窓口に立っていた西洋風の制服を着た受付嬢が話しかけてきた、


「え?、あはい」

「では入場の際、武具等の所持は認められませんので、一時的にこちら側で預かることになります、」


なるほど、確かに上階で武器を持った人間が暴れたりしたら地上からは何も出来ないしな、


「分かりました、ではお願いします、」


カザミは背中に背負っていた片刃刀を鞘ごと預ける、受付嬢は丁寧に受け取ると背後に置かれていた武具保管用の棚に立て掛けた、


「確かにお預かりいたしました、それでは最後に現在の入場者人数把握の為のサインをお願いいたします、」


受付嬢はそう言って、入場者把握専用と書かれた書類を差し出してきた、複数の枠の中には既に何人かの名前が書き込まれており、きっともう退場したのだろう人の名前には斜線が引かれている、今のところ斜線が引かれていない名前は三つだ、つまり三人まだ上にいるのだろう、


「はい・・・あ、羽ペン!」


サインを書こうとして気付いた、羽ペンだ、そりゃそうか、この世界にボールペンがある訳ないし、一般的に記入用のペンは羽ペンが主流なのだろう、


「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ、」


カザミは急いでサインをするがそこであることに気付いた。


は?、おい待て、書いた文字は日本語ままじゃねぇか!異世界あるあるだったらこういう時だって流れで勝手に異世界語書ける様になるんじゃないの!?


カザミは予想外の事態にフリーズした、どうする、このまま提出したところで絶対理解されないだろうしなぁ、一度書き直すか?、否、書き直したところで俺が文字は日本語だけだし、


「どうしよう・・」

「お客様、何かございましたか?」


やばい、受付嬢の方めっちゃ心配してるよ、何か方法は・・・・そうだ!!!


「あのぉ、すみません、代筆していただくことって出来ます?」

「⁇、えぇ、一応可能ではありますが、」

「すみません、お願いしてもいいですか、」


受付嬢は不思議そうな顔を浮かべてはいるが、カザミから羽ペンを執るとカザミに問う、


「かしこまりました、ではお客様の名前を教えてください、」

風見カザミ 蓬莱ホウライです、」

「ホウライ様ですね、記入終了致しましたのであちらの魔導昇降機マナキャリアを利用して御入場ください、退場される場合は再度こちらに伺うようお願い致します、」


カザミは了承し、魔導昇降機マナキャリアに近づく、すると、地上で待機していた真ん中の魔導昇降機マナキャリアの扉が自動で開きカザミはその中へ入った、


「何か元の世界にいるみたいだ、」


そんな事を思っていると自動扉が閉じ上昇が始まる、


「おお、本当にエレベーターそのものだな、」


異世界版エレベーターこと魔導昇降機マナキャリアの中を見回していると後ろの壁に塔の歴史解説が書かれていた、


「なるほど、この国が出来るより前はこの塔は儀式の為の聖域だったのか、」


書かれていた内容はこうだ、


国家設立前、先住民族が未だ住んでいた時代にこの塔は星詠ホシヨミと言われる、その年に星に最も愛された者が元旦に天に最も近いこの塔に上り、天に広がる星々に御告げを賜るという、星詠の儀と呼ばれる儀式を行う為の儀式場だったらしい、国家が出来てからは先住民も星聖国の豊かな生活に慣れ、儀式をする必要性が消えた為、観光用の塔に改修工事が行われたようだ、


「でもまあ、伝統が途切れるってのは、何か悲しいなぁ、」


そんなこんなで歴史解説を読んでいる内に上階に到着した魔導昇降機マナキャリアはゆっくりと停止し自動扉を開いた、


「お!、着いた、モチ起きろぉ夜景が見れるぞ」


腕の中で眠るモチにそう声を掛けると眠そうな声を上げて起き上がる、自動扉の先は地上よりは若干狭いエレベーターホールになっておりホールの出口からは数人の人と今や完全に夜となった空が見える、


「キュあ?」

「外で綺麗な景色見えるぞ、」


寝ぼけてぽわーんとしているモチにそう言ってホールの出口から外に出た。


夜の景色は、まだ夜空しか見えない、だがそれだけでも素晴らしい、

地上からは明るさの関係で全く見えなかった星々が、天を多い尽くすかの勢いで広がり、そんな星々の真ん中を天の川が流れる、その天の川に揺れるかのように満月が漂っている、幻想的だ、日本にいる頃は見ることの無かった満点の星空、例え世界はちがえてもやはり天を覆いつくす満点の星々は美しい、


「地上の方はどう見えてるんだろう!」


圧巻の星空につい見惚れていたけれど、これはまだだけだ、この国の街までは見てない、フェンス近くまで言って夜景も楽しもうじゃないか。


カザミは落下防止のフェンスまで歩くとそこから見える、景色に言葉を失った。


街の明かりは地上であるはずなのに星の様に輝き、広大な領土全体を星空の様に彩る、地平線を見れば天だけでなく地にも映る星空、まさに地上は星空を写した鏡のようだ、空と地上、その双方が美しい自然と魔法の光を灯す、なんて美しく儚げで、綺麗なんだ。


絶景、桃源郷、極楽浄土、天国、きっとこの景色を表そうとすれば他にも数多に表す言葉は在るだろう、だが表すだけで、この光景を説明するにはどれも足りない言葉だ、それ程に美しい、


「これは、確かに来て良かったな、」

「キュゥ・・・」


モチもカザミの声掛けに応じて感嘆の声音で鳴く、瞳にこの夜景をしたままのカザミは思う、


「写真・・・」


この世界に機械なんて物は未だ存在を確認出来ていない、どうするか、何かこの光景を残す事が出来るものを、


「あ、そうだ!、あの魔法はどうだ、」


空間写画フォトルフォトン、視界の光景を自分が写したいものに念写し、完全に写し取る魔法、実際、何の役に立つかは今となっては分からない昔の魔法らしい、


「これなら、、でもそうだな、写すのは何にするか、」


魔法はあっても、それで念写する為の媒体が無い、うーん、万物召喚オールシャフトで何か作るか、


「洒落た物、洒落た物・・・そうだ、水晶とかにするか、この光景が写し込まれた姿、如何にも美しそうだ、」


カザミは水晶玉クリスタルボールを生み出し、それを掴むとフェンスの上に突き出す、


空間写画フォトルフォトン、念写対象:水晶玉クリスタルボール、」


水晶玉クリスタルボールを突き出したまま魔法を言い放つと、それは形状を変え、その光景に咲き誇る様に蠢くと、景色の中に混じる光素が花の様になった水晶玉クリスタルボールに収束していく、花の中心に光球として収束しきった光を感知したのか、花となった水晶玉クリスタルボールは食虫植物の様に光球を呑み込み元の球体へ形を戻した、


「すげぇな、これが、空間写画フォトルフォトン・・・何か綺麗な魔法だったな、」


蕾が芽吹き花となり、それが光を喰らい、蕾へと巻き戻る、言葉に表すと何と詩的だろうか、水晶玉クリスタルボールが巻き戻った中には、今目の前に広がっている夜景が入っていた、


「本当に夜景が中に、入ってる、こんなことが、」


にわかには信じ難く、元の世界を知る自分には特にそう思う、そんな非現実的な、景色を宿した水晶玉クリスタルボールが、手の内にある


「これがあれば、何時でもこの景色が見られる訳だな、幻想的な水晶玉・・・幻想水晶ファンタジクリスタルとでも名付けるか、」


そんな景色を宿した水晶玉クリスタルボールを収納魔法へ仕舞い、カザミは魔導昇降機マナキャリアへ乗り込み地上へと降りて行った。

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