メンヘラに因縁がある人


「お疲れみんな。ほら、これ差し入れ」


 次のステージに向けて猛練習を積み重ねているみんなの様子を見に、差し入れを持って練習場までやってきた。おお、練習にも熱が入ってる。この真剣さがいつまでも続いてくれればこちらとしてもいいんだけどなぁ。


「あーマネージャー! 差し入れ持ってきてくれたんだ……うわー! これ、あたしの好きなお菓子じゃん! もう、マネージャーってあたしのこと理解しすぎでしょ!」


「あ、こ、これ……私が好きなおつまみ。う、うへへ……もう、みんな見てるんですから……見せつけるのはやめましょうよ」


「さすがマネージャー、私の好みのチョイスをしてくれたね。あとは私だけにこっそり差し入れくれたら満点だったかな」


 なんか過剰に喜ばれている気もするし、紫音と千秋の発言の意味は全くわからないが無視しよう。とにかく喜んでもらえたのはこちらとしても嬉しい。


「それじゃあマネージャー、近くの公園に行こっか! そこで二人きりで食べようよ!」


「……え? な、何を言っているんですか有明さん? マネージャーさんは私と二人きりで食べるんですよ? 意味わかんないこと言わないでください……酷いですよ……」


「こんな変なこと言ってる二人なんて置いて、私と行こっかマネージャー」


「は!? 千秋何抜け駆けしようとしてるのよ!」


「……ぶっころです。くたばってください」


 なんでか俺と食べるとかでまた一触即発な雰囲気が出てきた。俺、誰とも食べるつもりなんてなかったんだけど……。


「喧嘩するなお前ら! ならみんな一緒に食べような」


「……もう、照れ屋」

「……ぶー」

「……待たせるね」


 不満そうな表情はしていたものの、なんとか言うことを聞いてくれて俺たちは近くの公園のベンチで食べることにした。席でもめそうだったので俺はあえて3人から一個離れたベンチに座っておいた。


「えーマネージャー近くに来てよ〜」

「……わ、私のここ、空いてますよ……?」

「恥ずかしがらなくていいよ」


「いや、遠慮しとく。ところで練習は順調か?」


「うん! マネージャーにいいステージ見せてあげたいから頑張ってるよ!」

「え、ええ。頑張ってます。……成功させて、少しでもマネージャーさんを楽にしてあげたいので」

「次は絶対成功させるからさ」


 よかった、気合いは十分だし練習もしっかり取り組んでいるようだ。これなら前みたいな失敗はないと思……いたい。


「あれ、あんた彩未じゃん」


「……げ」


 ふと見慣れない人が彩未の前に来た。一般人とは思えない可愛らしいルックスで、彩未は彼女を見ると見るからに嫌そうな顔をしていた。


「誰?」


「……前のグループで一緒だった子」


「そうそう、思い出したくもないけどね。でもあんた、まだアイドル続けてたなんて……。今すぐやめたほうがいいでしょ。あんたみたいな可燃材、芸能界にいたら周りに大迷惑なの」


「……」


 彩未は言い返すことができず、黙り込んでしまう。きっと前のグループで散々辛い目にあってきて、それを思い出してしまい普段のように言い返せないんだろう。


「あんたこいつのマネージャーさん? こいつ、さっさとクビにしたほうがいいよ。この前もやらかしてたんでしょ? 彩未なんか雇っててもいいことないし」


「……そんなこと、ないですよ」


「え?」


 彩未の元同僚が言うことは、あながち間違ってはいないのかもしれない。彩未はトラブルメーカーだし、おそらくこれからも何かしら問題は起こすだろう。


 でも、どうせこのグループにろくな奴はいない。それに……俺は、アイドルとしても彩未が、本当にファンとして好きだから。


「俺は彩未のファンなので、こいつが元気に活動してくれたらそれで十分ですから」


「ま、マネージャー……」


「……趣味わる」


 そう言い捨てて、彩未の同僚は立ち去ってしまった。趣味わるいかぁ……いや、そんなことはない。こいつらのポテンシャルも、魅力も、絶対本物だと俺は信じてるから。


「マネージャー、ありがとう! あ、あたし……ぜ、絶対あいつのこと見返して、マネージャーの期待に応えるから!」


 彩未は満面の笑みで俺のことを抱きしめた。く、苦しい……気持ちは嬉しいけど早く離してほしい。とは言えず、しばらく俺はぎゅっとされ続けた。


「……有明さんだけずるい」

「……社交辞令でしょ?」


 横からすごいチクチクする視線を送られている気がするがこれは無視。したかったのだが……なぜか、紫音も千秋も俺に抱きついてきて。しばらく俺は、身動きが取れずにいた。


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