初舞台が決まる


「はい……はい、あ、ありがとうございます! で、では当日は是非よろしくお願いいたします!」


 電話を切り終えふっと呼吸を整えたのち、俺は静かにガッツポーズをした。なぜなら奴らの初舞台がようやく決まったから。営業活動の成果が、ようやく出た形だ。


 小さな会場の小さな舞台ではあるが、やはりそうした舞台からコツコツと積み上げていくことこそ、今の俺たちには必要なことだろう。あいつらがトップステージに立つための第一歩を作れたことが、とても嬉しかった。


 早速俺はあいつらにそれが決まったことをラインで伝える。するとあいつらもやはりステージが決まったことは嬉しかったようで、次から次へとメッセージが飛んでくる。


「マネージャー、あたしのポジションはここがいいと思うんだよね。あと、この歌詞に合わせてここの振り付けはアレンジ加えたほうがいいと思うんだ。それとね、ここの歌詞もアレンジ加えたらどうかな? ああ、ここも——ってねぇマネージャー、なんで返信が遅いの? もしかしてあたしに期待してないから無視してもいいやって思ってるの? ねぇどうなのマネージャー? ねぇ、ねぇ、ねぇ——」


「ま、マネージャーさん……わ、私うまくできるでしょうか? ステージが決まったのはすごく嬉しいんですけど……も、もし失敗したら私はアイドルとしての烙印を押されて人気も常に最下位をキープし続けて、挙句クビになるんじゃないかってとても心配なんです。そ、それだけで済めばいい方かもしれません。このままその失敗が後を引いて借金を重ねる羽目になったら——」


「マネージャー、私に全て任せて。私が一番だから。他の子の意見なんて、無視するのが一番だよ。……もちろん、マネージャーは私のこと、信じてるよね?」


 各々それぞれの個性をふんだんに盛り込んだメッセージを送ってくれて、俺は非常に嬉しくもあり悲しくもある。なにせ、返信がめちゃくちゃめんどくさいから。こいつらはもう少し自我を抑えることはできないのだろうか……。


 結局、あいつらへ返信をするために時間を費やしてしまっため、俺はこの日一睡もすることができなかった。


 翌日。練習の前にみんなと話すことにした。


「昨日も伝えたけど、なんとか初ステージが決まった。それで、グループ名もこっちで決めたから、それをこの場で言うぞ」


「は!? な、なんでそれをこの場で言うのよ! 昨日言ってくれたらもっと色々考えられたじゃない!」


 みんな名前を考えたかったらしく、彩未だけでなく他の二人もふてくされた表情をする。確かに、彩未の言う通り昨日言えば色々考えられただろう。俺の睡眠時間を代償にな。


「事務所の意向だから勘弁してくれ。お前たちのグループ名は【アンジェ ノワール】、フランス語で黒い天使を意味する言葉だ」


 上司から決まらないならこの名前にしろと言われてつけた名前だけど、割とこいつらには合ってるんじゃないかと個人的には思う。


「えーなんか厨二くさいんだけど」

「わ、私が考えた方がいい気がします……」

「……」


 だがメンバーからは不評だ。でも気にしない、気にしてたらさらに厄介なことに巻き込まれる恐れもあるからな。


「ステージは一ヶ月後だから、まだ時間はある。でも、お客さんのためにも、これからのお前たちのためにも、日々全力の練習をしよう。俺も、できることならなんでもするからさ」


「ま、マネージャー」

「マネージャーさん……」

「マネージャー……」


 俺の思いが無事伝わったようで、みんな目をギラギラさせ始める。これならきっと、本番もうまくいくに違いない。


 そう信じて、俺はあいつらを全力サポートし続けた。


――――――――――

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