第2話

なぜ、通所する施設を『リワーク漣』にすぐに決めたかは記憶していない。

今は取り壊しをしている駅ビルの5F休憩所からフリーダイヤルで電話をかけた。

2コール目だった。

「お電話ありがとうございます、リワーク漣、訓練生の安本でございます」

元気な声で、訓練生って何?と思ったが、ここは負けまいと、

「初めてお電話をさせていただきます、三嶋と申します、施設見学をさせていただきたくて…」

僕の敬語の限界なんてすぐにやってきたと落ち込んでいたら、

「見学希望の方ですね、スタッフに代わりますのでもう1度お名前をお願いいたします」

と、問われた。

10秒ほどの保留音の後、センター長と名乗る声の若い男が電話口で挨拶をしてきた。

「お待たせいたしました、センター長の齊藤と申します、三嶋様、お電話ありがとうございます、見学をと伺っておりますが、いつ頃がご希望などお有りでしょうか?」

「出来れば早い方がいいのですが…」

「それでしたら、本日の14時からでしたら空いておりますが」

「その時刻でよろしくお願いいたします」

「それでは14時にお待ちいたしております、弊社の場所はご存じでしょうか?」

「なんとか分かります」

僕はひどく緊張していて、そんなやり取りだった。

そして、この時はまだ、1カ月で旧職場に復帰することを疑っていなかった。

また、1年余りの人生のひとときを過ごす友人たちが出来ることも、想像できるはずもなかった。


迷いながらもリワーク漣に着き、個室に通され、上座にある緑色の長いソファーに座った。センター長から施設の説明をされ、その後、部屋を出て見学をした。

施設はビルの一室で、綺麗だったが、正直そんなことはどうでもよかった。

20人以上が入るであろう大きめの部屋には1枚のホワイトボードと輸入家具で揃えてある机と椅子がたくさんあった。

横の壁に目をやると黒板があり、


 《プログラム》

  ・月 コミュニケーション

  ・火 ビジネススキル

  ・水 ストレスコントロール

  ・木 体力づくり


と、白チョークを使用して手書きで書いてあった。

センター長は、午前が個別訓練で、これが1週間の午後プログラムになります、慣れるまでは全部出る必要はありませんよ、と言った。

その後、最初の個室に戻り、いかがでしたか?と問われたので、綺麗な所ですねと答えた。

センター長は笑顔で、

「そうでしょう、福祉施設には見えないって、よく言われるんですよ」

と言った。

僕の年収から計算して、ひと月の利用料が9,500円程度になることを聞き、高いなと思ったが、すぐに契約を交わした。

「他社でも全く構いません、考えられてからでもいいですよ」

そう言われたが、僕は奇跡的に認印を持っていた。


「1カ月で復職したいんですが」

と話すと、センター長齊藤さんは、

「それは無理だと思います」

とはっきりと言い放った。

通所開始直後、僕はその言葉を理解した。

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