第2話 遺書はどこへ
川島将兵の死は世間で驚きを持って迎えられた。著名人が亡くなったときに、テレビなどのメディアが故人を存命中の扱いよりも御大層に扱うことはしばしばみられるが、川島将兵の場合はその度合いがずば抜けて大きかった。
お笑いの世界やその周辺の業界では確固とした評価を受けていた「ガチョウ倶楽部」であったが、そのイジられがちな芸風や「お約束」と称される決まりきったギャグには、一般大衆や素人には「いつでもそこにいるが、トップランクではないバイプレイヤー」という軽く見られる要素があった。
しかし、川島将兵の突然の死はそのショックでもって、川島たち「ガチョウ倶楽部」のギャグやいわゆる「お約束」が自分たちの生活言語や会話に溶け込んで日常化していることを世間や大衆に電光石火的に思い知らせた。
川島将兵の死が知らされたとき、世間やメディアは一変にその思考力を失い、感傷に浸った。
その死がどうやら自殺であるらしいことは、一部のメディアや放送局によって初報で知らされた。「自殺」ということを初めから明示しない放送局もあった。
その時、川島将兵が死に至った、死を選んだ理由をあれこれと推察するような報道やテレビコメンテーターの発言はあったが、川島将兵が死にさいして残したメッセージがあったのかどうか、ということを議論する、また追究する報道はいっさい見られなかった。ただ、ひたすら川島将兵の死を悼むことに時間が費やされた。
そしてこの時、まさに川島将兵が残した、「彼が死を選んだ理由」を知る者は静かに息を潜め、表情のない表情を浮かべてただひたすらに耳を澄ませていた。
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