アイドルたちの心境 弓田紫音の場合


「う、ううううううう……どうして私はこんなに情けなくて何もできなくて如何しようも無いゴミクズなんでしょう……」


 マネージャーさんに焼肉をご馳走になって、家に帰ると私はステージでの失態を振り返ってまたネガティヴモードに入ってしまいました。有明さんと牧之内さんが衝突しそうな雰囲気はあったのに、最年長である私は何もできずに……ううう。


 振り返ってみれば前のグループでもそうでした。自分から何もできず、人気を上げることが全然できなくて挙句お酒で失敗してクビに。私は結局、アイドルとして何者にもなれない敗北者なんです。


 ああ、そう考えたらもうこの先お先真っ暗な気がしてきました……やっぱり、ストゼロを飲まないとやってられません! 焼肉屋ではマネージャーさんに止められてしまいましたが、いない今なら飲んだって問題ないはず。よし、飲んじゃおっ——


「あ、あれ? マネージャーさんから電話?」


 ストロングゼロを飲もうと冷蔵庫を開けようとしたその時、マネージャーさんから電話がかかってきました。どうしたんでしょう? ま、まさか……わ、私が使えなさすぎて解雇宣告をするために……は、はわわわ!


「ご、ごめんなさいマネージャーさん、役立たずのクズでごめんなさい! わ、私これからも一生懸命頑張りますからクビにしないでくださいお願いします!」


「い、いきなり何を言っているんだ紫音。別にクビの連絡じゃないよ」


「ふぇ? そ、そうなんですか?」


「そうだよ。……紫音、今日のことで落ち込んでないかなぁって心配で電話かけたんだ」


 ま、マネージャーさんが心配して電話を? い、今までのマネージャーさんは私のことすごくめんどくさそうに対応して、疎ましいってはっきり言われたことさえあるのに……。


「ほら、紫音最年長だからあの時まとめられなかったことが気になってるんじゃないかと思ってさ」


 し、しかも私が反省してることも当ててる。


「は、はいそうです! ど、どうしてわかったんですか……?」


「しばらく紫音たちと一緒にいたから、なんとなくわかったんだよ。それに、俺は紫音のファンでありマネージャーだから」


 その言葉を聞いた時、胸がドキッとしました。マネージャーさんが私のことを思ってくれている、それがわかったからでしょうか? それとも……違う理由?


「今日のことは気にしなくていい。俺がしっかり二人のことなだめればああはならなかったから。それに、紫音の歌、とても良かったよ」


「ほ、本当ですか……?」


「ああ。きっと、紫音の歌の良さにみんなが気づく日も、そう遠くはないはずだ。だから、これからも頑張ろうな。あと、ストゼロは飲むなよ」


「う……わ、わかりました。ま、マネージャーさんに褒めてもらえて気分がいいので、今日は飲みません」


「ふう……こっちもギリギリセーフか」


「?」


「な、なんでもない。それじゃ、また明日から頑張ろうな。おやすみ」


 そういって、マネージャーさんは電話を切ってしまいました。……もっと、お話したかった気持ちもありますが、マネージャーさんも色々と忙しいでしょうから、わがままは言えません。


 それにしても、まさかマネージャーさんから電話がかかってくるなんて……え、えへへ……も、もしかしてマネージャーさん、私のこと好きなのかも。


 きっとそうに違いありません。こんな、根暗でめんどくさくて暴れる女のことをわざわざ心配するってことは、そういうことですよね。


 ふ、ふふふ……マネージャーさんもいけない人ですね。担当しているアイドルに好意を寄せちゃうなんて……わ、私は、ま、まんざらでもないですけど。


 きっとそのうちマネージャーさんから告白されるんでしょう。その時まで、私も頑張らないといけません。よし、マネージャーさんにいっぱいメッセージ送ろうっと。私のこと好きでしょうから、きっと返信も早いはずですよね。


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