膝っ小僧を叩きながら

@akinokoto

第1話

夕暮れはまさに連続である。

帰路でのJRの車窓はそのようで、開けられないガラス窓は完璧に僕の胸から上を映し出していた。

各駅停車での快晴の夕刻は当然のごとく瀬戸内海の島々を美しく染めたが、浮かぶ自動車運搬船が悲しく見えたのは隣に座った乗客がちゃんとした勤め人だったからに違いない。

その人は、僕が大切にしている、アウトレットで買った裏地が青のコートの裾が左大腿に触れるたびに嫌な顔をした。握り締め過ぎて持ち手がボロボロになった黒い鞄が当たると、今度は避けていった。


僕はといえば、まだ僅かな勤め人だった。平成30年10月1日付で採用され、新職場での勤務が始まったばかりだったからだ。


この1年半弱の間、前職場を休職して、民間福祉施設に通所した。そこは、メンタル不調者や休職者の職場復帰・再就職をサポートする事業所だった。

楽しくはなかったが仕方がなかった。

40歳の、職場に行くことを考えるだけで足が震える妻子持ちが毎朝行く場所など到底見つからなかったからだ。


平成29年7月中旬、受診している心療内科の主治医から、リワークの施設を紹介していただいた。3社のパンフレットを提示され、

「そろそろ行かれてみませんか?立場的にどちらをお勧めということはないんですが」

と一言を添えられた。

数々の精神科と心療内科を転々としてきた経験から、今回の主治医の言葉と投薬を僕は現在も信じている。

「先生、そんな施設があるんですね、無知で申し訳ありませんが料金は高いのでしょうか?」

いつも通り乏しい声量で伺うと、

「料金は収入によって変わると変わると思いますが、ビックリするほどではないと思います」

と返答をくださった。

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