ワキガ疑惑


 初ステージに向けてダンスとか歌とかの練習と並行して、彼女らの衣装がようやく完成した。アイドル名に合わせて、天使をモチーフとした白色のデザインで、可憐な装飾が施されたその衣装は美しさも感じさせる、とても素敵なものに仕上がっていた。


「これならあいつらも文句ないだろう。よし、明日見せよう」


 そして翌日。練習が始まる前に衣装をみんなに見せてあげた。


「いいじゃないこれ! あたしの可愛さがめちゃくちゃ際立つに違いないわ!」

「す、素晴らしいです……て、てっきり新人デザイナーの練習台に使われてクソみたいなデザインが来るんじゃないかって心配してたんですけど……これならよかったです」

「……完璧」


 衣装に関しては好評をもらうことができ、文句を言われずに済んだ。ふぅ、衣装でもめるかもしれないと思って上司にもう一つ用意しておいてくれと言っておいたが、これならその心配もなさそうだな。


「ねぇマネージャー、早速着てみてもいい?」


 彩未なんか目をキラキラ輝かせながら、子供のように衣装を着たくてうずうずしている。


「ああもちろん」


「やった! じゃあちょっと待ってて。あ、可愛すぎて倒れないよう気をつけてね!」


 そう言い残して彩未は更衣室に入った。他の二人にも着てみるかと聞いたが、まだいいそうなので衣装のお披露目は彩未が初めてになるな。さて、どんな感じなんだろう。ビジュアルなら間違いなく可愛いのは間違いない。もしかしたら、本当に彩未の言う通り、倒れてしまうかも。あれ、それにしても遅いな。


「おい彩未、まだか?」


 更衣室に入ってから一向に戻ってこないので、扉の前で様子を伺ってみる。自分の可愛さに見とれて出てこないとか、あいつなら大いにあり得るし。


「……ね、ねぇマネージャー……。……脇って、後から隠せる?」


「脇?」


 ああそうか、脇が出ているタイプの衣装だったな。どうかな……もしかしたら対応してくれるかもしれないが、それでも時間は間違いなくかかるだろう。


「初ステージには間に合わないと思う。それ以降だったらいけるかも」


「……そ、そう」


 扉越しなので、彩未がどんな表情をしているのかはわからないが、しょんぼりとした声でさっきまでの元気を失っていた。あんまり脇が出ている衣装が好きじゃないのか?


「あ、あれ……有明さん、脇出てるの嫌なんですか? ……もしかして、ワキガとか?」


「!!?」


「な、なに言ってんだ紫音!」


 ひょこっと現れた紫音が、さらっと失礼なことを彩未にいう。わ、ワキガって……ま、まぁ人それぞれ抱えているものはあるから、そうだったとしても俺は問題ないけどさ。でも、それなら脇出てたら困るってのは筋が通っているな。


「紫音……あとでゆーっくりお話しましょうね」


「ひえぇ!? そ、そんな……わ、ワキガでも私は気にしませんよ! しっかりケアしてくれれば問題ありませんから! だから私のこと責めないでください、いじめないでくださいぃぃぃ!」


「おい紫音もう黙れ!」


 紫音がひたすら墓穴を掘りまくるので、無理やり口を塞いでこれ以上喋れないようにする。はぁ……衣装はスムーズに決まると思ってたのに。また厄介ごとが起こりそうだ……。


「……へー、ワキガね」


 騒ぎを聞きつけたのか、千秋もここに来ては何やらニヤッと笑っていた。おいおい、なんだか何か企んでそうな表情をしているんだけど……。


「おい千秋、何か企んでないか?」


「……別に」


 そう言うと千秋はさっさと練習場に戻っていった。うーん、何もなければいいが……頼む、本当に何も起こるな。


「お待たせ〜紫音。それじゃ、ちょーっとこっち来てね」


 せっかく着た衣装を脱いだから、彩未は練習着のままだった。そして、俺に衣装を預けると紫音を連れてどこかに言ってしまった。


「頼むからほどほどにしてくれよ!」


「えー、清楚なあたしがそんな酷いことするわけないじゃーん。ねー紫音?」


「はわわわわわわわわ」


 ……まぁ、練習に支障をきたさない程度ならいっか。


――――――――――

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