この度アイドルグループを担当することになりました


「え、俺がアイドルの担当ですか?」


「ああそうだ。今回新しく結成するこのアイドルグループを、甲斐、お前に任せたい」


 都内中堅事務所に入社してから三年目。新人ということで今までは既存のコンテンツしか任されてこなかった俺だが、いよいよ新規事業に携わることができることになったらしい。普段は怒られてばかりで憎たらしい上司の顔も、今日は菩薩様のように見える。


 それにしても、資料を見る限り他のグループでもすでに活動実績がある子たちなのか。見る限り人気の出そうなルックスをしているし、わざわざ新しくグループを結成するなんて期待されてるってことか?


「あ、ありがとうございます! でも、どうして俺に?」


「い、いやまぁ……わ、若い力がこのグループには必要というか、お前のコミュニケーション能力を存分に活かしてもらいたいというか……」


 あれ、なんか歯切れが悪いぞ。もしかして何か問題を抱えているってことか……どれどれ、資料の続きを——


「おっともうメンバーたちは応接室に案内しているから、早速挨拶に行ってこい。じゃ、じゃあな甲斐、期待してるぞ!」


「え、ちょ」


 半ば無理やり上司に資料を没収され、俺は唐突に任されたアイドルたちに会うこととなった。おいおい随分と無理やりなことさせるな。もしかしてさっき見た資料は虚偽で、出会い系みたいに写真と実物のギャップが酷いとかいうことないよな? だとしたらこの会社を退職することも考えないとな……いや、ないとは思いたいけど。


「ここか……よし」


 とはいえ、色々と不安こそあれど担当することになったのだから、しっかりと責任持たないとな一呼吸整えて、俺は扉を開けた。すでにアイドルたちはソファーに座っていて、じっとこちらを待っていたようだった。

 なんだ、全然写真と違うだなんてこともなかったな。みんな凄い美人だ。


「すみませんお待たせしました。初めまして、この度皆さんを担当することになりました、甲斐仁です。よろしくお願いいたします」


 俺は先に挨拶して、ぺこりとお辞儀をする。


「……へぇ、あんたがあたしを担当するマネージャーね。頼りなさそうだけど、本当に大丈夫?」


 うわ、早速この金髪の子からいびられた。まぁ、でも俺だって向こうの立場だったらそう思うかもしれないよな。


「確かにまだ三年目ということで、力不足なところはあるかもしれませんが、全力でサポートするつもりですので、遠慮なく頼ってください」


「ふーん……。ま、期待しないでおくわ。あたし有明彩未。ツイッターのフォロワーが10万超えてる人気タレントだから、このアイドルグループのエースとして期待してくれていいわよ」


 10万人超えているのか。それは確かに人気と言っても過言ではないな。


「それは凄い。じゃあアカウント確認させてもらいますね……ん?」


 嘘をつくようなタイプではなさそうだけど、一応確認がてら名前をツイッターで検索する。すると、いい評判というよりは……。


【有明彩未またツイ消ししてる笑】

【自分がブサイクとか言われてる投稿探してわざわざ喧嘩するとかしょーもねー奴で草】

【あいつのフォロワーアンチしかいない説】


 批判的な内容、いわゆるアンチコメばかり投稿されている。確かにアカウント自体は10万超えてるけど……ちょっとやばそう。


「どうかしら? 恐れおののいた?」


「え、ま、まぁ……」


 批判的な内容の多さに恐れおののいたわ。とはいえここでそのことに触れるとめんどくさいことに発展しそうなので、家に帰った後にこのことについては調べよう。


「あ、有明さんは10万人もいるんですね……わ、私なんて1万人もいないですよ……ああ、もう私はダメなんだ……このグループで活動しても、人気投票で最下位になってみんなから見向きもされなくなって事務所もクビになるんだ……もうやだストロングゼロのも」


「は!? な、なにしているんだ!」


 いきなり小柄な……確か、名前は弓田紫音だったかな、その子がカバンからストゼロを取り出して、一気に飲みだし始めた。見た目が成人に見えない幼い雰囲気のある子なのに、凶悪なストゼロなんて飲むとは……しかもなんか勝手にネガティブな妄想して自爆してるし。


 びっくりして思わず止め損ねてしまうと、弓田さんは顔を真っ赤にして、奇声をあげながらふらふらとし始める。わざわざ持ち歩いているくせに強くねぇのかよお酒!


「ふぁぁ……もうやだ人生辛すぎやば……暴れちゃおーかなーあーばれちゃーおーかーなー!」


「ふ、ふざけんなてめぇ! ふ、二人も止めてくれ」


「全く、仕方ないわね」

「……」


 なんとか三人で静止したおかげで部屋がめちゃくちゃになることは免れた。し、しっかしこいつ……見た目だけなら清楚系アイドルなのに、中身凶悪すぎだろ……。


「ふにゃぁ……ぶっころ……世の中ぶっころ……」


「寝てもなお物騒なこと言ってるし……はぁ、疲れた。あ、そうだ。牧野内さんも自己紹介してもらっていい?」


「……牧野内千秋。よろしく」


 短い自己紹介だ。でも、なぜだろう。普通なら厄介な奴だなぁと思うだろうが、すでに二人めんどくさい奴を見てしまったので、この子に関しては天使のように見えてしまう。……流石に、こいつも何か抱えているわけじゃないよな。


「よろしく。じゃあ、これから皆さんはアイドルグループとして活動していきますので、今後の予定は追ってお知らせしますね。……まぁ、想定外のこともありましたが、皆さんならきっと人気アイドルになれると思いますので、これから力を合わせて頑張っていきましょう!」


「ええ、あたしが人気アイドルグループへと導いてあげるから、期待しててよね!」


 おお、自信は凄いあるな有明さん。


「……私が一番になるに決まってんじゃん」

「ん?」

「なんでもない」


 あれ、牧之内さんが何か言った気がしたけど……気のせいか? 


「じゃあ今日のところは解散で。あ、俺の連絡先はコレなんで登録お願いしますね。弓田さんは……起きるまで俺が見ときます」


「はーい。じゃあね」

「……お疲れ様でした」


 そう言って、二人は帰宅していった。……ああ、なんか凄い疲れた。なんか、これからやっていけるかすげー不安。……だから上司が歯切れ悪かったんだろうなぁ。


 でもここで俺がサジ投げるわけにもいかないよな。よし、これから頑張ろう!


 ……なんて、意気込んでいた俺だけど。これがまだまだ序の口であることを、この時の俺は全く知らない。


――――――――――

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