メンヘラは前座じゃ満足できない


「はい……はい! よ、よろしくお願いします!」


 ようやく苦労が実ったことに喜び、俺は電話を切ると同時にガッツポーズをする。なにせ、今回決まったことはあいつらが人気アイドルになるための、大きな一歩になると思うから。


 そんなわけで俺はすぐにあいつらを呼びだし、決まった話を伝えることにした。


「いきなりどうしたのマネージャー? あ、もしかしてやっと決心ついたの!? もーそれなら二人きりになれるところで話そうよー」

「ま、マネージャーさん……わ、私心の準備できてますよ」

「……早く言って。何を言いたいのか、わかってるよ」


 なんだか大きな勘違いをしているのか、3人はやけに近い距離で俺に迫り、ウズウズと何かを求めているかのような目線を送る。一体何と勘違いしているんだ……?


「何を考えているのか知らないが、今日話すのは次のステージについてだ」


「あ、お預けってことね。ウンウン、勇気がいることだもんね」

「い、いけずですマネージャーさん……」

「待つの嫌いなんだけど……まぁ、今回はいいよ」


「? と、とにかくだ。次のステージは前より規模が大きいぞ。人気アイドルが出演することもあって、お客さんもたくさん入ることが見込まれるからな」


 そう、今回決まったステージは人気アイドルが出演するイベント。俺たちは前座みたいな立ち位置ではあるものの、それでも出られるだけ大変ありがたい。今の俺たちはとにかくファンを増やさないといけないからな。


「それって人気アイドルの前座ってこと?」


「まぁそうではある。で——」


「だったら出る価値ないでしょ! あたしが一番目立たないと意味ないじゃん!」


 ……しまった。


「……ぜ、前座ってことはきっと誰も見向きもしないってことですよね……そうですよね、人気のないアイドルなんて、誰も興味を示さないのが当然ですし……ああ、私たちの時だけお客さん一人もいなくなるんだ……」


「……珍しく有明彩未に同意」


 こいつらは地球が自分を中心に回らなければ満足しない人間であることを失念していた。せっかくのチャンスなのだから、泥臭く取り組めばいいと俺は思ったんだけどな……ただ、もう仕事は決まったので何としても出てもらわないと俺が困る。


「確かに、みんなの言うことは当たっているかもしれない。でもな、これはチャンスでもあるんだよ。お前らが、人気アイドルを喰う瞬間かもしれないんだ」


「人気アイドルを喰う?」


「そうだ。お前らは前のステージではやらかしたけど、持ってるポテンシャルは人気アイドルに劣っていないと思う。いや、それ以上だと俺は思ってる」


「に、人気アイドル以上……?」


「ああ。お前らが力を合わせて最高のパフォーマンスを見せれば、ファンにならない人なんていない。お前たちの一番ファンである、俺が保証する」


「マネージャーの保証……」


「だからお願いだ。このイベントに出演して、俺に最高のお前らを見せてくれ!」


 俺の思いを伝えると、3人は納得してくれたのか不満げな表情は消えていた。よかったぁ……これでなんとかイベントには参加してくれそう。……やらかさないことも祈らないといけないけど。


「仕方ないなぁ……マネージャーがそこまで言うなら出てあげるよ。それに、一番のファンかぁ……」


「ふ、ふふっ……ほ、本当にマネージャーさんは罪な男です。い、一番のファン……ふ、ふへへ……」


「まぁ、一番のファンの思いに応えるのがアイドルだよね」


 あれ、なんか口元が溶けているかのように、全員ゆるゆるな笑みを浮かべているんだけど……そんなに嬉しかったのか?


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