一章:星の国「ルラスタラ星聖国」

第7話「いざ!、ルナスタラ星聖国へ」

魔装列車マナフィリアトレインは今、上空三万千フィート・・メートル換算で約一万メートル上空を走っている、分かりやすく言えば飛行機が飛ぶ高さを走っている訳だ、今日は快晴だからか、雲一つなく、車窓から下を見下ろせば広大なエンデリア幻草原が見える、とても広く雄大で見ているだけでも心が穏やかになる気がする。


「ホント、自動操縦入れて正解だったわぁ~、」


この列車には自動操縦モードを搭載している、と言っても目的地設定も何もしなければブレーキ&一定速度での走行しかできないけど、二号車に設けた目的地設定をする為の大陸把握専用車両で目的地までのルートを設定すればその道順に線路を投影しながら走ってくれるから、便利だよなぁ、


「こうしてのんびりと椅子に座りながら、景色を見るというのも、とても粋なものだねぇ、」


カザミはそんなことを考えながら景色を吞気に眺めている、日の光は真上から若干日没に近づいているのか、西側からよく当たっている、こう言う時が一番、人が人らしく優雅な時間を過ごせるのだと思う、


「魔王がいなかったのは残念だったけど、こうやって平和でのんびりとした列車旅行の機会ができたと考えれば悪くは無いかもねぇ、」


この列車のリビング仕様の車両の中にある椅子は木で作ったモダンでありながら木の温かみがあるロッキングチェアの様な椅子が二つと、L字型ソファーが一つあり、そしてそのソファーの前にモダンなローテーブルが一つある、後は大人買いをした本をしまう為の三台の大本棚、まあ列車が大きくなったがこれだけ沢山の家具で立派なリビングにする事が出来たんだから悪くは無いな。


だが、この列車の大きさは本当に凄い、、確か元の世界の横幅が大きい列車でル・シャトルというのがあったが、それでも横幅は三メートル前後だったはずだ、だがこの列車はどうだろう五メートル程の幅がある、縦は二十メートルと普通の列車と変わらない、だが横幅の分高さが高くなってしまった事で、普通の列車は全高四メートル程だが、この列車は六メートルほどあることになってしまった、もしあと一メートルでも高さがあった場合、ビルの二階分の高さである。


「ま、その大きさのお陰でここまでゆったりとした空間になったんだから別に気にしなくていいか、」


そう言いながら、カザミはロッキングチェアを立ち上がると、本棚の前に立ち一冊の本を取り、ロッキングチェアに戻った、カザミが取っていたのは、元の世界で言う聖書や神話について書かれた書物に近いものだ、


「既に五、六回程読んでいるけれど中々興味深いんだよなぁ、」


この世界の誕生から、生命や人系種族の生まれた理由、神々の名前や、神々の時代の話。


色々なこの世界の古き知識や歴史が詰められてる、言わば世界の誕生してから人の時代までの、今や忘れ去られた真実の秘話が記されているといって良い、


「世界の神話、いにしえの真実の物語・・この剣と魔法の世界だったらそんな神話だって本当にあったものかもしれないんだ」


だからこそ、この真実かもしれない物語を頭の中で思い浮かべるだけでも、とても楽しい、小説を読んでいる気分になれる。


「さて、森では何処まで読んだっけか、確か・・・神々の時代より早数世紀、神々が人系種族を創り出す所までだっけか、」


かつて神々が何も無き虚無の空間に大地を築き、海を放ち、原始生命や自然が生まれ、世界が形を持ってから数世紀が経った頃、神々は自分達の跋扈するその世界で、己らをかたどる生き物を創る事を思い付いた、そこで神々が創り出したるは、器無き未だ無垢なる意思あり魂、神々はその形ある器を持たぬ空気の如き霊魂に、「我が元に来い」と言った、霊魂は皆一様に己が決めた神の元へ向かい、霊魂が縋った神々は形ある器を霊魂に授けた。


《生命と動物を司る獣神:アダラトウルス》に縋った霊魂は、獣の特徴を引き継いだ人形ヒトガタを、そして魔力を扱う事は出来ないが、獣神の如き人智を超えた身体を持つ獣人となった。


《知恵と心理を司る叡智神:ニカイリアト》に縋った霊魂は、感情豊かで知識欲旺盛な人形ヒトガタを、そして感情豊かで、他の種よりも秀でた知恵を持つ人間となった。


《鍛錬と技巧を司る機技神:ラトウラグル》に縋った霊魂は、加工や鍛造に秀でた人形ヒトガタを、そして金属加工や武具の錬造、そしてどの種よりも進んだ技術を持つ小錬人ドワーフとなった。


《精霊と魔力を司る精霊神:フェルカト》に縋った霊魂は、精霊と共生し魔法に適した人形ヒトガタを、そして精霊多き深森ディープフォレストに住む多彩な魔法を使う森精人エルフになった。


「今日はここまで、いやー、やっぱ面白いわ!!神の名前とかカッコイイし何度見ても飽きないね!、さて、何処まで列車が進んでるか、見て来ますかねと、」


再び立ち上がったカザミは、本を片手に車両移動用の引き戸を開ける、車窓も無く暗い三号車を通過し、二号車の大陸把握専用車両に辿り着いた、そして車両中央のテーブルに貼り付けられた西大陸地形書ウェストマップリストに手をかざした、すると、地図の上に薄い魔力の膜の様な青白く光るものが現れた、それは地図全体へ広がると、山や平原、国の城壁と言った様々な大陸の情報が立体ホログラムの様に形作っていった、


「このシステム、相変わらずどうやって地形読み取ってるんだろ?・・・まあご都合主義ってことで気にしないで置くか、」


カザミはそう決めて、立体形状になった地図を確認する、その地図の上では小さい列車の形をした模型の様なものが空中を走っている、そう、これはリアルタイムで現在の世界の地形が反映されている地図なのだ、と言ってもどうやって世界を視ているのかは自分にも分からない、地図に魔力を流した時に偶然発見したものだからだ。


カザミはその小さい列車、つまり今自分が乗っているこの魔装列車マナフィリアトレインがどこまで走っているかを見て落胆した、


「まだ、エンデリア幻草原の折り返し地点・・・だと・・!!、」


噓だ、車窓を眺めたり本を読んだりして一時間ぐらいは経過した気がするのに、まだ半分、もう半分を渡りきるとなると推定で二時間はかかりそうだ、


「二時間って、もう夕暮れもいいとこだぞ、、」


リビングにかけられた時計は確か、ここに来る直前に午後三時半を指していた、つまりそれから更に二時間となるとルナスタラ星聖国に着くころには五時半、完全に夕方である、え?時計をどう作ったかだって?簡単だ、森にいる時に理科でよくやる日時計を利用して、現在時刻を図った時があった、その時にその現在時刻をイメージしながら作っていたアナログ時計をそのまま持ってきたのだ、


「でも、マジかぁ、あと二時間何しようかなぁ、」


本も読んだ、車窓から景色を眺めることだってやった、こういう時テレビでもあれば暇をつぶせるのだが、生憎ここは異世界、元の世界と違ってそんな画期的な映像技術どころか、そもそも機械の文明すら進歩していない剣と魔法の世界だ、先程の聖書も何度も読んでいるから面白いけれど先の展開も分かる、だからこそ、毎日ちょびちょびと読むのが楽しいのだ、


「イラストでも描くか?いや、でもなぁ何か今描く気が起きないんだよなぁ、」


そう、最近何故か絵を描く事に意欲があまり湧かないのだ、今万物召喚オールシャフトでイラストを描く為の道具を出せば別に出来ない訳では無いが、

こう、何を描くとも決まっていない状態で描いたイラストは、余り好きじゃない。


動物を描きたいだったり、人のキャラを描きたいだったり。


そういう描きたいものを決めて作ったイラストと違って、行き当たりばったりなイラストは、何か迷っているように見えて自分は嫌いだ、


「燃え尽き症候群ってやつかなぁ」


確かに自分はこの巨大な天翔ける列車をデザインし、それを造り上げ、今まさに乗っている、だが、それほどの大作を描けたせいなのだろうか、今はそこまでイラストを描く事に意欲が向かない。


でも、それならどうしようか、このまま何もしないでいるのも暇だ、何か別の暇潰しを探すしか・・・


────


「よーし、後少し・・・後少し・・・落ち着け、手を震わせるな、ここで失敗したら全部水の泡だぞ・・・・・・・あ、」


呆然とするカザミの前で音を立てて崩れる本の壁、そうカザミが暇潰しに何をしたのか、答えは簡単、買いまくった本を使って積み木のように積み本にして遊んでいたのだ、そして今、目の前で完成目前だった本で出来た壁が崩れていっている、


「そんな、折角後少しで、進撃〇巨人のウォール〇リアが出来たのに・・・・くそぅ、」


本気で膝を突いて悔しがるカザミの姿は、こんなしょうもない事でも本気で挑んでいた証拠だった、


「うぅ、後少しだったのに、後少しだったのに、」


そんな後悔と悔しさに飲まれながら本を片付けていると、「キュウ?」と心配したようにモチがやってきた、さっきまでソファーの上でゆっくり寝ていた筈だが、本の崩れる音で起きたのだろうか、


「なんだぁ、モチ?慰めてくれるのか?」


力の抜けた声で半分苦笑と冗談交じりにモチに問うが、モチはそうだと答える様に本を片付ける為屈んでいたカザミの頭に乗って、すりすりと頭を擦りつけている、


「キュイキュイ、」

「ありがとなぁ、モチぃ、」


こんなしょうもないことで落胆している自分にもこうして優しくしてくれる、この可愛いもふもふの愛くるしい獣に、カザミはお礼を言う、モチはそれを聞いて落ち着いたのか頭から降り再びソファに座ると「くーくー」と寝息を立てて眠りについてしまった、


「まあ、モチは慰めてくれるし、こうして積み本してたお陰で一時間ぐらいは暇をつぶせたし、まあいっか、」


カザミが時計を眺めると四時半を指している、車窓へ顔を向ければ積み本をする前より更に地平線へ近づいた太陽と炎の様な色をした空が見える、これはもしかしたら着くのは夕方ですらないかもしれない、


「夜に到着かぁ、」


まあ、仕方ない、到着初日の観光は諦めよう、夜だと町の姿も色鮮やかに見えないしな、朧気に見るぐらいなら、明日からでいいか、


「はぁーあ、折角、羽目外そうと思ってたのになぁ、」


カザミはガックリとしながらロッキングチェアに座り込んでゆっくりと眠りに着いた、


────


カザミが眠りについてから、一時間が経った、列車は設定地点に到着し、魔力の煙を吹かし停車した。


ぐらりと列車全体が揺れ、モチがソファから落ちる、カザミのロッキングチェアはゆっくりと揺れた為、停車に気付かず眠っていたが、モチの転げ落ちた時の「キュイ!」と言う声を聞いてやっと起きた、


「あぅれ?モチ…大丈夫かぁ?_」


寝起きで呂律が回らぬ声で、モチに心配する声を掛ける、モチは「キュイィィ…」と、そんな拍子抜けした声で心配するカザミに呆れた様に鳴く、


「ん?、ああ、止まったのか、おいしょっと、それじゃあ降りるとするか、」

「キュッ!」


カザミはモチを抱えると自身の腰に命綱の様なベルトを巻く、巻き終わるとモチを左腕でより強く抱いた、そのまま出入口の障壁扉の前まで歩き、流れる様に扉を開けた、夕陽の日差しが目に入る、とてもいい景色が眺められる絶好の場所だ、だが、


「流石上空一万メートル、突風まみれだ、」


扉の仕掛けに使った防風用の魔力膜のお陰で、室内に風は入ってこないが目の前で暴れる、降下用の垂直ジップラインの揺れで荒れた風がある事はすぐにわかる、


「まあでも、ここ降りるしかないわけだし、行きますか、」


命綱の先に付いた錬魔星鉄鋼ネビュラルド製のカラビナフックをワイヤーロープに引っ掛ける、併せて出した垂直ジップライン用の滑車具を取り付けると、列車から飛び降りた。


ジィィィイ!!と小型車輪とワイヤーロープの擦れる音が聞こえる、ワイヤーに沿って降りていると言っても殆どは自由落下、スカイダイビングと同じだ、身体全体を突風が下から上へ駆け抜ける、だがそんな中、カザミは笑っていた、


「ひゃっほーーーい!!、落ちんの楽しぃ!!!、」


アニメか何かで見た垂直ジップラインで飛び降りるシーン、最高にかっこよかったのを覚えてる、そして今は、それを自分が経験している、最高の気分だ、


「キュゥゥーーー!!」


だがそんなカザミに抱かれているモチは悲鳴を上げて怯えている、勿論、しっかりと抱きかかえられて落ちる事はないだろうが、


「どうしたモチ?最ッ高の気分だろ?」


興奮気味にそう言うカザミの方へ、正気か此奴はと言う顔をしながらモチは鳴く、そんなこんなで話している間に、降下時間は終わりを迎える、


「ワイヤーの配色が黄色に変わった、そろそろ地面だな、」


ワイヤーに付けていた落下危険度を示す配色が黄色に変わる、ブレーキを起動する合図だ、


「あらよっと、」


滑車具のブレーキトリガーを押し、滑車のストッパーが起動する、金属の擦れる甲高い音と火花が散りブレーキが始まる、段々と下から来る風が弱まっていく、地面擦れ擦れまで降りた所で完全に停止した、


「ふぅ、これで地上へ到着っと、」


ガタガタと震えるモチを抱きかかえながら満足した顔でワイヤーロープから降りる、


「取り敢えず迷彩隠蔽カモフラージュは掛けとかないとな、」


降りたワイヤーロープを握り、魔力を流す、ワイヤーが不可視の姿へ変わり、上空を見上げると、流された魔力で不可視へ変わっていく、列車が微かに見えた、


「これにてルナスタラへ向かう最終準備完了!それじゃあ、ここからはあれで行きますか!」


カザミが地面に手をかざすと新たに地面に刻まれた魔法陣からこの世界には随分と似合わないフォルムをした近未来的な大型バイクが顕現した、


「流石にあんなぱっと見兵器な列車で目の前に行ったら、どんな国でも警戒するだろうからな、後少しの道のりはこのバイクで行きましょう!」


列車を造る途中で興味本位で造った大型バイク、動く保証は、ハッキリ言って無い、適当にノリで造ったし、パーツは理解してたから列車に比べたら単純に造れたが、試運転もしてない、今から動かすのは初めての運転だ。


カザミは跨りモチを真ん中に乗せると、エンジンの掛け方を探した、


「えっと確か作ったときに考えてたのは、ここに魔力を流して、そこから目の前の魔石が赤色せきしょくに変化しきるまで待って、そこからここの小型レバーを前進アクセルに変えてと、」


そう言って自分が思い付きで造った起動手順を淡々とこなし、レバーを倒すとエンジンが起動したのか、若干の振動が感じ取れた、


「成功した、つまりは動くってことだな!、造った意味無駄にならなくてよかったぁ!」


カザミはエンジンの起動に安堵すると、アクセルを踏み込む、


「そんじゃ、行くと向かうとしよう、いざルナスタラへ!、」


そう言えば、このバイクに名前つけてなかったな、そうだな、魔導機構弐駆マーヴァモータル、こんなところかな


魔導機構弐駆マーヴァモータルは魔煙を吹かし、ルナスタラへと走り出した。

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