アイドルたちの心境 牧之内千秋の場合


【名無しさん:20××/×月/×日/23:25:01 ID sekaiitikawaii3】

《有明彩未とかいうバカワキガくそ》

【名無しさん:20××/×月/×日/23:25:30 ID sekaiitikawaii3】

《千秋ちゃんが一番可愛かった!》

【名無しさん:20××/×月/×日/23:25:55 ID sekaiitikawaii3】

《千秋しか勝たん! 他の雑魚は大人しく千秋に席を譲れ》

【名無しさん:20××/×月/×日/23:26:10 ID sekaiitikawaii3】

《千秋が一番最強だろマジで。異論は認めない》


「……ふぅ」


 焼肉屋から帰宅してすぐ、私は今日も5chにある【アンジェ ノワール】のスレに書き込みをする。全部自作自演だけど、ネットの書き込みなんていくらでもやらせができるしバレないでしょ? これで私が一番だって他の人に認識させられるのなら、大した労力じゃないね。


「……でも、マネージャーをがっかりさせちゃったのは反省しないと」


 マネージャーが望んでいたのはステージの成功。それを私は有明彩未の邪魔こそあったとは言え、ぶち壊してしまう原因を作ってしまった。


 思えば、前のグループでも私の邪魔をしようとする奴らを排除しようと色々とした結果私は追放された。……覆面被らされてたから、私の身元はあまり明るみにはなっていないようだけど。


 ……でもさ。私が一番なんだし、それを認めない奴らを消すのは正当防衛じゃない? そうだよ、私が全て、私は何も悪くない。だから有明彩未、あいつは——


「マネージャー?」


 スレに有明彩未の悪口を書き込もうとしたその時、マネージャーから電話がかかってきた。


「もしもし」


「あ、千秋。ごめんな、夜遅くに。ちょっと話したいことがあるんだけどいいか?」


「……別にいいけど」


「ありがと。今日のことなんだけどさ、今日のパフォーマンス、途中まですごくいいと思ってた。さすが千秋だよ」


「……急に褒めてくれるね。どうしたの?」


「こういうのはちゃんと伝えた方がいいと思ってさ。それに……千秋は、わざわざ誰かと競わなくても、もう抜きん出たものがあるんだから。彩未とかと喧嘩しないで、仲良くしてほしい」


 そういうこと。結局、マネージャーはあいつらと仲良くしてほしいだけか。マネージャーの立場的に、喧嘩されるのも困るだろうからね。


「……嫌だと言ったら?」


 でも、それは受け入れられない。あいつらが私を崇めてくれるならまだしも、有明彩未はそんなこと絶対しないだろう。あと、弓田紫音も案外生意気だから従うことはなさそうだし。だから、仲良くするなんてぜーったいいや。


「……俺が残念がる」


「なんで?」


「……あいつらと協力すれば、いつか絶対、千秋が最高に輝く瞬間を観れると思ってるんだよ。俺は千秋のファンだから、いつかみんなが千秋の魅力に気づくくらい、輝いてほしいんだ」


「……」


「このまま千秋が埋もれるなんて嫌なんだよ! 千秋、俺はお前が常に一番であってほしいんだ!」


 その言葉に、ちょっとドキッときた。今までのマネージャーは、お前なんかクソとか絶対売れないとか言ってくる奴らばっかりだった。けど、今のマネージャーは……私のことを一番だと信じてくれている。


「……マネージャー、私が一番?」


「もちろんだ。お前(含め)、一番だよ」


「……そ。なら、多少協力してあげてもいいよ」


「……ふぅ、なんとかなった」


「ん?」


「な、なんでもない。それじゃ、おやすみ! いい夢みろよ!」


 もっと私とお話してくれるかと思ってたけど、マネージャーは案外あっさりと電話を切ってしまった。


 ……熱い電話だったな。ここまで親身になってくれる人、初めてかも。


 ……あ、そういうことか。マネージャーがここまでしてくれるのは、私のことが好きだからか。まぁ、私とずっと一緒にいて惚れないわけがないからね。だから電話も照れて早めに切っちゃったのか。


 仕方がないな……もし、マネージャーが告白してくれたら受けよう。私も、悪くないなって思ってるし。


 さて、マネージャーの気持ちも知ることができたし、これからのことも考えないとね。結婚式、マネージャーはどんなのが好みなんだろう? ラインで聞いてみよ、マネージャー、私のこと好きだからすぐに返信してくれるよね。


――――――――――

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