初ステージ!


「ついにこの日が来てしまったか……」


 ステージ裏にて、俺はガクガク震えながら呟く。そう、今日は「アンジェノワール」の初ステージ。小さいステージでお客さんも正直……全然いないけど、それでもやはり緊張する。俺が舞台に出るわけでもないってのに、我ながら情けない奴だ。


「うん、来たねマネージャー。あたしの伝説の幕開けが!」

「わ、私がついに日の目を見る時が……き、来たらいいなぁ」

「……序章に過ぎないね」


 本人たちは俺ほど緊張しておらず、普段からネガティブの紫音ですら少し落ち着いているように見える。そうか、こいつらはアイドル経験があるから多少慣れているのか。初めてこいつらが頼りに見える。


「……で、彩未。脇は大丈夫なの? わ……ププ……ワキガなんでしょ?」


「ちょ、余計なことを言うな千秋!」


 心配してる風を装って、千秋は彩未を煽る。結局その真相のほどは聞けずにいたが、衣装は間に合わなかったので今日は脇が出ている。本人に確認したところ、問題はないらしいが……。


「へーそうやってあたしの動揺誘う気? 言っとくけど、今日は大丈夫だから。ほら、嗅いでみなさいよ、ほらほら」


 今日は? その言葉が引っかかるものの、彩未は調子よく脇をあげて千秋に嗅がせようとする。うわ、なんてアイドルらしからぬ光景だ……。


「いや。しっしっ」


「煽っといてその態度は何!? 喧嘩したいの? ねぇ、したいんでしょ!」


「おいおいやめとけ! これから本番なんだから、グループとしてまとまってくれ……」


 危うく喧嘩しそうになったところをなんとか止めたけど……やはり、こいつらの仲が良くないことが本当に不安だ。ダンスも歌も、練習通りのものが見せられたらきっと人気になれるに違いないんだけどなぁ。


「みなさーん、準備の方よろしくお願いします」


 スタッフの方に呼ばれて、三人はステージの方に向かっていった。ここから先、俺にできることはあいつらを見守ることだけ。……きっと、うまくいくはずだ。


 それからあいつらの番になると、それぞれ挨拶をしてパフォーマンスを始めた。お客さんが数人ぐらいしかいないから、歓声も小さなものだけど、それでも楽しそうに見てくれるお客さんの存在は、俺にとっても嬉しい。


「あいつら練習通りやってるな……ふぅ、よかった。これなら……ん? んんん?」


 舞台袖からあいつらのことを見ていると、練習とは違う行動を取り出した。本来なら千秋が前に出るべきところを、彩未が奪うような形でポジションを取ったんだ。おい……まさかさっきの報復のつもりか?


 もちろん千秋も黙って譲るわけもなく。今度は千秋が彩未のポジションを奪って、もうダンスはめちゃくちゃなことになってしまった。二人に押されて紫音は後ろの方に隠れ始めたし……。


 お客さんが少ないのが不幸中の幸いといったところか。こんなめちゃくちゃな光景見てファンになる人なんてよほど物好きじゃない限りいないだろうし。


 「……やっと終わった」


 そんなわけで、初ステージは悲惨な結果になった。


「何あれ? 私の邪魔しないでくれる?」

「それはこっちの台詞なんだけど!」

「はわわ……もうおしまいです……解散です……」


 そして出番が終わった後も修羅場が待っていた。やはり千秋と彩未が喧嘩しはじめ、それを見て紫音が怯える始末。仲が良くないことが招いた事態といったところか。


「お前らやめろ!」


 喧嘩なんかしても何も生み出さないので、俺はそれを止める。


「お前ら、テッペン取りたかったんじゃないのかよ。こんなことで自爆してたら、いつまでたっても辿り着けないぞ」


「……」

「う……」

「そ、それは……」


「お前らの実力は本物なんだ。だから……お前たちのファンである、俺を幻滅させないでくれ。もっと、俺にお前たちの良い姿を見せてくれ」


「……ごめん」

「……そう、だよね」

「……も、申し訳ないのです」


 みんな俺の気持ちを理解してくれたのか、謝ってくれた。よかった、ここでバラバラにならずに済んで。


「よし。それじゃあ、反省会も兼ねてご飯食べに行こう。暗い雰囲気のままじゃ、アイドルやってられないからな」


「……ありがと、マネージャ」

「やった! やっぱりマネージャーはいいやつだね!」

「う、嬉しいです!」


 そんなわけで、帰りは焼肉食べ放題に寄って思いっきり楽しんだ。


 その数ヶ月後。こんな失敗、比にならないぐらいの盛大なやらかしが待っていることも知らずに。


――――――――――

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